第63話 帰ってきたら、神様が昼寝していた
第九地下居住区から戻った翌日。
湊がSanctuaryの食堂へ入ると、神が寝ていた。
正確には、長椅子へ横になり、顔に本を載せていた。
「アレシア」
返事はない。
「神様」
本の下から声がした。
「……妾はいま神託を受けておる」
フィアが即座に飛んでくる。
「嘘なの! 三十分前から寝てるなの!」
「妖精よ、神秘を暴くでない!」
アレシアが飛び起きた。
湊は少し嬉しくなった。
以前なら、この神は誰かに見られる場所で昼寝などしなかった。
「休めるようになったね」
「違う! これは神力回復のための瞑想じゃ!」
ミナが厨房から顔を出す。
「お昼ご飯まであと二十分なので、瞑想するなら毛布使います?」
「……使う」
威厳は二秒で負けた。
遠征報告会は昼食後に行われた。
地下街で見つかった古代記録。
【Sanctuaryは施設名称ではない】
【離脱の自由と帰還可能性】
【相互に存在を排除しない】
【生存・休息・再起の権利】
アデルが記録を整理する。
「これまで我々が経験的に理解していた条件が、旧SYSTEM側でも明文化されていたことになります」
レナが続ける。
「ただし全部じゃない。記録は途中で欠損してる」
ルゥが言った。
「でも帰れる場所は合ってた」
「うん」
湊が頷く。
SYSTEM表示では、RESTORATION NETWORKは二地点がONLINEになっていた。
現在のSanctuary。
北部第四ダンジョン。
第九地下居住区。
「三つじゃない?」
湊が数える。
レナが表示を確認した。
「……ほんとだ。表記が変わってる」
【PRIMARY SANCTUARY:1】
【RESTORED NODE:2/72】
「最初のここは復旧扱いじゃないのか」
アデルが頷く。
「起点領域なのでございましょう」
その時。
表示が赤く点滅した。
【NODE 44:EMERGENCY SIGNAL】
【防衛機構稼働率:138%】
【生命維持機構稼働率:22%】
「百三十八?」
湊が聞く。
レナの顔が変わった。
「正常値じゃない。防衛だけが過剰稼働してる」
追加表示。
【HOSTILE CONTACT:継続中】
【継続時間:推定312年】
食堂が静かになった。
シエラが立ち上がる。
「三百十二年、戦闘状態が解除されていないということか」
アレシアの表情から眠気が消えた。
「神代末期の自動防衛砦かもしれぬ」
ヴェルナが地図を見る。
「場所は?」
アデルが座標を展開する。
人間領でも魔族領でもない。
旧国境地帯の
現在は最高危険度の立入禁止区域。
そして最後に、もう一つ表示された。
【MANAGEMENT CORE:ONLINE】
【ACTIVE PROCESS:1】
レナが呟いた。
「まだ誰か管理してる」
三百十二年間。
終わらない戦闘を。
たった一つの処理系が、今も止めずに回し続けていた。
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