猫小路さんの今回の作品は所謂〝ヒトコワ〟ものです。
お得意の怪異が出たりするものではなく、〝眼の前に存在する人物が怖い〟というものですね。説明する程のものではありませんね。
人間というものは存外、怖い生き物です。自分勝手な都合で信じたと思い込んだ相手を八つ裂きにするように殺したり、逆に信用させてコロリ、簡単で単純ですね。
ただ、躓いた先に尖った石がたまたまあっただけ。
ただ、飲んだものの中に何故だか洗剤が混ざっただけ。
ただ、優しさを装って相手を事故に見せかけただけ。
たまたまですよ。
今回の話は、やっぱり人間が一番恐ろしいという事を青春の一ページに准えて描いたものです。
怖いですね。
ホラーと現代ドラマを主戦場にされている猫小路葵さんの最新作は、見事なヒューマンホラーでした。
ストーリーは、田舎から都会に転向してきた女子中学生の主人公が、演劇部の先輩にいじわるされ、1週間の発生練習と、それに続くテストを科される場面から始まります。発声練習は、演劇部でよく使われる、北原白秋の、「あめんぼ、あかいな、あいうえお」の歌です。そんな上級生の理不尽な要求をじっと見ていた、演劇部の雨坊(あめぼう)さんが、可哀そうに思ったのか、主人公に「練習場所にピッタリなとこ知ってるよ。人けのない池なんだ」と紹介してくれるのです。主人公はその池で毎朝練習し、あめんぼあかいな、の歌を歌い続けますが、実はその池には、歌を歌うと引き込まれて死んでしまうという怖い噂が。。
北原白秋の楽し気な歌に乗って、実はその奥底に残酷な欲望が潜んでいるというところが、なんとも人の心の怖さを引き立てて、背中がうすら寒くなるようでした。
だけど、ホラーと笑いって、実は表裏一体みたいなところがあって、サム・ライミ監督の「死霊のはらわた」なんか典型ですが、ゾンビもののホラー映画なんかもエンディングはなぜか明るい歌がチャカチャカと流れたりしますしね。恐怖も笑いも、どちらも人の琴線に触れないと出てこないものであり、案外根っこは等質なのかも知れません。
相変わらずの見事なお手並み、安定のクオリティ。
わたくしはお勧めしますよ!