「匂い(香り)」をキーワードに、穏やかで優しい言葉で紡がれた物語。
本作は、子どもの頃に語り合った夢を、互いに支え合いながらそれぞれの道で叶えた二人の登場人物のお話です。
彼女は医師になり、彼は画家としての道を歩み続けていました。
画家の彼が描くキャンバスから漂うのは、油絵具の匂いではなく、彼の愛おしい香水の匂い。
時を重ね、お互いに歳を重ねていく穏やかな日々のなかで、「香りが繋ぐ夫婦の世界」を、美しい結末とともに描いた誠実な純愛の物語です。
短編として、文字数、内容、文体のいずれもが非常に読みやすいです。
その一方で、読後、深い余韻を味わえる秀逸な作品となっています。
朝の光が差し込むなかで読んでもよし。
または、穏やかな昼下がりに、さらには、柔らかな灯火がともる夜更けでもよいです。
静かな時間の流れの中で、その味わいが際立つ作品と思いました。
心が洗われた気持ちになる一作、ありがとうございました。
絵には、色がある。
形がある。
では――匂いまであったなら?
絵の具に香水を一滴。
そんな小さな「おまじない」から始まる物語です。
この発想だけでも素敵なのですが、読み進めるほどに、その香りが単なる演出ではないことに気づかされます。
目に見える絵と、目には見えない匂い。
その二つが重なったとき、そこには、長い時間をともに歩んできた二人だけの世界が広がります。
派手な出来事が起こるわけではありません。
それでも、短い物語の中に込められた想いは驚くほど濃く、読み終えたあとまで、
ふわりと、香水の残り香のように心に漂います。
なぜ彼は、絵の具に香水を混ぜるのか。
そして――その香りの先に、何が描かれているのか。
どうか、その想いの先を確かめてみてください。
きっと最後の一文まで読んだとき、
この作品のタイトルをもう一度見たくなると思います。