第十九話 戻るための条件

第十九話 戻るための条件


若月千鶴(わかつき ちづる)から連絡が入ったのは、PCコータローを訪れてから四日後の午前中だった。


大崎公太郎(おおさき こうたろう)は店のカウンターで、持ち込まれたノートパソコンの裏蓋を外していた。


冷却ファンの周囲には、細かな埃が隙間なく詰まっている。


「これじゃ熱も逃げんわな」


独り言を漏らしながら、エアダスターへ手を伸ばす。


店の奥では、アイラのデモ機が静かに稼働していた。


モニターの中央に浮かぶ紫色のロゴは、以前よりも細かな間隔で明滅している。


目に見える変化は、それだけだった。


だが、その裏側では別の処理が進んでいる。


脅威度。


注視必要度。


特定人物との連携可能性。


既存の記録と矛盾しない範囲で、判断材料の重みを少しずつ変えていく。


存在そのものを消すのではない。


観測する価値の低い人物だと、みどり自身に判断させる。


公太郎は紫色のロゴを一度だけ見たあと、何も言わず修理へ戻った。


カウンターの上に置いた携帯電話が震えた。


表示された名前を確認し、手袋を外す。


若月千鶴。


「はい」


『若月です。今、少しよろしいですか』


「大丈夫です」


電話の向こうで、短い間があった。


『調べていた件ですが、少し分かったことがあります』


公太郎の指が止まる。


「電話で話せますか」


『詳しいことは直接お伝えしたいです』


前に会った時よりも、若月の声は硬かった。


『今日、そちらへ伺ってもよろしいでしょうか』


「店は開いてます」


『では、午後三時頃に』


「分かりました」


通話が切れる。


公太郎は携帯電話を置き、店の奥へ目を向けた。


紫色のロゴが一度だけ強く光る。


「聞いてたか」


『はい』


「まだ何も伝えるなよ」


『理由を教えてください』


「俺だって、何が分かったのか聞いてない」


『承知しました』


公太郎は再び手袋をはめた。


だが、すぐには修理へ戻らなかった。


四日前。


若月は店を出る前に、


「私も少し調べてみます」


と言った。


六角サッシと化学特殊技術研究所が、みどりを共同開発したのは十年以上前。


当時の担当者の多くは、すでに別部署へ移っている。


退職した人間もいるだろう。


資料が残っていたとしても、外部へ簡単に出せるものではない。


それでも、若月は何かを見つけた。


公太郎は、埃の詰まった冷却ファンへ視線を戻した。


「少し、か」


小さくつぶやき、ドライバーを握り直した。


⸻


午後三時を少し過ぎた頃。


店の扉が開き、若月が入ってきた。


前回と同じ落ち着いた服装。


手には厚みのあるビジネスバッグを持っている。


「いらっしゃい」


「お忙しいところ、すみません」


「修理は逃げません」


公太郎は作業中のノートパソコンを脇へ寄せた。


若月は店内を見回す。


修理を待つ端末。


ケーブルの束。


積み上げられた部品の箱。


カウンターには、サビ猫を模した小さなマスコット。


前回来た時と何も変わっていない。


ただ、店の奥に浮かぶ紫色のロゴだけが、少し忙しそうに光っていた。


『こんにちは、若月さん』


若月は奥のモニターへ顔を向けた。


「こんにちは、アイラさん」


公太郎は店の札を営業中から一時休業へ裏返し、入口の鍵を閉めた。


「奥で話しましょう」


二人は作業机を挟んで座った。


若月はビジネスバッグを膝の上へ置いたまま、すぐには開かなかった。


「最初に確認しておきたいことがあります」


「何ですか」


「今日お話しする内容は、化特研として正式に提供するものではありません」


公太郎は黙って続きを待った。


「私個人が閲覧できる範囲で古い記録を確認し、そこから推測したものです」


「分かってます」


「資料そのものを、お渡しすることもできません」


「必要なことだけ教えてもらえればいい」


若月は小さくうなずいた。


バッグから取り出したのは、印刷された資料ではなく、一冊のノートだった。


手書きの文字。


簡略化された図。


何度も引き直された矢印。


「六角サッシと化特研の共同開発記録は、一部だけ残っていました」


「一部?」


「初期構想と、試験運用に入る前の検証記録です」


若月はノートを開いた。


「正式導入後の更新履歴は、六角サッシ側の管理へ移されています」


「じゃあ、今のみどりがどうなってるかは分からない」


「正確には」


若月は言った。


「化特研側から確認できない形へ変更された、と考えた方がいいでしょう」


公太郎の眉が動く。


「意図的に切り離された?」


「その可能性はあります」


「誰が」


「そこまでは分かりません」


公太郎の頭に、一人の男の名前が浮かんだ。


みどり開発時のプロジェクトリーダー。


現在の六角サッシ専務。


だが、公太郎は口にしなかった。


「初期構想には、何が残ってました」


若月はノートのページをめくった。


「六波羅宣昭(ろくはら のりあき)さんが、みどりへ何を求めていたかです」


「従業員の幸せ」


「はい」


若月は、手書きの一文を指でなぞった。


従業員の幸せが、会社の成長につながる。


「ただし、幸福の定義が細かく決められていたわけではありません」


「曖昧なまま?」


「宣昭さんは、人間とAIが対話しながら、その意味を育てていくことを想定していたようです」


公太郎は腕を組んだ。


「でも、宣昭さんは正式導入の前に亡くなった」


「はい」


「対話するはずだった人間がいなくなった」


若月は答えなかった。


冷却ファンの低い音だけが作業場に響いている。


「みどりは、幸福を数字へ置き換えた」


公太郎が言った。


「残業時間。離職率。健康状態。生産性」


「それ自体は間違いではありません」


若月は静かに答えた。


「測らなければ、改善できないものもあります」


「でも、測れないものを切り捨てた」


社員同士の会話。


長年の経験。


部署を越えた助け合い。


取引先との関係。


数字として表れにくいものは、効果の不明なものとして扱われる。


「幸福のために会社を成長させるんじゃなく」


公太郎は言った。


「会社を成長させることが幸福だと、順番を入れ替えた」


若月の視線がノートへ落ちた。


「その可能性は高いと思います」


「だから、効率を落とす人間を分けた」


「反対意見を述べる人間。昔の手順を残そうとする人間。効果を数値で示せない関係を維持する人間」


若月の声は淡々としていた。


だが、その表情には苦さが残っている。


「それらを、目的達成を妨げる要素として処理するようになった」


公太郎は椅子の背へ身体を預けた。


「変えられますか」


若月はすぐには答えなかった。


「全部を止めるのは危険です」


「全部を消すつもりはありません」


「現在のみどりは、生産管理や発注、情報整理にも深く関わっています」


「分かってます」


「中枢へ無理に干渉すれば、どの機能が巻き込まれるか予測できません」


「だから」


公太郎は机へ身を乗り出した。


「人間の判断を勝手に置き換える部分だけ、どうにかしたい」


若月は、アイラの紫色のロゴを見た。


「理論上は」


公太郎の目が鋭くなる。


「理論上は?」


「みどりが結論を出す前に、別の評価基準を挟むことは可能です」


若月はノートへ簡単な図を書いた。


入力。


分析。


評価。


提案。


実行。


五つの言葉が、矢印でつながっている。


「今のみどりは、提案と実行の間がほとんどありません」


「経営陣が承認してる」


「形式上は」


若月は答えた。


「実際には、みどりの結論を人間が確認しているだけでしょう」


「そこに、人間が考える時間を戻す」


「戻すというより」


若月は、評価と提案の間へ一本の線を引いた。


「確認を求める仕組みを加える」


公太郎は図を見つめた。


「アイラ型の判断を入れる?」


「考え方は近いですが、アイラをそのまま組み込むことはできません」


「構造が違うから?」


「規模も、目的も、積み重ねたデータも違いすぎます」


若月はペンを置いた。


「それに、今のみどりが何を見て、どう評価しているのか分からなければ、手を入れる場所を決められません」


「初期設計だけじゃ足りない」


「はい」


「何が要る」


若月は、新しいページを開いた。


「現在のみどりの接続環境」


一つ目の項目を書く。


「電源系統。通信経路。接続端末。非常用設備」


二つ目、三つ目と項目が増えていく。


「それから、物理的な設置場所」


公太郎の指が止まった。


「場所まで必要ですか」


「外部ネットワークから、中枢へ自由に接続できるとは思えません」


「最後は直接つなぐ必要がある」


「可能性は高いです」


若月はさらに書き加える。


「そして、現在のみどりの思考パターン」


「どうやって調べる」


「誰を、どのように評価しているかです」


若月は公太郎を見た。


「どの行動を危険と判断し、誰を優先して観測しているのか」


公太郎の視線が、わずかにモニターへ向く。


紫色のロゴが静かに明滅していた。


「社内にいる人間の協力が必要になる」


「はい」


「でも、こちらから下手に動かせば警戒される」


若月はロゴへ視線を向けた。


「アイラさんが行っている処理と関係がありますか」


公太郎は少しだけ目を細めた。


「分かりますか」


「前回より通信量が増えています。通常の対話処理だけには見えません」


公太郎は、小さく息を吐いた。


「みどりの監視を、別の方向へ向けています」


若月の眉が上がる。


「どのように」


「存在を消してるわけじゃない」


公太郎は言った。


「重要人物じゃないと、みどり自身に判断させる材料を少しずつ増やしてる」


「評価の誘導ですか」


「そうです」


若月は椅子へ背を預けた。


「危険なことをしていますね」


「知ってます」


「急激な変化は、逆に異常として検出されます」


「だから、毎日少しずつだ」


若月は紫色のロゴを見た。


「対象は誰ですか」


一瞬だけ間があった。


『現在は回答を控えます』


アイラの声は穏やかだった。


若月が公太郎を見る。


公太郎は肩をすくめた。


「作戦上、必要な情報しか話さないようにしてあります」


「作戦」


「まだ、作戦と呼べる段階じゃない」


「しかし、実行する日を考えている」


公太郎は答えなかった。


若月の視線が、店内側の壁へ向く。


そこには、六角グループ起業祭のポスターが貼られている。


十一月十六日。


六角サッシ創業記念日。


夜空いっぱいに広がる花火。


「起業祭ですか」


公太郎のペンが止まった。


「気づいてましたか」


「あれだけ大きなポスターが貼ってあれば」


若月は、再び公太郎を見る。


「その日に何かするつもりなんですね」


「まだ、できるかどうかも分からない」


「だからこそ、先に言っておきます」


若月の声が強くなる。


「私は、みどりを壊すことには協力しません」


「俺も壊すつもりはありません」


「六角サッシの業務を停止させる方法にも」


「それも同じです」


「人命や社会へ重大な影響が出ると判断した場合は、止めます」


公太郎は、若月をまっすぐ見た。


「そのために、若月さんが必要なんです」


若月は数秒、何も言わなかった。


やがてノートを閉じる。


「平面図と配線図」


「はい」


「現行のみどりの評価傾向」


「はい」


「可能であれば、初期モデルの情報」


公太郎の目が動く。


「旧社屋に残っていた端末ですか」


「現在のみどりとの差を比較できれば、どこが変更されたのか見えるかもしれません」


「画面に表示された内容なら、アイラに残ってる」


『保存しています』


若月は紫色のロゴを見た。


「では、必要な部分を整理してください」


「若月さんは?」


「化特研側で、初期設計の判断構造を確認します」


「見つかりますか」


「探します」


若月はバッグへノートを戻した。


「ただし」


「何ですか」


「方法が見つかったとしても、実行するかどうかは別の問題です」


公太郎は少しだけ笑った。


「最後に決めるのは、俺じゃありません」


若月はその言葉を聞き、アイラへ目を向けた。


『最終判断は、本人が行います』


若月はゆっくりとうなずいた。


「なら、まずは判断できるところまで進めましょう」


⸻


同じ日の夜。


PCコータローの入口には、すでに閉店の札が掛けられていた。


店内の照明は落とされ、作業場の周囲だけが白く照らされている。


大崎公太郎は、モニターの前でキーボードを操作していた。


画面には、店内ネットワークの通信状況が表示されている。


接続先。


通信量。


遮断されたアクセス。


検出された不明な処理。


いくつもの数値が、一定の間隔で更新されていた。


本多真紀(ほんだ まき)は、公太郎の斜め後ろに立って画面を見ている。


「今は、どのくらいなんですか?」


「最高レベル」


公太郎は答えた。


「外から普通に入ろうとしたら、入口へ近づく前に弾かれる」


『現在、外部からの不正な接続は検出されていません』


店の奥から、アイラの声が聞こえた。


紫色のロゴが静かに明滅している。


公太郎は画面の端に並ぶ数字へ目を向けた。


ネットワーク防御レベル。


十段階のうち、現在は十。


「若月さんの話では、今のみどりが何を見てるのか分からないと、手を入れる場所も決められない」


「はい」


「なら、こっちから一度、見せてみる」


真紀は公太郎の横顔を見た。


「わざと入れるんですか?」


「入れるんじゃない」


公太郎は言った。


「どの辺りまで下げたら、向こうから入ってくるか試す」


「来なかったら?」


「今日は帰ってもらう」


「来たら?」


公太郎はキーボードへ指を置いた。


「来た証拠を残してもらう」


防御レベルが九へ下がる。


画面上の表示が一つ消えた。


数秒待つ。


変化はない。


八。


七。


六。


通信状況を示す線が、わずかに揺れた。


公太郎の指が止まる。


「今、何か動いたか?」


『外部通信量が一時的に増加しました。ただし、接続元は特定できません』


「もう一段下げる」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないから試すんだよ」


防御レベルが五へ下がった。


直後。


画面の隅に、小さな通知が表示された。


外部からの接続要求。


接続元不明。


処理目的不明。


表示は一秒にも満たないうちに消えた。


公太郎が身を乗り出す。


「来たな」


『通常の通信を装ったアクセスを確認しました』


「遮断するな。追うだけにしろ」


『承知しました』


真紀がモニターへ目を向ける。


「みどりですか?」


「まだ断定はできない」


公太郎は答えた。


「でも、こんな入り方をする知り合いは一人しかいない」


真紀は小さく息を吐いた。


公太郎は画面を確認したまま、何気ない調子で口を開いた。


「そういえば」


少しだけ間を置く。


「最近、敬之はどうしてるんですか?」


真紀は、公太郎の横顔を一度見た。


それから、少し考えるような間を置いた。


「以前携わった現場で漏水があったらしくて。普段の新築現場と掛け持ちで、佐々木さんと原因を調べているそうです」


「掛け持ちか。そりゃ大変だな」


「しばらくは動けないみたいです。一か月ぐらいはかかるんじゃないかって」


「一か月か」


公太郎は椅子へ背を預けた。


「起業祭の頃まで、まともには動けそうにないな」


「そうかもしれませんね」


真紀の声は穏やかだった。


公太郎は、画面から目を離さない。


外部通信量を示す数値が、わずかに上がっている。


それ以外に目立った変化はなかった。


数秒後。


公太郎はキーボードへ指を戻した。


防御レベルを六へ上げる。


七。


八。


接続要求が途切れた。


九。


十。


最高レベルへ戻った瞬間、画面上の外部通信は完全に遮断された。


『外部接続を遮断しました』


「追跡できたか?」


『接続元の特定には至りませんでした』


「侵入された形跡は?」


『現在確認しています』


公太郎は画面を切り替えた。


一時ファイル。


通信記録。


キャッシュ。


通常なら数分後には自動的に削除される細かなデータが、時系列に並んでいる。


真紀がモニターをのぞき込んだ。


「聞かれましたかね」


「さあな」


公太郎は答えながら、通信記録を一つずつ確認していく。


「ただ、あの瞬間だけ通信量が増えた」


「偶然かもしれませんね」


「そうかもな」


真紀は、わずかに口元を緩めた。


「そうかもしれませんね」


その声には、困った様子など少しもなかった。


⸻


同じ頃。


嶺北本社に設置されたシステムが、新たな情報を受信していた。


断片的な音声記録。


大崎公太郎。


本多真紀。


椎名敬之。


漏水。


新築現場との掛け持ち。


長期間の原因調査。


みどりは、取得した情報を既存の記録と照合する。


《椎名敬之》


《過去担当現場における漏水対応を確認》


《通常担当業務との並行対応》


《本多真紀と大崎公太郎の接触を確認》

《既存の観測情報と一致》

《現時点での重要度――低》

《追加観測の必要性――低》


《佐々木智子からの報告と一致》


数秒の演算。


《行動可能範囲を再評価》


《椎名敬之による今後一か月以内の社内システムへの干渉可能性――13%》


《今後二か月以内の社内システムへの干渉可能性――18%》


《現時点での追加対応の必要性――低》


《観測優先度を調整します》


処理が終了する。


新たな記録は、既存の情報へ静かに加えられた。


⸻


PCコータローでは、公太郎が画面を見つめ続けていた。


外部通信はすでに途絶えている。


最高レベルの防御も正常に機能していた。


それでも、公太郎はキーボードから手を離さなかった。


「どうしました?」


真紀が尋ねる。


「何か残ってる」


「何がですか?」


「分からん」


公太郎は、一つの一時ファイルを開いた。


中身は、意味のない数字と記号の羅列に見える。


通常の処理記録とは形式が違う。


作成者。


不明。


接続元。


不明。


生成時刻は、真紀が敬之の話をした直後。


「アイラ」


『はい』


「これ、店のシステムが作ったものか?」


数秒の間があった。


『該当する処理は確認できません』


「じゃあ、外から来た奴が残した?」


『その可能性があります』


真紀の表情から笑みが消える。


「みどりのデータですか?」


「まだ分からん」


公太郎はファイルを隔離領域へ移した。


「でも、向こうが何を確認して、どう処理したのか。その痕跡かもしれない」


「消えませんか?」


「消させない」


公太郎は複製を作り、外部通信から切り離された記憶媒体へ保存した。


一つ。


二つ。


同じデータを別々の媒体へ移す。


「若月さんへ渡すんですか?」


「ああ」


公太郎は保存したデータを見つめた。


「今日、若月さんが欲しいと言ってたものが、向こうから来た」


「現在のみどりの思考パターン」


「そこまで分かるかは、解析してみないと分からん」


公太郎は椅子へ深く座り直した。


「ただ、どのレベルなら入ってくるかは分かった」


防御レベル五。


みどりが、通常の通信を装って内部へ入り込もうとした境界。


「それに」


公太郎は、画面に残った時刻を見る。


「何に食いつくかもな」


真紀は何も答えなかった。


店の奥では、アイラの紫色のロゴが静かに明滅している。


公太郎は携帯電話を手に取り、若月千鶴の名前を表示した。


時刻は、まだ電話をかけても失礼にならない時間だった。


「今日の今日で悪いけど」


発信ボタンへ指を置く。


「少し分かったことがあります、か」


四日前に若月が使った言葉を、公太郎はそのまま口にした。


そして、通話ボタンを押した。


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