クリスタル・セブン ―7つの世界と分断の神―

イミハ

クリスタル▪️セブン本編 マーク&ビビットの旅編

第0話 世界が、揺れた。

世界が揺れた。


誰も気づかなかった。


大地が割れたわけでもない。

空が落ちてきたわけでもない。

海が逆流したわけでもない。


ただ、ほんの一瞬。


世界そのものが、


「そこにあること」を忘れた。


――それだけだった。


◇


異世界の、とある場所。


誰もいない荒野に、一枚の葉が落ちた。


風はない。


それなのに葉は宙を舞い、何かに導かれるように空へ昇っていく。


一枚。


二枚。


三枚。


やがて無数の葉が空へ吸い込まれていく。


その先には、何もない。


青い空だけ。


……いや。


よく見ると、


空に亀裂が入っていた。


まるで巨大なガラスに、誰かが指を添えたような細い亀裂。


それは音もなく広がっていく。


一本。


二本。


三本。


そして――


消えた。


何事もなかったかのように。


◇


別の場所。


巨大な街では、人々がいつも通り暮らしていた。


店を開ける者。


道を歩く者。


笑う者。


喧嘩する者。


泣く者。


誰も知らない。


その街の時計が、


一秒だけ、


逆回転したことを。


「……ん?」


時計を見上げた男が首を傾げる。


だが、すぐに興味を失った。


気のせいだ。


そう思った。


きっと誰もがそう思った。


世界は、そんな小さな異常をいちいち説明してくれない。


◇


さらに遠く。


海の底。


深い、深い闇の中で、


何かが目を開けた。


それは生き物だったのか。


石だったのか。


あるいは、


世界そのものだったのか。


誰にも分からない。


ただ、


海底に沈んでいた何かが、


ゆっくりと、


動いた。


その瞬間。


海面に、


見たことのない波紋が広がった。


◇


そして――


現実世界。


午後五時十三分。


東京。


どこにでもある公園で、


一人の少年が空を見上げていた。


友達の笑い声。


自転車のベル。


遠くを走る車。


夕方の風。


何も変わらない。


いつもの世界。


いつもの一日。


少年は空を見上げる。


雲の隙間から、


一筋の光が差し込んでいた。


綺麗だった。


だから、


少年は笑った。


その瞬間だった。


――バチッ。


空が鳴った。


雷だった。


だが、


雨は降っていない。


少年が目を細める。


光が、


一瞬だけ強くなる。


そして――


世界が白く染まった。


◇


同じ頃。


世界のどこかで、


一人の老人が空を見上げていた。


「……始まったか」


誰に言うでもなく、


そう呟いた。


その目に映っているのは、


空ではない。


何か別のものだった。


遠い。


遥か遠い。


この世界の外側。


そこから、


何かがこちらを見ている。


そんな気配。


老人は目を閉じる。


そして、


小さく笑った。


「世界というものは……」


一拍。


「壊れる時ほど、静かなものだ」


◇


現実世界。


少年が消えた。


誰も気づかなかった。


公園にいた子供たちは遊び続けている。


母親たちは話をしている。


犬は吠えている。


夕日は沈んでいく。


世界は何も変わっていない。


ただ一つ。


少年がいた場所に、


小さな光の粒が落ちていた。


それは地面に触れることなく、


ふわりと宙へ浮かび、


空へ消えていった。


まるで、


「帰る場所」を探しているように。


◇


その夜。


世界中で、


ほんの小さな異常が起きた。


止まった時計。


一瞬だけ消えた街灯。


誰もいない場所から聞こえた声。


夢の中で見たことのない景色。


存在しないはずの星。


そして、


誰も知らない言葉を呟いた子供。


誰も気にしなかった。


ニュースにもならなかった。


記録にも残らなかった。


けれど、


世界は確かに、


少しだけ変わっていた。


異世界で起きたことが、


現実世界に触れた。


ほんの指先ほど。


ほんの一瞬。


それでも――


一度触れてしまったものは、


もう、


完全には離れない。


◇


夜空に月が浮かぶ。


その月を、


どこか遠くの世界から見上げる者がいる。


こちらからは見えない。


向こうからも、


きっと見えてはいない。


それでも、


世界と世界の境界には、


確かに一本の線が引かれていた。


その線が、


ゆっくりと、


ゆっくりと、


薄くなっていく。


そして――


誰も知らない場所で、


七つの光が、


同時に瞬いた。


――世界はまだ、何も知らない。


――少年も、まだ何も知らない。


――けれど。


物語は、


もう始まっている。


これは、世界が壊れる物語ではない。


世界が、繋がってしまう物語だ。

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