幕間 捨て台詞


フラワーの国を歩き始めて、しばらく経った頃だった。


「なあ、ビビット。この国、本当に、何かおかしいよな」


マークが、周囲の虚ろな国民たちを見渡しながら呟いた。


「ああ。王宮に、近づいてみるか」


***


二人が城壁沿いの道を進み始めた、その時――


「――止まれ」


低い声とともに、大柄な影が、行く手を塞いだ。


「な、なんだよ、お前」


マークが、身構えた。


***


「ブグン、だ」


男は、拳を打ち鳴らしながら、静かに名乗った。


「この先へ、部外者は通さねえ」


「悪いが、通してもらうぜ」


マークも、拳を握りしめた。


***


「――上等だ」


ブグンが、地を蹴った。


「うおおおおおおっ!!」


正面から放たれた拳を、マークは真っ向から受け止めた。


ドゴォンッ!!


***


轟音とともに、両者の腕が、同時に痺れた。


「……硬えな、お前」


マークが、僅かに驚いた顔で呟いた。


「そりゃ、こっちの台詞だ」


ブグンもまた、獰猛な笑みを浮かべた。


***


「ビビット、下がってろ!」


「マーク、無理すんなよ!」


ビビットが叫ぶと、マークは不敵に笑った。


「大丈夫だ! こいつ、面白えぞ!」


***


拳が、幾度も交錯する。


「うおおおおおおっ!!」


「まだまだ!!」


殴っても、殴っても、互いに一歩も引かない。


大地が、二人の踏み込みのたびに、震えた。


***


「へへ……ガキのくせに、いい拳してるじゃねえか」


ブグンが、口の端に血を滲ませながら笑った。


「お前もな! この図体で、その速さは反則だろ!」


マークも、荒い息の合間に、笑い返した。


***


殴り合いは、次第に熱を帯びていった。


拳を交わすたびに、互いの実力を、確かに認め合っていくような――そんな、不思議な高揚感が、そこにはあった。


「もっと、来い!」


「言われなくても!!」


***


ブグンの拳が、大きく振りかぶられた。


「これで、決めさせてもらうぜ!」


渾身の一撃が、マークの顔面へと迫る。


避ける力は、まだ残っていた。だが、マークは、真っ向からそれを受け止めようと、拳を構えた。


***


その拳が、当たる寸前――


「――ぎゃああああああっ!!」


王宮の方角から、鋭い悲鳴が響き渡った。


「な……!」


ブグンの拳が、ぴたりと止まった。


***


「……あの声」


ブグンの表情が、一瞬にして険しくなった。


「兄貴……!」


その呟きに、殺気が消えていく。


「――なんだよ、急に」


マークが、戸惑いながら問うた。


***


「――続きは、また今度だ」


ブグンは、拳を下ろし、身を翻した。


「お、おい! 待てよ!」


マークが呼び止めたが、ブグンは足を止めなかった。


***


走り去りながら、ブグンは、最後に振り返った。


「――ガキは、帰って」


嘲るような笑みを浮かべ、続けた。


「マンマの乳でも、吸ってな」


***


その言葉を最後に、ブグンの姿は、王宮の方角へと消えていった。


「……は?」


マークは、しばらく、その場に立ち尽くしていた。


***


「――てめえええええっ!!」


ようやく言葉の意味が飲み込めた瞬間、マークの怒声が、辺りに響き渡った。


「なんだよ、あいつ! 誰がガキだ、誰が!!」


***


「マーク、落ち着けって……」


ビビットが、苦笑いしながら宥めた。


「落ち着けるかよ! 絶対、後で殴る……! ぜってえ、殴ってやる……!」


拳を握りしめ、ぶつぶつと呟き続けるマークの姿に、ビビットは、思わず笑ってしまった。


***


「まあ、悪いけど……ちょっと似合ってたぞ、今の顔」


「うるせえ!!」


その怒りを引きずったまま、二人は、王宮へと続く道を、再び歩き始めた。

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