第27話 天気雨

退職まで、あと一週間。

部署では送別会の話が持ち上がっていた。


「馬場さん、送別会いつにします?」

営業が尋ねる。


「そんな大げさなん、ええですよ。」

涼子は照れくさそうに笑う。


「最後くらい、ちゃんと送り出させてください。」


「……ありがとうございます。」



誰も、涼子の本当の理由を知らない。


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その日の帰り道。

さくやが駅まで一緒になった。

「馬場さん。」


「はい?」


「寂しくなります。」


涼子は少し笑う。

「私もですよ。」



少し歩いてから、

さくやがぽつりと呟く。



「もっと、一緒に仕事したかったです。」




その一言に、涼子は返事ができなかった。



しばらく歩いてから、

小さく笑って言う。

「咲夜さん。」


「はい。」


「優しすぎるのも、ほどほどにしてくださいね。」


「え?」


さくやは苦笑する。

「そんなに優しいですか?」


「……はい。」

「たぶん、自分で思ってるより。」


さくやは照れくさそうに頭をかく。

「気を付けます。」


「無理やと思いますけど。」


二人は笑った。

それが、最後だった。

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数日後。

送別会。


笑い声が絶えない。

「馬場さんなら、関西戻ってもすぐ活躍できますよ!」

「ありがとうございます。」

「また一緒に仕事しましょう!」

「その時はよろしくお願いします。」


写真を撮る。


乾杯する。


笑う。


誰も泣かない。


いい送別会だった。


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その帰り道。

さくらがさくやの隣を歩く。

「ねぇ。」


「はい?」


「寂しくなるね。」


「そうですね。」


「でも、お母さん元気になるといいね。」


「ええ。」



少し沈黙が流れる。



さくらは夜空を見上げる。

「また会えるよね。」


「きっと。」


さくやは笑って答える。


その笑顔を見て、

さくらも安心したように微笑んだ。


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退職の日。

部署の全員が玄関まで見送った。


「お世話になりました!」


涼子は深く頭を下げる。


拍手が起こる。


みんなが笑っていた。



「馬場さん!」


さくらが駆け寄る。

「向こうでも頑張ってね!」


「ありがとうございます。」


「また絶対会おうね!」



「・・・・。」




その約束だけは、

涼子は返事ができなかった。

ただ、笑って頷いた。




新幹線。

窓際の席。

街並みがゆっくりと遠ざかっていく。


スマートフォンが震えた。


部署のグループチャット。

さくらからだった。


『今まで本当にありがとう!』

『また一緒に仕事できる日を楽しみにしてる!』


涼子は、その画面をしばらく見つめる。

ゆっくりと閉じる。


そして、窓の外へ目を向けた。


昨日まで降り続いていた雨は、もう止んでいた。

夏の日差しが、濡れた線路を照らしている。


涼子は小さく息を吐き、

誰にも聞こえない声で呟く。


「雨、上がったなぁ。」


その目には、涙が浮かんでいた。




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その頃。

会社では。

さくらが、一人で機材棚を整理していた。


「これなら。」

「みんな使いやすい。」


ラベルを貼り直す。

収納を揃える。

ケーブルを巻き直す。


少しでも、

みんなが困らないように。


少しでも、

さくやが仕事をしやすいように。


それだけだった。



その横を通った営業が笑う。

「橘さん、いつも助かるよ。」


さくらは嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。」


その笑顔は、

4月の頃より、

ずっと明るかった。


しかし。

その『誰かのために』という思いが、

一人の人間の居場所を静かに奪ってしまったことを。



そして、



その思いは、まだ止まっていないことを。


雨は上がった。

けれど、

空が晴れたわけではなかった。

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