第2話 毒蛇姫、城外へ
痛い。
まず、それだった。
「……痛い」
目が覚めてから、ずっと気になっていた。
右足の小指。
何かにぶつけたような、妙に現実的な痛みがある。
「夢…じゃないのかな」
そう呟いて、カリナは周囲を見回した。
見れば見るほど、現実離れしている。
広い部屋。
豪華な家具。
窓の外には見たこともない街並み。
そして、自分が着ているのは、どう見ても普通の服ではない。
「こんな映画…どっかで見たかな~?」
まあ、いい。
夢なら夢でいい。
せっかくだ。
ちょっと遊んでみよう。
そう思って歩き出した。
すると、廊下の向こうから兵士が歩いてくる。
カリナは、その兵士をじっと見た。
「おい!」
「はっ!」
「魚の目!」
「ぐぁーっ!」
兵士は突然、胸を押さえてその場に崩れ落ちた。
「え?」
カリナは目を丸くする。
兵士は床を転げ回っている。
「あはははは!」
何これ。
面白い。
しばらくすると、別の兵士がやって来た。
カリナはその兵士を見上げた。
「でぶー!」
「…っ!」
兵士は白目をむいた。
そして、
泡を吹いて倒れた。
「あははははは!」
カリナは腹を抱えて笑った。
「何これ! 最高じゃん!」
なるほど。
どうやら自分は、かなり強いらしい。
…口だけで。
「毒蛇姫……」
ふと、先ほど聞いた言葉を思い出した。
毒を吐く。
毒蛇。
「もしかして…毒舌ってこと?」
カリナは少し考えた。
「いや、まさかね」
でも、目の前で二人も倒れている。
「…たぶん、それだわ」
カリナは納得した。
そして窓の外を見る。
「おお…」
城は高台に建っていた。
その下には大きな城下町が広がっている。
人が歩き、店が並び、遠くには畑らしきものまで見える。
「行ってみよ」
問題は、このドレスだった。
「動きづらい!」
裾を持ち上げてみる。
「これじゃ走れないじゃん」
近くにいた兵士を呼んだ。
「ねえ」
「は、はいっ!」
「もっと動きやすい服持ってきて」
「か、かしこまりました!」
しばらくして、軽装が届けられた。
着替えたカリナは、意気揚々と城門へ向かった。
しかし。
「姫!」
「姫様!」
「お待ちください!」
なぜか、城門の前には大量の兵士がいた。
その中央には、立派な鎧を着た男。
「姫! 城外に出てはいけません!」
「なんで?」
「危険だからです!」
「別にいいじゃん」
「いけません!」
男は両手を広げ、完全に通せんぼしている。
カリナは眉をひそめた。
「…うるさい」
「姫?」
「そこどけ!」
「なりません!」
「おっさん!」
「ぐぁぁぁぁ!」
男は突然、膝から崩れ落ちた。
「おお…」
カリナは感心した。
「やっぱりこれ便利だな」
将軍らしき男は、床を転げ回っている。
「あはは!」
カリナは笑った。
「ばーか!」
「ぐっ……!」
追撃だった。
将軍はそのまま失神した。
「姫を止めろ!」
別の男が叫んだ。
次の瞬間。
「うわっ!」
背後から腕を掴まれた。
「しまった!」
羽交い絞め。
さらに別の兵士が口に何かを押し当てる。
猿ぐつわだった。
「んーっ! んーっ!」
しまった。
言葉が使えない。
そして何より
カリナには、そもそも大した腕力がなかった。
「んんーっ!」
あっけなく捕まった。
その瞬間だった。
カリナの瞳が、ふっと光った。
白っぽく。
桃色っぽく。
ラメが入ったような、キラキラした光。
それが、
瞳から一直線に飛び出した。
「……?」
光を見た将軍の身体から、力が抜けた。
へなっ。
兵士も。
へなっ。
また一人。
へなっ。
「…え?」
カリナは猿ぐつわを外した。
そして、自分の目を指差した。
「なにこれ?(笑)」
誰も答えない。
全員、床に転がっている。
カリナは笑った。
「クズのバカめらが!」
また一斉に悶絶した。
「あははははは!」
カリナは笑いながら城門を抜けた。
そして―
スキップした。
「城下町~♪」
夢なのか。
現実なのか。
そんなことは、もうどうでもよかった。
楽しい。
それだけで十分だった。
しばらく歩いたところで。
「あっ!」
足元の石に躓いた。
「きゃっ!」
べたん。
「いたーっ!」
膝を押さえる。
「……」
カリナはしばらく黙っていた。
そして、膝を撫でながら呟いた。
「……リアルに痛いんだけどー?」
その顔から、笑みが少しだけ消えた。
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