山本八重といえば、スペンサー銃を手に戦った「幕末のジャンヌ・ダルク」とも言われた人物ですが、そういった肩書きではなく、八重という人間の芯を捉えた作品だと感じました。
銃身を確かめ、レバーを動かし、油を含ませた布で煤を拭う。
その静かな動きの中に、八重という女性がどんな人生を歩み、何を大切にしてきたのか。そして、これから何を背負って戦場へ向かうのかが、じわじわと伝わってきます。
八重を「恐れを知らない女傑」として描いていないところが沁みました。
怖いものは、怖い。
「……おっかね」と口にし、それでも銃を手に取る。
だからこそ、その姿が強く、美しいと感じます。
そして銃を扱い、家族と故郷を守るために戦ったその手が、やがて戦後、傷ついた人々を支える手となっていく――。
最後まで読むと、それまでの何気ない描写の一つ一つまで違って見えてきます。
大仰な決意表明も、勇ましい啖呵もありません。
最後にあるのは、ただ一言。
「……いぐか」
この静かな一言が、とても重い。
戦争そのものではなく、「戦争へ向かう一人の人間」を丁寧に描いた、余韻の美しい歴史短編でした。