第二回目ご招待契約

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★【第四部】では、ボッチな若伯爵ジェシー・ウエストが、一目惚れしたアイラのために、周辺の妨害にもめげず頑張りながらスベりまくります。だいたいそんな話です。

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 ギーズ邸に迎えの馬車が止まった。


 あの日と同じウエスト家の紋章のある白馬二頭立て馬車。今回の御者はナットさん。そして中から現れたのは――。


 白バラの花束を持った、モーニングコート姿のジェシー・ウエスト!


(おぉ〜っ、オーラが半端ない! 平熱が37度くらいありそう、湯たんぽ代わりにできそう)


「お手をどうぞ、レディー」


 わたしはしきりにタバコを吸っているランベール様に見送られ、ジェシー・ウエストのエスコートでプリンセスのように馬車に乗った。


(本物のお貴族様! おっと、ランベール様もアイラも貴族だった。でも北橘(ほっきつ)佳奈はジャージを着ていたダサい北関東民なのよね)


 といった経緯で、ただ今ウエスト邸の応接室でジェシー・ウエストと契約締結中でございます。今日から新たなリッチ契約社員生活がはじまるのです。

 フェロモン大王の髪の毛は未だにフッサフサ。


 追加契約内容としてこだわった『住まいは離れ』と、ランベール様がごり押しした『後見人との面会』を承諾してもらった。ジェシー・ウエストは呻き声を発したが、まぁいいか。

 引き換えに『必要な場合は社交の場に出る』ことを認めさせられ、『危機管理はそれなりに』は取り除かれなかった。


「あの、この危機管理というのは、まさかとは思うんですけど……」

「あぁ、侯爵家は相変わらず私を婚約者にしたいらしい。私にパートナーがいれば諦めると思ったので……」


(やはりそれか、〈のっぴきらない事情〉とは!)


 つまりこの契約は、最初から〈エリーゼの盾〉としてわたしを犠牲にするということだったのだ!


 何が謝罪だ!


 説明不足というのはこのことだ、前回会ったときはっきりと言えばよかったのに!


「なぜそういった事情を、前回も今回も説明してくれなかったんですか? 理由さえ聞いていれば納得できたこともありましたし、エリーゼ嬢への対応もあらかじめ用意できたと思います。何回あの人と無駄な話し合い(取っ組み合い)をさせられたことか!」

「その件については申し訳ないことをしたと思っている。オリエンス侯爵家との関係については表に出せない事情があって。エリーゼ嬢が来たとき執事が対応しようとしたら、すでに離れに向かっていたらしい」

「それ、申し訳ないなんて1ミリも思ってないでしょう!」

「アイラ嬢? えっ?」


 ジェシー・ウエストが驚くやいなや、わたしはテーブルをげんこつで叩いて立ち上がった。その拍子にカップが傾いて紅茶がこぼれた。後ろに控えていた石化執事さんが怯えていた。


 淑女らしく? 知りませんけど!


「ならばっ、説明不足だったということで、追加の謝罪を要求しますっ!」

「何ということをするんだ、あなたは!」


 立ち上がったジェシー・ウエストが拳を握って睨んでくる。負けるもんか、ここで妥協してなるものか! わたしはさらなる報酬を要求するのだ!

 全ては一軒家のため!

 それに、この男に一泡ふかせるのもいいよね! ざまぁ!


 しばらくの沈黙の後、ソファに座りなおしたジェシー・ウエストが尋ねた。


「……で? 何を要求するのかな?」


 ふ~っ、収まった。

 しかしこの男が一歩下がるということは、腹に一物ありそうだ。用心、用心。この際契約取り止めでも構わないので、あざと可愛らしい微笑みと一緒に思い切り吹っ掛けた。


「契約終了時、首都に家を一軒、下さいませんでしょうか、伯爵様~」


 コテン、ニコッ。


 しばらくの沈黙ののち、執事さんが使用人を呼んで、瞬く間にテーブルの上が片付けられた。


「……ふう、分かった、では一軒家を贈呈しよう。ただし、そこまで要求するのなら、契約違反をした際の違約金を上乗せしなければならないよ」

「お手柔らかにお願いします」


(要求を呑んだ、意外!)


 この世界では居場所がなく、さすらいのわたし。


【自立する】と思っても、それがいかに難しいことか。


 北橘(ほっきつ)佳奈時代みたいに、その辺で働いてアパート暮らしということができない。ランベール様の後見があって初めて実現した。だけどこれも、一軒家をゲットするための試練かもしれない。家さえあれば、あちこちフラフラする必要もなく生きていけるのだ。

 この世界に来たと同時に孤児になった自分の立ち位置は自分で何とかしなければならない。この際フェロモン大王を利用するのもアリだ。


 という訳で、ウエスト邸で再びお連れ様(よく分からない役割)として過ごすための第二回目『契約書』にサインをしよう。


 サラサラ~。


 見よ、書道五段の実力を!


「何かな、この象形文字は。呪文?」と突っ込まれた。


(あれっ、漢字で『北橘佳奈』と書いてしまったわ。まさか前回も?)


「これがわたしのサインです(違うけど違わない)」

「普通に『アイラ・サウス』と書いてほしい。横線を引いた上でいいから」

「じゃ、『アイラ・サウス』っと」

「スペルが間違っている」



※



「私のことは何も聞かないんだな。仕事や趣味のことや」


 契約が無事成立したからなのか、ナットさんから葉巻を渡されたジェシー・ウエストが、足を組んでくつろぎながら尋ねた。なるほど、この人はタバコではなく葉巻派なのだ。


「お聞きした方がいいんですか?」

「……そういうわけではないけれど、少し寂しいじゃないか」

「単なる契約でしょう? お互いの個人情報は明かせませんよ?」


 だってわたし、本物のアイラを知らないんだもの。フェロモン大王のことだって知る必要はないよね。


「はは、見かけに寄らず頑固なんだ。悪女という噂も間違いではなかったのかな」

「わたしはパーティーに行ったことはありません」

「そうだろうね。保護者やパートナーがいないと正式なパーティーには参加できない。どこからあんな噂が出たんだろう?」


 ……ミリーしか考えられない。


 伯爵様は、実際に話してみると気さくなところがあるし、理解力もありそう。隙の無い着こなしとたたずまい、オーラが凄くて近寄りがたいけれど。


(ほだされてはいけないぞ、アイラ!)


「私を『ジェシー』と呼んでくれると嬉しいんだが」


 いや、無理。年上だし絶対無理。けれど北橘佳奈とはタメ。でも無理。


「ええと……では普通に、『ジェシー様』で」

「私も『アイラ』と呼ばせてもらうから、よろしく。この指輪はずっと付けていてほしい」

 ジェシー・ウエストがわたしの前でひざまずき、前回と同じシルバーの指輪を右手の薬指にはめた。この指輪に何の意味があるんだろう。


「ようやくアイラと一緒になれて私は幸せだ」と低く太い声で言いながら、魅惑的な香りを振りまきながら、ジェシー・ウエストがわたしの手の甲にキスした。


 えっ、挨拶だよね、これ。誤解させるような言い方はやめてほしい。


「もちろん、指輪は契約終了日にお返しします」


 こうしてわたしは契約社員の更新をした。ボーナスは一軒家でございますのよ。そのために、これから半年間ウエスト邸で過ごすのだ。だから素敵な家を下さいな、フフフッ!



※



 ウエスト邸のエントランスは明るい色合いでリフォームしてあり、威厳しか感じられなかった以前とはだいぶ異なっていた。前回わたしの世話を放り投げた高飛車メイドは見当たらず、代わりに侍女(?)が離れに控えていた。


 侍女ですよ、侍女。腰元。ギーズ家では特に決まった侍女はいなかった。エレン奥様にはゾロゾロくっついていたかも。


「気持ち良く過ごせるように、屋敷中を模様替えしたんだ。離れも令嬢向けに模様替えした。気に入ってもらえたかな?」


 ブルー調だった離れのインテリアは、淡いクリーム色で統一されていた。カーテンもヒラヒラフリル生地になっていた。


「もちろんです、ありがとうございます!」


 ありがとうジェシー・ウエスト。必ず、必ず、沢山のお金と一軒家を下さい。


(そういえば、呪いの布人形は?)


「何を捜しているんだ?」

「いえ、別に……」


 ない……処分されてしまった!



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☞アイラは追加料金の一軒家を頂だいするという抜け目なさを発揮しました。しかしその愚行がのちのちパトロンの怒りを買うことに……パトロンの権限は大きいのです。次回から正真正銘お貴族様な生活がはじまります。

☞通常ならここからアイラが絆されて相思相愛になってジェシー・ウエストとハッピーエンドとなるのでしょうが、この話は作者に似てひねくれていまして……。

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