やっぱり、何よりの特筆はひとこと紹介の通り、異世界モノでの栄養面でしょう。
中世ファンタジーというワードだと、
文化が発展していない。
科学に対して理解が浅い。
食に関して知見が低い。
ここまでは想像できますが、
「そのせいで○○になっている」
までは、その専門知識がなければ、
風が吹けば桶屋が儲かるに等しい計算式です。
言われてみればそりゃそうなのですが、
言われなければ気付けないと思います。
それがフォーカスされたのがこの作品。
そういった方面の深い世界観がとても魅力的でした。
ネタバレになるので少しだけにしますが、
途中の、食べたらマズい毒とかの分析も……その着眼点が、とてもよきです。
メインとして主人公寛子(ヒロコ:ちゃんとモデルになった偉人アリ!)とウサミミ獣人のツクヴァルを中心に、
ドタバタしつつ、仕事を得て、生計を立てていくお話です。
が、すいません。個人的にこの食の観点が強烈に刺さってて、
もうね……よいのですよ……。
突然、異世界へやってきた栄養学専攻の女子大生・寛子が出会ったのは、口が悪くてやたらと強い男・ツクヴァル。
食を通して、二人の関係が少しずつ積み上がっていく異世界ファンタジーです。
【食べることは、生きること】
剣も使えない。魔法も使えない。
そんな寛子が持っているのは、栄養についての知識と「人は食べなきゃ生きていけない」という信念。
どんなに強くても、食べなければ力は出ない。
「食べること」がしっかり物語の軸になっていると感じました。
【少しずつ積み重なる二人の関係】
出会いは決して良いものではなかった二人。
それでも一緒に過ごし、お互いのことを知るたびに、少しずつ関係が変わっていきます。
助けたり、助けられたり、ときにはぶつかったり。
一つ一つのやり取りを重ねながら相棒になっていく二人を、ついつい応援したくなります。
読みやすい文章と丁寧な構成で、するすると読み進められる物語。食と二人の関係がこれからどう広がっていくのか追いかけたい方へ、オススメの作品です。
「異世界×栄養学」。
その組み合わせだけでも十分に面白い。
けれど、この物語を「栄養知識で活躍する異世界ファンタジー」だけだと思って読み始めたなら、きっとその予想を越えていく。
この作品が描く「食」は、とても切実だ。
食べたくても食べられない。
働く力があっても仕事を選べない。
過去や出自によって遠ざけられ、同じ町にいながら「いないもの」のように扱われる。
そんな世界で、栄養学専攻の女子大生・寛子が武器にするのは、剣でも魔法でもない。
食べるための知識と、目の前の人を肩書きだけで決めつけず、「あなたはどんな人なの?」と踏み込んでいく強さだ。
そして相棒は、腹ペコで口が悪く、世間から嫌われている男・ツクヴァル。
この二人が、とにかくいい。
ぶつかる。
喧嘩する。
一緒に働く。
一緒に傷つく。
そして結局、また一緒に飯を食う。
軽快な掛け合いと冒険の楽しさの向こうで、物語は貧困、差別、戦争の傷にまで踏み込んでいく。
それでも誰かを簡単に「悪い人」にして終わらせない。
怒って、傷ついて、それでも話す。
そして何度でも「食卓」へ戻ってくる。
誰かのために料理を作る。
一緒に食べる。
「美味しい」と言い合う。
その一食が、身体だけでなく、人と人との間までつないでいく。
「人は食わなきゃ生きてけない」。
この言葉が、読み進めるほど大きくなる。
美味しくて、可笑しくて、熱くて、ときどき胸が痛い。
異世界冒険が好きな方へ。
バディものが好きな方へ。
そして、「生きること」を真正面から描く物語を読みたい方へ。
まずは寛子とツクヴァルと一緒に、一食。
そこから始まる美味しくて、危険で、楽しい冒険を、ぜひ!!!