第7話 マール


マールの拳が、空気を切り裂いて迫った。


「くっ……!」


マークはすんでのところで躱す。だが、拳が掠めただけで、背後の壁が粉々に砕け散った。


「……冗談だろ、これ」


「サーユとウーユの合体形態。単純出力は、二体分を大きく上回る」


マールが淡々と告げる。


「排除する」


再び拳が振るわれた。マークは今度こそ真正面から受け止めようとして――


「マーク! 避けろ!」


背後から、ビビットの声。


言われた瞬間、マークは横に跳んだ。


拳が地面をえぐる。轟音とともに、粉塵が舞い上がった。


「……本気で受けたら、やばかったな」


「馬鹿! 今のは受けたら腕がもげるやつだ!」


満身創痍のはずのビビットが、それでも声を張り上げて叫んでいる。


その声に、マークは小さく笑った。


「サンキュー、相棒」


***


とはいえ、状況は厳しかった。


マールの攻撃は速く、重い。まともに打ち合えば、こちらの拳が先に砕けそうだった。


「ちっ……」


三発目の拳を紙一重で避けたところで、マークの息が上がり始める。


その時――


「ビビ……ビビビーッ!!」


ビビットが、震える体を無理に起こして電撃を放った。


バチィッ!!


わずかな電流が、マールの目にあたる。大したダメージではなかったが――一瞬、視界を塞いだ。


「今だ!」


マークがその隙を逃さず踏み込む。


「うおおおおおっ!!」


渾身の右ストレートが、マールの胸部に突き刺さった。


ドゴォォンッ!!


轟音とともに、マールの巨体が後方へ吹き飛ぶ。


しかし――


「……この程度」


マールはすぐに体勢を立て直した。装甲に亀裂は入ったものの、まだ余裕がある様子だった。


「くそ、硬えな……」


マークは拳の痛みに顔をしかめた。


***


「聞け、人間」


マールが、静かに告げた。


「お前がどれだけ暴れても、無駄だ。この施設は、演算のクリスタルによって管理されている」


「演算の……クリスタル?」


「全ての行動、確率、未来を計算する力。この星唯一の支配者――アルゴ様の力だ」


マークの頭に、白装束の男が言っていた言葉が蘇った。


――七つに分断された世界に存在する、七つのクリスタル。


「……それだ」


マークは拳を握り直した。


「そのクリスタル、俺がもらうぞ」


「――身の程を知れ」


マールが再び踏み込んでくる。


マークは今度こそ真正面から受け止めた。


拳と拳がぶつかり合う。


ミシリ、と骨が軋む音がした。


「ぐ、うぅぅ……!」


痛みに顔を歪めながらも、マークは足を踏ん張った。


――ここで、退くわけにはいかない。


――ビビットが、見てる。


その一心で、渾身の力を込めて押し返した。


***


「うおおおおおおおっ!!」


マールの拳を弾き返し、マークは全体重を乗せた一撃を叩き込んだ。


ドゴォォォォンッ!!


マールの体が、大きく後方に吹き飛んだ。そのまま、洞窟の壁を突き破り――外へと転がり出ていく。


「……逃すか!」


マークは崩れた壁の穴から飛び出した。


そこは――地上。テーマパークの、人気のない裏手だった。


夕暮れの空の下、崩れ落ちたマールが、ゆっくりと立ち上がろうとしている。


「まだ、やる気か」


マークが拳を構えたその時――


天から、影が差した。


「――そこまでだ、マール」


冷たい声とともに、ゆっくりと空から舞い降りてきたのは、機械の翼を持つ人型の存在だった。


赤く発光する瞳が、マークを見下ろす。


「アルゴ様……」


マールが、その存在に向かって跪くように言った。


アルゴ――と呼ばれたその存在は、静かにマークを見据えた。


「マーク・ヒューマン。行動確率分析、完了」


「……なんだよ、お前」


「この世界の管理者。そして――お前を排除する者だ」


アルゴの手のひらに、青白い光が集まり始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る