新たな契約は波乱の予感
パトロンの周囲が二十度くらい下がった。氷点下ですよ。
晩餐を終えてもランベール様の機嫌が悪い。
「ふざけた男だ!」
「ラ、ランベール様、落ち着いて……」
「相手の気持ちを考えない、自分の要求だけを通そうとする大馬鹿者めが!」
パトロンの権限は強い。なんたって『出資』しているわけだから。何をするにしてもパトロンの承諾が必要だ。わたしは契約の結び方について延々とお説教された。
結構粘着質タイプなのだ。
コツコツコツ……。
おっと、なにやらピンヒールの音が……。
「も~、ランベール、あまり興奮すると死んじゃうわよ。若くしてわたしを未亡人にするつもり? その方がランベールには好みなんでしょうけど、肝心のあなたが死んじゃってはねぇ……」
ギーズ屋敷の女王、エレン奥様がパーティーから帰って来た。投げかける言葉が……すごい。北橘(ほっきつ)佳奈の上の上の上を行っている。
「お帰りなさいませ、麗しの奥様。お気を付けください、いつもながら言葉が過ぎますよ。貴族界隈では避けてください」
「そんなの知らないわ」
ランベール様が奥様の手の甲に軽くキスした。
なるほど、それは単なる挨拶なのね。
「アイラ嬢にしでかしたことに対し、あの男はキッチリ謝罪と挽回ができるのか? それに、半年もの間ウエスト家へ招待? また彼女の貴重な時間を盗む気なのか? そもそもパトロン(保護者)は僕だ。それを横取りする気なのか!?」
「あ~、ハイハイ。聞きかじっただけだけど、ウエスト邸へ行くのはこの子が決めたことなんでしょう? だったら陰から応援すればいいじゃない。セントレは『影』は得意なんだし」
ぷっ、奥様、上手い!
も~、エレン奥様の弟子になろうかな~。
「今更しゃしゃり出てきて保護者になるなどと、厚かましいにも程があります! 僕は許しませんよ!」
ランベール様は煙草を絨毯に投げつけた。
(ヤメて、火事になっちゃう!)
「まさか、契約を受け入れるつもりですか? 伯爵家はもうこりごりではなかったんですか? あれでは札束で人を釣るようなものではないですか!」
(その札束に釣られてるんですけどぉ)
伯爵様から渡された契約内容を見ると、今回は――
・契約期間は半年間
・特定の男性と会うのは禁止
・危機管理はそれなりに
・安心・安全を保障
と簡略化されている。
小説を書くのは静かな離れがいいから、『住まいは離れ』にしてもらおう。それに、『危機管理はそれなりに』も取り除いてもらわなければ。再び虫よけにされ、エリーゼと対決するのは御免だ。
「あの……こちらの要望が通れば、今回は優遇されそうですし、報酬が魅力的なので、契約しようかな~と……」
「アイラ嬢へのお小遣いなら、ギーズ家からもう少し増やしても構いませんよ。ただ……そうですねぇ……前回の謝罪ならキッチリ受けるべきかもしれません、泣き寝入りは御免ですから。だとしたら、今度はパトロンである僕との面会を許可していただきたいものです。第一、アイラ嬢への下心が見え見えですよ。あの男は危険です」
「ええっ、そんなことはないでしょう? わたしみたいな子供に下心なんて」
「さて、どうでしょう……」
ランベール様の心配は分かるけれど、わたしは自分の家が買えるお金が欲しい。
(注:今回の報酬だけでは首都に家は買えません)
結婚に不利になるといっても、わたしはお貴族様と結婚したい訳ではないし、一生独身でも構わない。小説を書いて自由に暮らしたい。
物理的・精神的なざまぁは無理だけど、その代わりあの男からお金をたんまり(注:ジェシー・ウエストの一ヶ月半のお小遣い)ぶん取ることにしよう、そうしよう!
(わたしだって、ざまぁくらいできるのよ! これは自立を妨げられた復讐でもあるのよ!)
わたし――アイラ――の『明日はどっちだ』波乱万丈ストーリーはまだまだ続く。
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☞これでメイン登場人物が揃い、【第三部】は終わりです。次回から『【第四部】第二回目契約は悲劇へのご招待』がはじまります。アイラとジェシーの物語になります。
☞そしてアイラに悲劇が……あのときの真実が。
☞第四部は来週はじめくらいからの投稿です。貴族社会中心になります。少ない知識でちゃんと書けるかどうかちょっと心配です。
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次の更新予定
【第三部〜第四部】転生薄幸令嬢の奇妙な愛人契約――イケオジパトロンか富豪貴族か――えっ二股愛人ですと? 赤城ハルナ @dendarii
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