床下の閉ざされた空間だけが 世界 の
全てであり、型番と古い通販カタログだけが
常に身近にあった。何度も読み返された
それらは、けっして その先 を示唆しない。
板の隙間から落ちて来る杉の葉。
時折、聞こえる足音。そして誰のものかも
分からない、骨。
ある日、閉ざされていた板が外れた。
そして 自分 はその閉ざされた空間から
光の方へと登って、更に登って行く。
本作品はH.Pラヴクラフトへのオマージュと
言うが、同時に全く別の世界観を齎す。
ラベリングされた型番と通販カタログの
視覚から、腐った土や線香の嗅覚、杉の葉を
噛む苦味の味覚。板を剥がしコンクリートの
壁を登る触覚と痛覚。そして上り詰めた先の
喪服の人々の不毛な繰り言や怒声を
聞き留める聴覚。
感覚が静かに氾濫して行く。
祭壇の供物や泥、そして溶けて固まった蝋燭
その中にある 己 を見る。その淡々とした
観察は、思考と行動の齟齬だけでなく
感情の鈍麻を以て初めて認められる。
重厚で、乾いている。
モラトリアムの破壊、静かなる衝動、そして
夜の杉木立の匂いがする。