『夏の標本箱』というタイトルを見て、読み終えたあとに思ったのは、本当にひとつの箱を覗きこんでいるような感覚でした。そして何度か読み返していて頭に浮かんだのは、キューブリックの映画と、ダリの絵画。
そこに並んでいるのは整然と分類された標本ではありません。子供の頃の夏、古代の遺跡、科学、神話、日常の小さな違和感、まだ名前のない感情――そんなさまざまな世界の欠片が、ぎゅっと詰めこまれています。
そして作者は、その箱から「えっ、そこを組み合わせるの?」というものを取り出して、こちらに差しだしてくれます。
けれど、奇抜さだけを狙った歌ではありません。豊かな知識や観察眼が根底にありながら、それをひけらかすことなく、あくまで言葉遊びや想像の翼として使っているところが魅力だと感じました。
読み進めるほどに、作者の頭の中にはどれほど多くの引き出しがあるのだろう、と驚かされます。けれど、その引き出しから出てくるものは決して難解ではなく、どこか懐かしく、可笑しく、時には少し不思議で、何度でも覗いてみたくなるものばかりです。
夏という一瞬の季節を閉じこめた、遊び心と知性に満ちた標本箱。
覗くたびに違う発見がある箱を、あなたもぜひ開けてみてください。