怖い話なのに、なぜか読み終わるたび、山や古い家に「まだ誰かいるのでは」と考えてしまいます。
この作品の面白さは、怪異そのものよりも、人と怪異の距離がとても近いところだと思いました。普通なら大騒ぎしそうな出来事も、土地の人たちは「昔からそういうものがいる」と受け止めていて、その落ち着きが逆にじわじわ怖いです。妖怪まで町内会の一員みたいで、少し笑ってしまいました。
でも読んでいると、怖さの奥に「忘れられること」の寂しさが見えてきます。人が去っても、家や山や水は記憶しているのかもしれない。そう思うと、怪談が急に哲学っぽく感じられます。
一話ずつでも楽しめますが、重ねて読むほど遠野という土地そのものが大きな物語になっていく作品です。静かな怪談、民俗、土地の記憶が好きな方に、ぜひ読んでほしい連作短編です。