第二回目ご招待契約終了日前夜/突然のプロポーズ

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★二回目契約最終日、ジェシー・ウエストはアイラにある申し出をします。今度はマトモでありますように。

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 結局わたしは二十一世紀の日本に戻れませんでした。


 元祖アイラを眠らせてナンチャッテ令嬢に戻ったわたしは、強制的に首都のウエスト邸本邸に入れられた。


「何が起きるか分からないから、常に近くにいること」

「えええ~」

「このままではいけない、もっと淑女らしくしなさい」

「ハァ……」


 一か月ほどタンディーゴルフクラブに滞在していたので、契約期間は伸びたのだ。

 ランベール様は契約を終わらせようとしたけれど、一軒家がほしいから最後まで続けることにした。


『アイラ嬢、わたしがあのクズ伯爵を見張ってますから、思う存分小説を書いてください。フリップが首を長くして原稿を待っていますのよ。それにわたしも(十八禁スレスレの令嬢奇譚小説を)読みたいんですのよ』と息まいているのは、湖陵館の事件以来わたしの侍女として派遣されたギーズ出版社のお姉様、セレーナさん。


 一度ウエスト邸に来たことがある。つややかなブルネットヘアーを後ろでまとめた、目鼻立ちのくっきりした女性。背丈はわたしと同じくらいだけど、胸が大きい。ランベール様から頂いた服の出所が分かったかも。


 そして驚いたのが。


「アイラお嬢様、お久しぶりです」

「タンディーさん! どうしてここに?」

「ギーズ卿に頼み込んで、しばらくお嬢様の護衛になりました」

「ランベール様の知り合いだったの?」

「ギーズ出版社です、俺の実家のゴルフ場は出版社のお得意様だから。それにお嬢様のお父上とも知り合いだったんです」

「へえ、そ、そうだったの。でも、お仕事は?」

「支配人の仕事はもう一人と交代でやっているんです」


 ふ~ん、交代支配人。よく分からない。


 全身黒服のタンディーさん、カッコイイ。地主の息子さんだったんだ。そんな人がわたしの護衛をしてたんだ。二人ともスタイル抜群だから映えるのよね〜。味方が二人もいるから心強いな。書きかけの小説を仕上げなくては。



※



 アイラが元に戻ったからなのか、上機嫌なジェシー・ウエストに演奏会や演劇、オペラなどに連れて行ってもらい、英気を養ってようやく気分が晴れました。

 ジェシー母のせいで酷い目に遭ったのに、もしかしてわたし、チョロかった?


 明日とうとう、第二回目契約社員勤務が終わる。


(バンザーイ、一軒家、一軒家! 自由に生活しながら小説を書くんだ!)


 ということで、次の目標ができました。


∴ ∴ ∴

目標:自由きままな生活、さらに旅先でカフェ巡り!

∴ ∴ ∴



※



 ウエスト邸での最終日前日の朝、『今夜は離れで晩餐をしよう』と告げられた。


「離れで?」

「静かな場所で話したいこともあるし」

「はぁ……」


 昼間からセレーナさんにオシャレな着付けをさせられ、慣れ親しんだ離れの居間に向かった。ジェシー・ウエストからプレゼントされたディナードレスは胸元と肩と背中が丸空きで寒いんですけど。

 エントランスには護衛役のタンディーさんが睨みをきかせている。

 大丈夫だよ、タンディーさん。ジェシー・ウエストはわたしには優しいから。


 正装したジェシー・ウエストが、真っ赤なバラの花束をわたしに渡した。


「アイラ嬢、長い間一緒に過ごしていただき、光栄でした」

「ありがとうございます」


 居間の隅では三人編成の楽団がBGMを奏でていた。

 ミシェルは呼ばれませんでした。


(すごいロマンチック! まるで映画みたい!)


 それはもう豪華な晩餐でしたよ。


 テーブルには色とりどりのキャンドルが灯され、あの石化執事さんが給仕してくれたのです。テーブルには一口大にカットされた料理がそれぞれのお皿に盛りつけられている。デザートも。


 向かいの席にはまぶしいくらいイケメンなディナーコート姿のジェシー・ウエスト。ここだけ切り取って見ると乙女心がくすぐられるかもね。

 でもね、想像もしなかったしがらみやら慣習がある伯爵家で一緒に暮らしてみると、だいぶイメージが違ってくるのよ。作法もだけど、姑があの鬼BBAっていうのがね……。


 もらうものだけもらったら、伯爵家はさっさとオサラバしよう。


「この国の大雑把な盛り付けとは違い、ガリア国ではこんな風に様々な料理を少しずつ皿に盛りつけると聞いてね」


 最後の日だから気を使ってくれたんだ。ジェシー・ウエストが優しい人だということはもう分かっていますよ。その行動力が、契約という訳の分からない方向へ向いていただけで。



※



「アイラは……あの男のことが好きなのか?」

「あの男って?」

「ギーズ卿だ。愛して……いるのか?」

「愛だとかそういうのではないです、ずっとわたしを支えてくれた人だから……」

「そうなのか」


 元祖アイラが好きなのはタンディーさんだ、甘えられるから。でもそれではダメなのよ、アイラ。それでは生きていけないし、タンディーさんにも負担がかかってしまう、一生を縛り付けてしまう。


「私はすべての気持ちも含めてアイラを守りたい」


 えっ、何てボランティアな人なの。


 わたしの右手がゆっくりとジェシー・ウエストの両手に包まれた。

 圧倒的なぬくもりと、何やら分からない香水の匂い。気持ちいい。ずっとこうしていたい。


 まさかこの香水、媚薬じゃないよね? 魅了の力でも持ってるの?


「アイラの事情も知らずこれまで振り回して申し訳なかった。こうなったのも、私が情けなかったから……」

「もう、いいんです。契約が終わればわたし、自立するから」

「えっ、自立?」

「だってそうでしょ、家を頂だけるんでしょ、そしたらわたしは自由、フフフ」

「な、何を言って……」

「ジェシー様、必ず一軒家をくださいね!」


 そう言ってジェシー・ウエストを見上げたら、顔を真っ赤にしていた。


「では、いただこう」

「ハイ」


 炭酸割蒸留酒で乾杯。ヴェストル領の蒸留所で製造されたお酒らしい。めちゃ薄いハイボールってやつ? わたしはグレープフルーツサワーがいいな。


「いっそのことストレートで飲みたい」

「はぁ?」

「割ったのじゃなくて、普通のお酒を飲みたい。ワインとかウィスキーとか」

「だめだ」

「え~」


 北橘(ほっきつ)佳奈ならビールからはじめて日本酒、ワイン、焼酎、ガンガン飲めたのに。アイラの身体弱っちすぎ、チッ。


 まずは蒸しエビの前菜。

 モゴモゴ。

 うん? いつもより薄味で柔らかい。レディーに優しいね。パンもちぎらなくて大丈夫な大きさだし。ギーズ家の晩餐みたい。


「色々あったが、私はアイラと一緒に過ごせて楽しかった。あなたはどうだったかな?」

「わたしは……それなりに」

「それなりに?」

「あくまでウエスト邸への招待というか、契約ということでしたので、楽しもうとは思っていなくて(隠れて小説書いてました)」

「そういうことか……私は契約とは関係なく、できればずっとウエスト邸で過ごしてもらいたかったんだが」

「ずっと?」

「ずっと……本当の、妻として」

「えぇっ?」


(キ、キター!? 人生初のプロポーズですか、これ?)


「そ、それって……あぅあぅ、で、でもわたし、ジェシー様のお母様に睨まれているし……」

「母は領外へ行かせる。もうアイラに会うことはないよ」

「でっ、でもっ、本当の妻とは? ハッ、もしかして偽物の妻がいるんですか!? 表向きの正妻で、妾がいるとか!? それともエリーゼが正妻でわたしが妾!? サイテ~!」

「そんなわけないだろう、エリーゼは関係ない、それにこれは小説ではないんだ。一応プロポーズだったんだが」


(ど、どうしよう……なんて思っている時点で、ジェシー・ウエストに未練タラタラじゃない……)


「返事は今すぐでなくていい。いずれギーズ卿に申し込まなけれなければならないが、アイラの気持ちが知りたくて」


「あぅあぅ……」


 き、気まずい……が、デザートを食べたい。そんなときは話題をそらす攻撃!


「あ、食後はコーヒーでお願いします」


 ジェシー・ウエストと石化執事さんが、目を合わせながら声を出さずに笑った。わたしは黙ったままひたすら三種類のデザートを口に運んだ。


「ぜひ前向きな返事を、アイラ嬢」

「か、考えておきますジェシー様。長い間お世話になりました」

 ジェシー・ウエストがわたしの前でひざまずき、手の甲にキスをした。


「今度こそ契約は終わった」

「はい」

「だが、私たちの関係は終わらない。むしろこれからだ」


「……(う~ん、困った)」



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☞これからアイラを巡り二人のナイトの心が揺れ、アイラ/北橘佳奈が翻弄されます。その先にハッピーエンドはあるのでしょうか。

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