知らない少年に、懐かしそうに「おかえり」と告げられる。
それだけでも充分に恐ろしいはずなのに、本作の本当の怖さは、モモをいつまでも恐れてはいられないことにあります。
柔らかな笑顔。親しげな呼び声。触れる手の温もり。
初めは駿を怯えさせていたものが、読み進めるほど少しずつ意味を変え、やがて彼の傷ついた心を包む安らぎにもなっていく。
けれど、モモの優しさは決して安全ではありません。
駿を苦しめるものから守ろうとする愛情と、駿を自分のもとへ留めようとする危うい執着。その二つが分かち難く絡み合っているからこそ、怖いのに、もっとモモを知りたくなってしまいます。
そして、読み進めるうちに気づかされるのです。
本当に恐ろしいのは、正体の分からないモモなのでしょうか。
それとも、モモと出会うよりも前から、駿の心を壊しかけていた何かなのでしょうか。
波や蝉が郷愁を呼び起こす一方、足音や着信音は駿の心を追い詰めていく。音によって場面の温度を変えていく描写も見事でした。
ホラーとしての恐怖と、BLならではの甘さ。
一見相反する二つの魅力が、本作では見事に共存しています。
優しいからこそ怖い。
恐ろしいからこそ、その温もりから離れられない。
ここは傷ついた心を癒やす楽園なのか。
それとも、二度と逃げられない愛の檻なのか――。
それを確かめるには、モモが待つ『ぱらいそ』へ迷い込んでみるしかありません。
けれど――
「おかえり」が聞こえたら、もうモモから逃げられない。