ハゲタカの取材手帳

森村慈夢

ハゲタカの取材手帳 ーあるサギ事件を追ってー

(三題噺 「情」「乱」「独自」)


 独自ネタというのは、正式な発表に基づかず、個別の取材により掴んだ他社も知らない情報のことを言う。

 なかでも、ニュース性の高いものは特ダネとして扱われ、それを掴んだ者は社内で称揚され、他社からは怨嗟の的となる。それは、取材の醍醐味の一つだ。


 だから皆、鵜の目鷹の目で独自ネタを探す。

 俺もそんな業界に身を置いている。


 だが、俺は別に乱れた世の中を直そうとは思っていない。誰もが関心のあることを取材して伝える。それだけで十分だ。だから、当然ながら下世話な話題も扱う。そんなオレを、世間の奴らはハゲタカと呼ぶ。


 まあ、実際に鳥のハゲタカではあるのだが。


 俺が名を挙げたのは、サギグループの実態を独自ネタとしてルポにした時だ。

 アオサギ一家が、東南アジアに渡っているという情報を掴み、現地に飛んだ。ハゲタカにしては頑張ったと思う。飛んで海を渡ったハゲタカは、俺が最初ではないだろうか。

 まあ、それは置いておいて、国内で繁殖できるはずのアオサギの奴らが、なぜ海を渡る必要があるのかというのが、俺が抱いた違和感だった。

 俺の勘は当たった。そこは、特殊サギの拠点になっていたのだ。

 奴らの悪事を暴いたことへの反響は大きかった。

 俺はまだ駆け出しだったから、報酬はスズメの涙だったが。


 その後、コウノトリによる赤ちゃんの誘拐事件もすっぱ抜いた。こいつも独自ネタだ。人身売買に関わって、人間の赤ちゃんを咥えて飛んでいくコウノトリの姿をばっちり写真に撮ってやった。


 俺は、芸能ネタにも強い。


 例えば、ダチョウの奴らには早くから注目し、推していた。

 奴らはなぜか俺に、推すなよ、絶対に推すなよ、と繰り返していたが。

 この話は、あんた達もダチョウの奴らに聞いたことがあるだろう。


 ……聞いたはずだ。

 いや、聞いてるだろ?


 まあいい。


 いま追いかけているのは、カモのメスを狙った結婚詐欺だ。

 こいつをものにすれば、俺の名は不動のものとなり、大金も入るはずだ。

 まさに一石二鳥だ。


 騙されたというメスに、話を聞いた。

「私は、オシドリになれると思っていたんです……」

 メスは、涙ながらに語った。

 どうやら、こういうことらしい。

 奴らは、言葉巧みに持ち掛ける。

「オシドリ夫婦になりたくはありませんか」

 高い金を払えば、オシドリのオスを紹介してくれる。オシドリになれば、一生仲睦まじく暮らせるというのだ。ずっとラブラブで、旦那の浮気に悩む必要もない。


「オシドリになれるのは、選ばれたカモだけです」

「あなたなら特別料金で紹介できます」

「相手のオスは一流のオシドリです」

 そんな文句に騙されて、ついつい高い金を払ってしまったのだという。


「その後、相手のオスは?」

「卵を産んだら、全財産を持っていなくなりました」

「……卵は何個です?」

「七個です」

「それは……かなり悪質ですね」

 発つ鳥、跡を濁しまくってやがる。


 紹介されたオスはつがいになると、卵を産ませ、さっさと姿を消すという。

 だが、ほんとうにオシドリかどうか怪しいもんだ。

 元々、カモの仲間だから、うまく化けているだけかもしれない。


 泣き寝入りしているカモのメスは少なくないようだが、騙される方にも落ち度はある。

 オシドリ夫婦と言ったって、もともとはそんなもんだ。

 メスが卵を産んだら、オスはさっさといなくなる。


 情の深い、仲良し夫婦の象徴のように言っているのは、ヒトだけだ。 

 耳障りのいい話なんか信用せず、独自の努力で相手を見つけるしかない。


 騙された悔しさを思い出したのか、カモのメスは取り乱して泣いている。

「本当に私がバカでした。自分が情けない」


 気の毒ではあるが、いいカモにされたってところだろう。

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ハゲタカの取材手帳 森村慈夢 @thenightfly

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