オリエンスの変/悪役令嬢再登場

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★エリーゼ親子と鉢合わせした二人。

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「まあぁ、ジェシー様、いらしていたのね! お会いしたかったわ!」


(この声、聞き覚えあり!)


 相変わらずの天まで届く髪型、クジャクの羽飾り、無駄に広がりまくった五重塔ピンクドレス。エリーゼは相変わらずなファッションのセンスなのだわ。


「お久しぶりです、レディー・エリーゼ」


 張り付いた笑みで、ジェシー・ウエストがまたまた流れるようなお辞儀をした。手の甲キスはしていない。


「まあ、他人行儀ですわ、ジェシー様。わたくしたち婚約者同士ではありませんの。一年半もお会いできなくて寂しかったんですわぁ。どうしてわたくしをエスコートしてくださらなかったの?」

 シナを作りながら上目遣いで可愛らしく、しかも声が大きいエリーゼ。わざと周りに聞こえるようにしていそう。


「紹介いたします、エリーゼ嬢。こちらは私が保護しているアイラ・サウス嬢です」

「保護ですって?」

「今回はさる貴族の紹介で、両親を失ったアイラ嬢をエスコートすることになりました。申し訳ありません」

「この方、離れにいたジェシー様の愛人でしょう? 舞踏会に愛人を連れて来るなんて、ジェシー様のお顔に傷が付きますわ」


 エリーゼがわたしをガン見した。

 ガン見に対しては不気味なガン見で対抗。


「アイラ嬢は愛人などではなく、私の被保護者です」

「だって、ウエスト邸の離れにいたじゃない。わたくしこの方に、コーヒーを掛けられたんですのよ」


 わたしはジェシー・ウエストを押しのけ、エリーゼ・イーストの前に出た。愛人呼ばわりするなんて許せない。意地でも負けるわけにはいかない。


「わたしは愛人などではありません。伯爵様に保護していただいているのです」

「愛人のくせに何を!」

「大きな声を出さない方がよろしいのでは。さぁ、参りましょう、ジェシー様」

 ホホホ……と扇子を口に当て、勝ち誇ったようにジェシー・ウエストの腕に手を添えた。


「華厳(けごん)の滝を越えて尾瀬まで追い詰めたのに、谷川へ逃れるなんて! そこで遭難しなかったの!?」

 キタ、地元民にしか分からない言葉の流れ!

「ウフフ、わたし水上(みなかみ)の雪は慣れてますので」


「しっ、余計なことは言うな」

 エリーゼと込み入った話し合い(かるたバトル)ができるからワクワクしてたのに、ジェシー・ウエストに禁止されてしまった……チッ!


「エリーゼ嬢、誤解しないでいただきたい。私に愛人はいません。保護しているアイラ嬢とは、将来を考えているのです」

 突然ジェシー・ウエストが、わたしの頬にキ、キスしてきたっ。

「なっ、何ですって?」

「そういうことなんですの」

 わたしもジェシー・ウエストにしなだれかかった。


「グスっ、お父様ぁ!」


 刮目(かつもく)せよ、エリーゼ! そして、二度とわたしの前に現れるでない(ただしかるたバトルは別だ、いつでも相手してやる)!


 わたしたちはエリーゼが人ごみに消えるのを見た。すると、カツカツと重厚な靴音が近づいて来た。


「久しく見かけなかったな、ジェシー。国外から帰ったのなら、なぜ連絡しなかった?」


(誰!?)


 ご立派な口髭と顎髭で頭頂部が薄いオジサンと、厚化粧の若作りオバサンが、小柄なわたしを見下ろしていた。

 どなたですかね、超怖いんですけど。

 エリーゼを見習って髪の毛をもっと高く結っておくんだった。あの髪型には理由があったのかもしれない。今更だけど。


「ところでこの薄気味悪い娘のことかな、エリーゼの言う愛人とは。ウエスト邸でエリーゼが狼藉を働かれたそうじゃないか」


 ピクッと反応したわたしを制して、ジェシー・ウエストが前に出た。


(濡れ衣よ、働かれたのはわたしなんですけど!)


「お久しぶりです、オリエンス卿。挨拶もなく申し訳ありませんでした」

「全くだ。保守議員連盟の会合にも顔を出さないとは。議員の役目を軽視しているのか」

「重ねて申し訳ありません、仕事で忙しかったのです。お言葉ですが、彼女は愛人などではありません、サウス家のアイラ嬢です。一昨年彼女の両親が亡くなりましたので、私が保護しているのです」

「愛人だなんて、困ったお方だわ。エリーゼが嘆いていますのよ。先代の過ちを繰り返さないようにしなさいね」と、エリーゼ母。

「外交補佐官だからという言い訳で逃亡し、一年以上逃げ回った末に、挨拶もできない礼儀知らずな娘を連れて来たのか」


「なっ、何をおっしゃって……」

「あ……」


 挨拶もできない……本当にそうだ、わたし貴族らしいことなんて、何もできない。


「ふうっ、仕方ない男だ。エリーゼ、愛人くらい大目に見てやれ」

「そんな、お父様、わたくしは愛人なんて認めません!」

「わがままを言うんじゃない」

 エリーゼ・イーストは、青ざめて気を失いそうになっている。エリーゼが転生者なら、愛人のいる夫なんて嫌だよね。


「エリーゼは十六になった、今まで婚約は後回しにしていたが、そんなことは言ってられない。すぐにでも婚約式を挙げ、挙式は来年とする。こちらで全て準備するから、ジェシーは何もせずともよい」

「私はエリーゼ嬢との結婚を承諾していません」

「お前のことは先代から頼まれている。自分では何もできないんだろう? それに、わが家と縁続きになればウエスト家の悪評も消える。外交補佐官の話は上から止めておくから、それまで逃げないことだな。婚約状は近々届けるから、すみやかに書名しなさい」

「お待ち下さい、オリエンス卿!」

「今度こそ逃げるんじゃないよ、ジェシー。保守議員連盟の会合には必ず参加しなさい、これ以上ウエスト家を貶(おとし)めるんじゃない、愛人にうつつを抜かしおって、馬鹿者が!」


 言いたいことだけ言って、侯爵家一行は去って行った。

 挨拶も何もできなかった……わたしはしがない令嬢モドキ。


「……」

「アイラ? エリーゼ嬢のことは気にしないでくれ、何とかするから……」

「わたし愛人なんかじゃありませんけど」

「もちろん」

「最初に乱暴を働いたのはあっちです」

「……エリーゼが勝手なことを言ったんだろう」

「こんなところにいたくない!」

 わたしは彼の手を振り払ってエントランスへ走り出した。


「待ってくれ……!」


 面と向かって愛人と言われると凄くショック。

 エレン奥様、ランベール様の愛人のつもりになっちゃって、ごめんなさい、ごめんなさい……もうそんな真似はしません、だから嫌わないで。


 エリーゼを回避するためにジェシー・ウエストがわたしを利用したのは頭にくるけれど、あの侯爵に何を言っても無駄というのが……。

 何という無益な契約!


 金と家さえもらえればジェシー・ウエストとは他人になるし、こんな思いはしなくて済む。愛人なんて言われなくて済む。

 ここは一旦落ち着こう。


「分かった、帰ろう」


 ジェシー・ウエストがわたしの手を引いて、エントランスに向かった。



~舞踏会はさらに続く~



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☞あのとき(【第二部】『疑惑の悪役令嬢来襲! 令嬢モドキは令嬢になれない』)かるた乱闘したのはアイラとエリーゼ両方です。今となっては真実を知る者は石化執事さんだけになってしまいました。真実を知る使用人はジェシーによって解雇され、その追放先を指定したのはセントレ商会、つまりランベール&ウォルティーです。

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