令和・死神 -なんか緊張感のない怖い話-

伏見翔流

その一 「菩薩? 殴ったるわ!」

(無職の二人組・拓真たくま和馬かずまは気怠そうに歩いている。

拓真は酒缶に咥え煙草、和馬も咥え煙草をしながら、

退屈を顔に書いたような表情で足音を並べている。)



和馬「あーあ。なんかおもろい事あれへんかなぁ。」

拓真「あれへんかなぁ。」

和馬「やることあれへんなぁ。」

拓真「やーることあれへんなぁ。」

和馬「拓真なんか一発ギャグやれや。」

拓真「こないな所でやったら近所んガキの笑いものやろ。」

和馬「しゃあないやろ退屈なんやから。」

拓真「お前の退屈なんか知るかい。それにしてもほんまにやることあれへんなぁ。」

和馬「女でも呼べや。」

拓真「どこにおんねん。」

和馬「俺が家戻ってメイドコスしたるわ。」

拓真「そんなんで満足出来たらとっくにお前抱いとるわ。」

和馬「ほならラブホ行こや抱いたるわ!」

拓真「しばくぞ。」



(ダラダラと喋りながら歩いていく二人。

溜め息と共に煙を吐きながら、

町を行き交う人々の横顔を眺めていた。)



拓真「俺らも就活せなあかんのかなぁ。」

和馬「ええやん別に。もう一年遊ぼうドン!」

拓真「どこの太鼓の達人や。お互い21とはいえさすがに危機感持てぇや。」

和馬「危機感持っとったらお前とこないなことせぇへんわ。」

拓真「不意打ちの正論やめぇやアレルギーやねん。」

和馬「都合のええアレルギーやなぁ。全社会人にケツしばかれるで。」

拓真「なんでケツやねん。」

和馬「お前のケツ、叩くとえぇ音するやん。ケツパーカッション言うてなぁ!」

拓真「無視の方向で。」

和馬「ひどいなぁ。男の嫉妬は怖いでぇ。」

拓真「あ━━━━━━━酒切れた。和馬ぁ酒買うて来てぇ。」

和馬「ええよ。ほなら500円くれや。」

拓真「なら自分で買うわ……。」



(歩き続けること数十分。

ふと近くの道端に怪しい地蔵のようなものを見つけ、

二人は足を止める。)



和馬「おい。」

拓真「あぁ?」

和馬「アレなんや……?」



(近づく二人。)



拓真「何や? 地蔵かいな?」

和馬「地蔵にしてはなんかけったいな見た目やなぁ。」

拓真「この不景気の令和の闇を終わらすための神頼みかなぁ?」

和馬「神様が不景気を解決できるかい。」

拓真「あ、でもデータ上じゃあ好景気らしいなぁ。」

和馬「ほなら不景気祓いちゃうか……って生活は不景気みたいなもんやろがい!」

拓真「え? それホンマなん? 情報入らんくて困るわぁ。」

和馬「ニュース見んかいこのドパガキ!」

拓真「それにしてもこんなとこに置かんといてやホンマに。車の邪魔になることやら考えへんのか。」

和馬「神頼み言うても、まず他人の事から見直せやなぁ。」



(しばらく眺めている二人。

その時、拓真が何かをひらめき口角を上げる。)



拓真「和馬ぁ、おもろいこと考えた。」

和馬「なんや?」

拓真「この地蔵? 菩薩? 今から殴ったるわ!」

和馬「……は?」

拓真「こんなとこ置いといても邪魔なだけやろ?」

和馬「はぁ……」

拓真「せやから俺が自慢の酔拳つこてぶっ壊すんや!」

和馬「……アホなんかなぁこの人」

拓真「和馬! カメラ回せぇ!」

和馬「え? なんて?」

拓真「俺の自慢の酔拳をSNSにあげるんや!」

和馬「うせやろ?」

拓真「そしたら俺は一気に有名人の仲間入りっちゅうワケや!」

和馬「犯罪者の仲間入りや。」

拓真「あー俺ってホンマ天才やなぁ!」

和馬「拓真。それ天才やないアホや。アホの極致や。」

拓真「いくで~! 俺の酔拳! とくと見いや!」

和馬「無視の方向で。」

拓真「いざ! 尋常に勝負!」

和馬「地蔵も気の毒やなぁホンマ。」



(酔った勢いの蛮行を無視する和馬。

それも他所に、拓真は地蔵のようなものを勢いよく蹴り上げた。)



拓真「ラッキーストラ━━━━━━イク!」

和馬「いや殴らへんのか━━━━━━い!」

拓真「しゃーい! 気持ちええ!」

和馬「殴るんちゃうんかいお前ぇ!」

拓真「石の塊殴ったら痛いやろ。猫でも分かるで。」

和馬「猫はこないなもんそもそも気にせんわ。」

拓真「それもそうやんなぁ。」

和馬「あーあこないになってもうて……俺は知らへんで。」

拓真「あーさっぱりした。家帰って屁こいて寝よ。」

和馬「なんでいちいち屁ェこかなあかんねん。」

拓真「和馬ぁ酒買うてきて~」

和馬「自分で行けやバカ。」

拓真「バカ言うた! 二度も言うた! オトンにも言われたことないのに!」

和馬「二度は言うてへんやろ。巻き戻して確認せぇ」



(無残な姿になってしまった地蔵を放置して帰ろうとする二人。

その時、不意に背後から誰かの声が聞こえた。)



死神「何しとんねんこのドアホ━━━━━━!」



(聞き慣れない声に振り返る二人。)



和馬「えぇ? なに?」

死神「何してくれとんじゃドアホがぁ! しばくぞガキぃ!」

和馬「おい拓真……なんか、ヤバない?」

拓真「……え? 誰かいるん?」




◇(その二に続く。)

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