本が読めなくなった小説家・文乃が、訪問看護師・佐伯の不器用な小説には、黙っていられない。容赦のないツッコミと、それを妙に素直に受け止める佐伯のやり取りに、何度も笑いました。文章を書く人なら、佐伯の原稿に少し身に覚えがあるかもしれません。
特に好きなのは、勢いよく動いていた赤ペンが止まる場面です。椀を両手で持つ仕草や、卵を持ち直す指先。説明を重ねる代わりに、人物の動作から情景が浮かぶ。その変化を、文乃と一緒に味わえるのが面白いです。
そして、読めた日のあとにも、読めない日がある。原稿を読んでほしい佐伯の気持ちも、今日は読むのをやめたい文乃の気持ちも、置き去りにしないところに惹かれました。
二人の間に置かれた原稿が、これからどう変わっていくのか。文章だけでなく、それを渡す手、受け取る手の動きまで追いたくなる作品です。