目覚めたら毒蛇姫だったので、今日も好き勝手に生きています

肩に雪粉

第1話 目覚めたら王女だった

 目が覚めた。


「、、、ここ、どこ?」


 知らない天井だった。


 身体を起こして辺りを見回す。


 広い部屋。


 大きな窓。


 見たことのない家具に、やたらと豪華なベッド。


「…夢?」


 そう思った。


 どう考えても自分の部屋ではない。


 でも、不思議と怖くはなかった。


 夢なら、まあいい。


 私はベッドから降り、部屋を出た。


 長い廊下が続いていた。


 壁には大きな絵画。


 床には赤い絨毯。


 窓の外には、見たことのない街並みが広がっている。


「お城、、?」


 どうやら私は、とんでもない夢を見ているらしい。


 しばらく歩いていると、二人の兵士と出会った。


 兵士たちは私を見るなり、慌てて道の端へ寄った。


「カ、カリナ姫!」


「お、おはようございます!」


 二人とも、ものすごく丁寧に頭を下げる。


「おはよー」


 私も普通に挨拶した。


 すると二人は、さらに深く頭を下げた。


「……?」


 なんだろう。


 私、そんなに偉い人なのかな。


 そのまま歩いていると、また別の兵士とすれ違った。


 やっぱり頭を下げる。


 その兵士は、私と目が合った瞬間、少し震えていた。


「何で震えてるの?」


「い、いえ! 何でもございません!」


 逃げるように去っていった。


 変なの。


 でも夢だ。


 夢なんだから、細かいことは気にしなくていい。


 そう思って、さらに城の中を歩き回った。


 しばらくして、私はなんとなくこの城のことが分かってきた。


 ここには王様がいる。


 女王様もいる。


 そして私は、、


「王女、、」


 どうやら私は、この国の王女らしい。


「へえ……」


 夢の中とはいえ、王女か。


 なかなかいいじゃない。


 せっかくなら、王女らしく好き勝手やってみよう。


 そう思って歩いていると、近くから兵士たちの話し声が聞こえてきた。


「しかし、今日のカリナ姫はご機嫌そうだったな」


「……ああ」


「どうした?」


「いや、、姫が機嫌のいい日は、それはそれで怖いんだよ」


「お前、声が大きい」


「す、すまん……」


 私は足を止めた。


 私の話?


 少しだけ耳を澄ます。


「カリナ姫は、この国随一の戦士だ」


「知ってる」


「負け知らずだ」


「それも知ってる」


「それに、、」


 兵士が声を潜める。


「鋭いナイフのような攻撃を放ち、口から毒を吐いて相手を倒す」


「……」


「他国では、あの御方を、、」


 兵士は周囲を確認してから、小さな声で言った。


「毒蛇姫と呼んでいる」


「……私?」


 思わず声が出た。


 兵士たちが一斉に振り返った。


「ひっ……!」


 全員が固まった。


 私は首を傾げる。


「まあ、夢だしね」


 そのまま歩き出した。


 なんだか楽しくなってきた。


 どうせ夢なら、王女としてやりたいことを全部やってみよう。


 そう思いながら歩いていると、大きな扉が見えてきた。


 何となく開けてみる。


 その先には、広大な空間が広がっていた。


 大勢の兵士。


 そして奥には、立派な椅子に座った男性と女性。


 たぶん、王様と女王様だ。


 男性が私を見る。


 そして、とても穏やかな声で話しかけてきた。


「おお、カリナ姫。ご機嫌はいかがかな?」


 ゆったりとした、丁寧な声。


 でも、


 誰?


 私はしばらく男性の顔を見つめた。


「……アンタ誰?」


「ぐっ……!」


 王様が胸を押さえた。


「や、やめてくれ……カリナ姫……」


「え?」


「俺にまで毒を吐くのは……」


 王様が苦しそうにうずくまる。


「ちょ、!」


 周囲の兵士たちが一斉に騒ぎ始めた。


「陛下!」


「医師を!」


「姫様の毒だ!」


「何で!?」


 私には何が起きているのか、さっぱり分からない。


 隣を見る。


 女王様は泣いていた。


「あなた……カリナ……」


「いや、だって誰だか分からないし……」


 困った私は、すぐ横に立っていた兵士に声をかけた。


「おい!」


「は、はいっ!」


「ハゲのおっさん!」


「…………」


 兵士が白目をむいた。


 そのまま倒れた。


「へ?」


 広間が静まり返った。


 私は倒れた兵士を見る。


「……大丈夫?」


 誰も答えない。


 ただ、そこにいる全員が怯えた目で私を見ていた。


「……」


 なんとなく分かった。


 もしかして。


 私って、、


 めちゃくちゃ怖がられてる?


 でも、まあ。


 夢だし。


 その後も私は城の中を好き勝手に歩き回った。


 気になる部屋があれば入った。


 美味しそうな料理があれば食べた。


 兵士を見つければ話しかけた。


 そのたびに、みんなが怯える。


 でも私は楽しかった。


 王女様。


 なんて素敵な響きだろう。


 こんな夢なら、ずっと見ていたい。


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ふと歌いたくなった。


 地球で昔から知っている歌。


 誰もいない廊下で、私は小さな声で歌い始めた。


「♪♪」


 歌い終わる。


 ふと見ると、少し離れたところにいた使用人が立ち止まっていた。


「……?」


 その人は、目を潤ませている。


「す、素晴らしい歌でございます……」


「そう?」


「はい、、聞いたことのない歌でした」


「そうなんだ」


 私は少し笑った。


 ただの歌なのに。


 まあ、夢の世界だから何でもありなのだろう。


 そう思いながら歩き出した。


 その瞬間、、!


「痛っ!」


 足の小指を、壁の角に思い切りぶつけた。


「いったぁ……!」


 しゃがみ込む。


 小指を押さえる。


 ズキズキする。


「……」


 涙が出そうなくらい痛い。


 しばらくその場で動けなかった。


 そして。


 ふと、顔を上げた。


「…………」


 夢なのに。


 こんなに痛い?


 私は小指をじっと見つめた。


「……あれ?」


 初めて。


 ほんの少しだけ。


 この世界を夢だと思うことに、疑問を持った。

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