本作、主人公は一貫してひと言も話しません。考えていることを地の文で記すだけ。それがとてもよく雰囲気を出しています。
湖畔に暮らす「私」が主人公です。
明記はされていませんが初めの段階で何者かは、なんとなく察せます。それがむしろ不気味感をいっそう醸し出しています。
はじめは湖畔の情景を、肉を食む様子を、「私」が見たまま、感じたまま、客観的事実を描き出されます。しだいに、ぽつぽつと考えが織り交ぜられーー月や蝋燭、肉を中心として、静かで、妖しく幻想的で、薄気味悪い。
話を進めると、街の人達の騒々しいおしゃべりが描かれるのですが、「私」はやはり話さない。まるで、亡霊が彷徨っているようにすら感じます。
話の中盤以降、「私」が湖畔に「空白」を見いだし、石を拾います。「私」はその石に夢中で、狂気すら感じます。けれどもその石が何だったのか、最後まで語られません。最後まで、「私」が石に執着していたことだけが語られています。
亡霊ように湖畔に暮らす「私」は何を拾ったのか。
不思議な魅力を感じさせる、純文学。お勧めです。