薄幸令嬢、密通(文通)はじめました

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★首都のヴェストル伯爵邸(ウエスト邸)の離れで過ごすアイラ。はじまりは比較的平和だったのですが……。

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「アイラ様、朝食をお持ちいたしました」

「アイラ様、お散歩のお時間です」

「アイラ様、入浴の準備が整いました」





 上から目線で嫌味たっぷりなメイドが離れ付きになった。髪を引っ詰めてお団子にした、いかにも『わたし仕事できるんです!』系なお姉さん。


 お屋敷とは隔離されているので挨拶する人はいないし、伯爵家のしきたりに気を使うこともない。高級コテージに滞在しているような生活は快適そのもの。契約初日に一年分のお小遣いももらったので、商人を呼んで買い物もできる。


(働かなくて済むし、契約者様はいないし、楽勝~。サウス叔父の言ってた行儀見習い(?)とやらもないしね)


 朝食はオートミールとゆで卵とフルーツジュース。

 ランチは軽食と飲み物、ちょっとしたスイーツ付。質素だけど、少食なアイラにはピッタリ。

 夕食はパン・スープ・果物とは別に、何種類かの料理の盛り合わせプレートが一度に出るので、ちょっとファミレスっぽい。

 伯爵家だからもっと贅沢な料理だと思ったのに、全然違った。


 ここで思わぬ――いや、起こるべきして起こったともいう――問題が発生した。


 そもそもわたしは貴族としてのマナーを知らない。毎度の挨拶・食事など、とまどってばかりのわたしに、使用人たちが不審な目を向けはじめたのだ。おまけに上手くしゃべれないしね。口が上手く動かないんだよ。

 それに、まるで化け物を見るような使用人たちの目つき。


 あぁそうか、どこを向いているのか分からないこの目? だってアイラは元々こうなんだから、どうにもならないじゃない。

 明らかに使用人から遠巻きにされ、おまけに冷遇されているみたいだけれど、実害はないから無視しよう。


 ウエスト邸に来て二週間ほどたったころ、『ウエスト邸の客人様に書物をご覧いただきたく参りました』という要件で、石化執事さんに取り次がれた書店御用聞きが訪ねて来た。


(書店員なんて呼んでないけど……客人がいることを知っているということは?)


「初めまして、レディー。フォート書店のアーチーと申します。ウエスト邸には何度か伺ったことがありまして。本日はレディーのために雑誌・書物などをご用意いたしました。こちらが当店のカタログ、こちらが首都で人気の雑誌でございます。一冊プレゼントいたします。注文したい本がありましたら、注文書に書名を書いていただけると助かります」

「ありがとう、ござい、ます」

「お代はギーズ出版社がお支払するようですので、遠慮なくご注文下さい」

「えっ、そうなんですか?」


 何と言う好待遇!

 ランベール様、ありがとう。

 あなたは本物の赤城大明神様です、ナム―。


 御用聞きのアーチーさんは五十代くらいの小柄なオジサマで、黒々とした髪の毛とカイザー髭を整えた、折り目正しい人だった。

 アーチーさんから渡されたのはギーズ出版社の週刊誌、『セカオピ』だった。パラパラめくると、中に小さな封筒が入っていた。


『アイラ嬢へ』


(ランベール様との連絡網(密通)事案!)


 リビングの隅で見張っている高飛車メイドに知られないようにしなければ。


「何冊か、注文します、ので、来週また、会えますか」

「かしこまりました。何なりとお申し付けください」


(これでランベール様と連絡が取れる!)


 夜になってから読もう。



~ ~ ~ ~ ~

『親愛なるアイラ嬢へ


この所アイラ嬢のことが気がかりで、いつもにも増してタバコを多く消費してしまいます。常日ごろあなたが心配している僕の肺が壊れそうです。奥様からもお小言を頂いています。


ウエスト邸の動向をこちらで独自に調べました。現在伯爵様は不在らしいとのことで、さらに詳し調査が必要でしょう。

滞在先が離れになったことも把握しました。離れですと、愛人と誤解されるかもしれません。伯爵様の意図は分かりかねますが。

調査の詳細は後ほど報告します。


ところで、フリップがアイラ嬢の短編集を出版する企画を立てているようなので、なるべく早めに出版許可をいただけますか。


アイラ嬢がウエスト邸でつつがなく過ごせますよう祈っております。

僕はいつでも側(そば)にいます。


近いうちにまたお手紙を差し上げます。

困り事がありましたら手紙という形でアーチーに預けて下さい。


あなたの後見人、ランベール・ギーズより


PS 手紙のやり取りはアーチーを通してお願いします。くれぐれもウエスト邸に見つからないようにしてください』

~ ~ ~ ~ ~



(待ちに待ったランベール様からのラブレター(違う)!)


 契約内容や伯爵様不在の理由、離れでの生活、ついでにここでの食事内容やお仕着せのデザインなどを書いた手紙をカタログに挟み、翌週アーチーさんに渡した。

 これなら使用人にばれないね。


 もちろん短編集のお話は即オーケーを出しましたとも。しかも屋敷の内情がギーズ出版社に筒抜け、笑う~。


 アホ伯爵を困らせちゃおう、そうしよう。



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☞次回、訳アリ悪役令嬢が登場します。永遠の(?)アイラのライバルです。

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