一度は怪異から逃れられたはずなのに、妻の提案をきっかけに、再び写真を撮ってしまう。しかも、まだ「避ける方法」は残されていたのに、写真館の店主から念を押されていた現像の条件を、当人たちはすでに覚えていない。そしてコンビニで現像された写真に現れた異常をなぞるように、家族が一人ずつ悲惨な最期を迎えていく。
特に怖いのは、「知らなかったから避けられなかった」のではなく、避けるための手段そのものは提示されていたのに、それを思い出せないというところです。何をしても間に合わないように感じさせる圧倒的な理不尽さが、怪異を「逃げられないもの」として強烈に印象づけています。
そして、ここからはあくまで私の深読みです。もしかすると怪異は、呪物そのものだけでなく「現像」という回避のための行為まで仕組みに組み込んでいるのではないでしょうか。現像の条件を守ることが回避につながる一方、それを知らないまま所有し続けた者には、より致死的な形で呪いが作用する。写真館の存在や、そこで聞いたはずの条件に関する記憶まで失われていることを考えると、そんな仕組みさえ想像してしまいます。
もちろん真相は本文に明言されていません。だからこそ、読み終えたあとにも「では、あの写真館は何だったのか」「なぜ現像条件だったのか」と考え続けてしまう。恐怖そのものだけでなく、読後に自分なりの解釈を組み立てたくなるところまで含めて、非常に印象に残る怪異譚でした。
家族。一般的な家族。
縁あって結ばれた男女が、結婚して子供に恵まれ。
すくすく育つ1男1女。うれしい成長の喜びが届く。
まさに絵に描いたような、幸せの絶頂。
だから要注意なのです。そんな一瞬こそ、警戒しなければ。
邪悪なものは、ぽっかりと口を開けて、待ち受けているから。
パシャリ、パシャリ。そのほかいろいろな音とともに。
崩れていく、失われていく。ただ受け取ったばかりに。
でも第1話に。既に主人公に。その予兆はちゃんと、あったような気もするのです。
ポトリ、あふれる。
怖い、悲しい、苦しい、やるせない、切なく美しい。
いろいろな感情に襲われる贅沢なホラー、ぜひお読みいただきたい作品です。
「現像しないでくださいね。」
――その言葉を、どうか忘れないでください。
始まりは、一台の古いカメラ。
ほんの少し奇妙で、ほんの少し気味が悪い。
けれど最初はまだ、引き返せそうに思えるのです。
パシャリ。
ただ写真を撮っただけ。
ただ、大切な家族との幸せな瞬間を残しただけなのに。
なのに全4話を通して、日常の中へ説明のつかない「何か」が少しずつ入り込み、逃げ道を塞ぐように恐怖が積み重なっていきます。
怖いのは、怪異そのものだけではありません。
――気づいた時にはもう遅い。
――理由も分からない。
――どうすれば止められるのかも分からない。
その理不尽さが、とにかく怖い。
そして印象的なのが、作中で響く「音」。
最初は何気なく聞こえたはずの音が、物語が進むほどに不穏な意味を帯びていく。
いつの間にか私は、次の音が来ることそのものを怖がっていました。
そして第4話まで読み終えたあと、
もう一度、タイトルを見てください。
『現像しないでくださいね。』
最初に見た時とは、きっとまるで違う言葉に見えるはずです。
物語は完結したはずなのに、恐怖だけは終わってくれない。
静かで、理不尽で、容赦のない不条理ホラー。
皆様。
その一枚を――
どうか、現像しないでくださいね。