第8話 兄弟として過ごす日々


暖かな朝日が村を照らす。


小鳥のさえずり。


牛の鳴き声。


風に揺れる麦畑。


「……平和だ。」


メグルは窓を開け、大きく伸びをした。


隣の部屋からは慌ただしい音が聞こえる。


「メグルー!」


ドタドタドタッ!


勢いよく扉が開く。


「起きてー!」


シノが元気よく飛び込んできた。


「朝ご飯できてるよ!」


「ノックぐらいしろよ……。」


「兄妹なんだからいいじゃん!」


「昨日からだけどな。」


二人は顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。


食卓には焼きたてのパンとスープが並んでいた。


「おはよう。」


優しく笑う女性。


この世界での母、エマ。


隣には大柄で無口な父、ロイドが座っている。


「今日は畑仕事だ。」


「はい!」


二人は元気よく返事をした。


もちろん、この両親は本当の親ではない。


だが、この世界での記憶が自然と心に馴染み、不思議な懐かしさを感じていた。


この村の名前はリーフェ村。


人口は百人ほど。


畑を耕し、家畜を育て、助け合って暮らしている。


魔物もいない。


戦争もない。


「よし!」


メグルは鍬を持ち上げる。


「今日は俺が全部耕す!」


「張り切ってるね。」


シノは笑いながら種を植えていく。


「昨日まで船にいたとは思えないな。」


「その前は鍛冶屋見習いだったし。」


「その前は勇者。」


「一話で死んだ勇者ね。」


「それ言うな!」


二人は大笑いした。


昼休み。


木陰で弁当を食べる。


「ねぇ。」


シノが真面目な顔になる。


「私たち、何回転生したら終わるんだろう。」


メグルは首を横に振る。


「分からない。」


「でも。」


「絶対に意味はある。」


「うん。」


シノも静かに頷いた。


「メグル兄ちゃーん!」


「シノ姉ちゃーん!」


村の子どもたちが走ってくる。


「遊ぼう!」


「いいよ。」


鬼ごっこ。


かくれんぼ。


木登り。


夕方まで遊び続けた。


「メグル兄ちゃん速ーい!」


「勇者だったから……って言えないか。」


「何?」


「何でもない!」


---


夜。


庭で星空を眺める二人。


「ねぇメグル。」


「ん?」


「この世界。」


「終わってほしくないね。」


その言葉にメグルは少し黙る。


(今までの世界は最後に必ず壊れた。)


(この世界も……。)


「俺が終わらせない。」


「できるだけ長く守る。」


シノは少し笑った。


「メグルらしい。」


数か月後


二人はすっかり村の人気者になっていた。


収穫祭では歌を歌い、


畑仕事を手伝い、


子どもたちと遊び、


村人たちと笑い合う。


「メグル!」


「パン焼けたよ!」


「今行く!」


穏やかな毎日。


今までで一番幸せな人生だった。


しかし――


ある日の夜。


メグルは一人で井戸へ水を汲みに行く。


その時だった。


頭の中に、久しぶりにあの機械音声が響く。


> **世界No.4**


> **経過日数:412日**


> **世界到達率:0.013%**


> **警告**


> **終焉まで残り365日**


「……一年。」


一年も生きたのは初めてだった。


だが、それでも終わりは来る。


メグルは拳を握る。


「また失うのか……。」


そこへシノがやって来る。


「また聞こえた?」


「……うん。」


シノも静かに頷く。


「私も。」


二人はしばらく黙って夜空を見上げた。


流れ星が一筋、空を横切る。


「今度こそ。」


メグルが呟く。


「終焉を止めよう。」


「この世界だけは守りたい。」


シノは力強く頷いた。


「一緒に。」


二人は静かに手を重ねる。


その様子を、村の外れに立つ一人の黒い外套の人物が、遠くから見つめていることにはまだ気づいていなかった。


その人物は低く呟く。


「輪廻者が……ついに二人そろったか。」


そして、その手には世界地図にも載っていない場所への古びた地図が握られていた。

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