第7話 お開き
歓迎会も終盤になると、料理の皿はほとんど空になっていた。
誰かが席を立ち、別の席へ移る。
部署の飲み会ではよくある光景だった。
「馬場さん。」
営業部の男性社員が手を挙げる。
「こっち来ません?」
「行きます行きます!」
涼子は笑いながら席を立つ。
「主任、ちょっと借りますね!」
「好きにして。」
主任も笑う。
涼子は隣のテーブルへ移ると、すぐにその場の中心になっていた。
関西弁混じりの軽快な話し方に、あちこちから笑い声が上がる。
「ほんと面白い人だね!」
「いやいや、そんなことないですよ!」
店の空気は、さっきよりもさらに賑やかだった。
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気がつくと、さくらの向かいにはさくやが座っていた。
「静かになりましたね。」
さくやが苦笑する。
「向こう、すごい盛り上がってる。」
「ふふ。」
さくらも思わず笑う。
「馬場さん、本当に明るい人だね。」
「そうですね。」
さくやは向こうのテーブルを見て笑った。
「場の空気を作るのが上手ですよね。」
その言葉に、さくらは小さく頷く。
自分には、ああいうことはできない。
会話の中心になることも。
みんなを笑わせることも。
だからこそ、少しだけ羨ましかった。
「ほんと。」
さくやが続ける。
「すごいなって思います。」
「……うん。」
「僕、ああいう人を見ると安心するんですよ。」
「安心?」
「はい。」
「場が明るいと、みんな話しやすくなるじゃないですか。」
「だから、助かります。」
その言葉を聞いて、さくらは少しだけ肩の力が抜けた。
さくやは誰かと比べているわけではない。
誰かを持ち上げるために、誰かを下げる人でもない。
ただ、その人の良いところを見つけているだけなのだ。
「さくらさんも。」
突然、自分の名前が出て驚く。
「え?」
「資料、本当に丁寧ですよね。」
「前も言ってくれたね。」
「本当ですから。」
さくやは笑う。
「僕、ああいう細かい確認、苦手なんですよ。」
「だから助かってます。」
さくらは少し照れながら笑った。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
また、少しだけ沈黙が流れる。
その沈黙は、不思議と居心地が悪くなかった。
店の奥では笑い声が続いている。
グラスが触れ合う音。
店員が料理を運ぶ声。
そんな賑やかさが、二人の間の静けさを優しく包んでいた。
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