エモいことバを集める
朝倉麦茶
言の葉をあつめる
「エモい」という言葉は便利すぎる。
夕暮れの赤グラデーションを見たときも、深夜のコンビニの明かりを見たときも、使い古されたプレイリストのイントロが流れたときも、全部「エモい」の一言で片付いてしまう。感情の解像度をあきらめて、手軽に記号化してしまうような、少しのうしろめたさも含みながら。
けれど最近、私はこの「エモい」という不確かな言葉を、ひとつの透明な小箱として使ってみることにした。
日常のあちこちに散らばっている、理由もなく胸の奥がキュッとなる言葉。それを片っ端から拾い上げて、その小箱に収めていくのだ。「エモい言葉を集める」という、ささやかな採集記。
例えば、雨の日にバスを待っていたとき、隣の高校生が言った「じゃあね、また明日も世界があったら」。地球滅亡の映画の見すぎかもしれないけれど、どこか祈りのようで、私のノートの1ページ目に残った。
例えば、もう連絡を取らなくなった古い友人の「夜の散歩って、昼間には見てない街の裏地が見えるよね」という一言。あれは終電を逃して歩いた春の夜だった。アスファルトの冷たさと、ぬるい風の匂いが今でもセットで蘇る。
言葉を集める作業は、まるで落ち葉や拾った貝殻を並べるのに似ているとさえ思う。
それ自体には特別な価値なんてない。けれど、光の当て方を変えてみたり、そっと手のひらに載せて眺めたりすると、その言葉が発せられた瞬間の空気、温度、光の角度までが鮮明に立ち上がってくる。
世界は思っている以上に、誰かが零した愛おしい言葉で溢れている。
素通りしてしまえばただの雑音だけれど、耳をすませて「採集」しようとするだけで、いつもの通勤路すら少しだけ違った景色に見えてくるから不思議だ。
だから今日も私は、スマホのメモ帳を開く。
名前のつかない感情に届くような、誰かの綺麗な一言を、そっと言葉の標本箱に閉じ込めるために。
エモいことバを集める 朝倉麦茶 @93265
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