疑惑の悪女ミリー

 とうとうわたしの無断外出がバレました。


「ちょっと! 今までどこへ行ってたのさ? 旦那様に知られたらあたしが怒られるんだよ! フラフラ外へ出るんじゃないよ!」

 小屋に帰るなり、白い布帽子をかぶった知らないオバサンに怒られたのだ。使用人に怒鳴られる令嬢って、何なの?


 次の日、叔父と思われるスーツ姿のオジサンが小屋にやって来るなり、わたしに怒鳴った。

「絶対ここから出るんじゃない、何も出来ないくせに! いいか、分かったな、絶対だぞ!」


 そんな風に言われたら、嫌がらせでここに居座りたくなるよね、ね。家賃はタダだから、気が済むまで小屋に居座ってやろうか、あぁん!? ついでに呪ってやる!

 ガシャッと外から扉に錠前をかけられ、監禁された。


 DV反対!


 これでは出版社へ行けないし、買い物へも行けない。

 詰んだ。

 わたしの人生、詰んだ。


 よし、こうなったら窓ガラスを割って脱出しよう!


 カシャーン……。


 バレないように小さく割る。コソコソとガラスを取り除き、これでOK!

 さぁ、外に出るぞと壊した窓から顔を出したら、肩で引っかかった。窓が小さすぎたのだ。


 オー、残念……。


『ゴメン、お嬢。ご主人様には逆らえないんだ。で? この窓ガラスどうした?』と、裏庭常連のタンディーさんに不審がられた。このあと窓ガラスには新聞紙が張られたのである。


 脱出失敗。


 パンや水や下着類は窓から支給されたけど、小説を書くことができない。

 あともう少しでアパートを借りてひとり暮らしができたかもしれないのに。

 目標に向かって頑張っていたのに。


『自立してみませんか、サウス嬢。あの屋敷では不自由でしょう。叔父には、ギーズ出版社に奉公することになりましたと話しておきましょう』


 ランベール様……会いたい……。





 外出禁止になったまま、季節は冬になった。

 この頃には監禁は解けて、小屋の外へ出ることはできた。けれど屋敷から脱出できない。

 木枯らしの吹く中を、以前ランベール様から頂いた、この場では全く場違いな厚手の婦人コートをはおり、洗濯物を窓際に干そうとしていたときのことだった。


「あらまぁ、アイラってまだ生きてたんだ。頭は残念だけど、しぶとさは人一倍なのね」

「あぅぅ!?」


 知らない女がわたしの目の前に現れた。


 わたしよりも背が高くて色白の、目つきがキツイ無表情な女。アイラと同じプラチナブロンドの髪。これからお出掛けなのか、胸元を大胆に出した真っ赤なワンショルダーノースリーブドレスに、同色のハイヒールを履いている。後ろに侍女みたいなのとホストみたいなのを引き連れちゃって。


(まっ昼間からキャバドレス。うゎ~、恥ずかしい)


 からまれたら面倒だから、無視しよう。


「屋敷内に物乞いがいるなんて、世間には言えないわ。おバカさんだから何もできないみたいだけれど、洗濯物を干すことはできるのね。あとは草むしりくらい?」

 さては、あんたが、使用人さんたちの井戸端会議で噂の従姉、ミリーね。とうとう正体を現したわね、この女狐(妄想)!

「あ~、目ツキが相変わらずヤバイんだけど!」と言って、ミリーはわたしから顔をそむけた。


(失礼ね!)


「あまりわたくしを見つめないでくれるかしら。しゃべれなくても口を動かすことくらいはできるわよね? ラリィ、カゴを渡してちょうだい」

「はい、お嬢様」

 お嬢様の後ろにいたスーツ姿のホストもどきから、リンゴが入ったバスケットをもらった。メチャ失礼なヤツだけど、リンゴは有り難くいただこう。貴重なビタミン源だから。


「随分上質なコートを着ているけれど、それ、どうしたの? わたくしのではなさそうだけど……」

「……」


(無視よ、無視!)


 ミリーはくしゃっと顔を歪めて去って行った。

 その後ときどきミリーからリンゴをもらうことになる。


「どうして、いつも、リンゴ?」

「アンタしゃべれるの? 食堂のフルーツボウルに置いてあるから盗みやすいのよ」

「お肉、ちょうだい、プリン、ちょうだい、お菓子……」

「父にバレるとマズいから嫌」


(チッ、使えね〜)





「アイラお嬢様、旦那様がお呼びです」


 冬にさしかかったある日、サウス叔父(クズ犯罪者)に呼び出された。


「申し訳ありません、お嬢様。どのような内容なのかは聞いていないんです。あたしが旦那様の書斎までご案内しますから……」

 心配そうな顔のマリオンさん。

「お嬢、俺も一緒に行くよ、中へは入れないけど」

 タンディーさんにも心配された。


 一体どういうことなんだろう?



~~~~~~~~

☞ミリーは一応悪女ポジです。

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