『レベル999で世界最強になった俺、倒した敵の「上限」を奪って無限に進化する ~神話級ボスをワンパンしたら、レベルの概念そのものが壊れた~』

@goddango

第1話 レベル0荷物持ち

第1話 レベル0の荷物持ち


勇者パーティーから追放された五分後。


俺は、世界を滅ぼすと恐れられていた竜を、素手で殴り殺した。



「ハルト。お前は今日限りで、勇者パーティーから追放だ」


巨大迷宮神喰らいの奈落の最深部。


黄金の鎧をまとった勇者レグルスが、吐き捨てるように告げた。


その背後には、聖女リリアと剣聖ガルド、それから宮廷魔術師のセレナが並んでいる。


全員が俺を見ていた。


いや。


正確には、俺の足元に転がされた一枚の羊皮紙を見ていた。


そこには、教会で測定された俺の能力値が書かれている。


――名前、黒鉄ハルト。


――職業、荷物持ち。


――レベル、0。


――能力値、すべて測定不能。


「測定不能」という文字の横には、教会による注釈が添えられていた。


《数値が低すぎるため、測定不可》


レグルスはその一文を指さし、鼻で笑った。


「これまでお前を置いてやったのは、荷物運びくらいには役立つと思ったからだ。だが、レベル0では話にならん」


「そうか」


俺が答えると、レグルスの眉がつり上がった。


「……それだけか?」


「何か言ってほしいのか?」


「泣いて許しを請うとか、今までの無礼を謝るとか、いくらでもあるだろう!」


無礼。


何のことだろう。


夜営中に眠っていたレグルスたちを襲おうとした魔物を、毎晩こっそり始末していたことか。


毒に侵された食料を捨て、安全なものと入れ替えていたことか。


それとも、彼らが倒したと思っている迷宮の守護者を、事前に半殺しにしていたことか。


どれも知られていないはずだ。


俺は十年前、この世界に召喚された。


召喚された者には、必ず特別な職業が与えられる。


剣聖。


賢者。


聖騎士。


そうした華々しい職業を期待されていた俺に与えられたのは、《荷物持ち》だった。


教会の人間は落胆した。


王族は俺を見捨てた。


それでも生きるため、俺は魔物を倒し続けた。


最初は角ウサギ。


次はゴブリン。


オーク、トロール、ワイバーン。


倒せばレベルが上がった。


レベルが上がれば、さらに強い魔物を倒せるようになった。


気がつけば、俺のレベルは九百九十九になっていた。


この世界で確認されている最高レベルは百。


教会の測定器は三桁の数字を表示できない。


だから俺のレベルは、先頭の二桁が消えて「0」と表示されたらしい。


能力値も同じだ。


低すぎて測定できなかったのではない。


高すぎて測定器が壊れたのだ。


もっとも、そのことを説明するつもりはない。


信じてもらおうとも思っていなかった。


「俺が抜けても、攻略は続けるのか?」


「ああ、当然だ」


レグルスが胸を張る。


「ここまで来られたのは、勇者である俺の力だ。お前は後ろを歩き、荷物を運んでいただけにすぎない」


「そうだな」


「……さっきから何だ、その態度は!」


「全部そのとおりだと言っている」


少なくとも、後ろを歩いていたのは事実だ。


前を歩くと、俺が倒した魔物をレグルスたちが目撃してしまう。


勇者の面目を守るために、わざわざ気を遣っていたのだ。


「ハルトさん」


聖女リリアが、おずおずと口を開いた。


彼女だけは、少し申し訳なさそうな顔をしている。


「食料と水は、少し分けておきました。この先は危険ですから、早めに地上へ戻ってください」


「リリア! そんな男に貴重な物資を渡す必要はない!」


「ですが……」


「構わない」


俺は背負っていた巨大な荷物袋を床に置いた。


中には食料、回復薬、野営道具、予備の武器。


勇者パーティーが迷宮を攻略するために必要な物資が、すべて入っている。


「これは置いていく」


「ふん。最後に自分の役目くらいは理解したようだな」


レグルスは満足そうに笑った。


俺は腰につけていた小さな袋だけを持ち、彼らに背を向けた。


その瞬間だった。


迷宮全体が、大きく揺れた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。


天井から小石が落ちる。


壁に刻まれていた古代文字が、血のように赤く輝き始めた。


『封印対象ノ覚醒ヲ確認』


迷宮の奥から、低い声が響いた。


人間のものではない。


声だけで空気が震え、床に亀裂が走った。


『千年ノ眠リハ終ワッタ』


闇の奥で、巨大な二つの瞳が開く。


続いて現れたのは、黒い山のような頭部だった。


一枚一枚の鱗が、城壁ほどの大きさを持っている。


口元から漏れた炎だけで、岩の床が赤く溶けていく。


剣聖ガルドの顔から血の気が引いた。


「ま、まさか……」


宮廷魔術師セレナが、震える声でその名を口にする。


「終焉竜アポカリプス……」


かつて、三つの王国を一夜で滅ぼした災厄。


七人の勇者と四人の聖女が命を捧げ、ようやく封印したと伝えられる神話の怪物。


その竜が、今。


俺たちの目の前で目覚めようとしていた。


『脆弱ナル人間ヨ』


終焉竜が、ゆっくりと口を開く。


『我ガ最初ノ糧トナル栄誉ヲ与エヨウ』


熱気が押し寄せた。


リリアたちが悲鳴を上げる。


「逃げるぞ!」


レグルスが真っ先に来た道へ駆け出した。


だが、通路の入り口に赤い障壁が出現する。


レグルスが剣を叩きつけても、傷一つつかない。


「なぜだ! 開け! 私は勇者だぞ!」


『封印区画カラノ脱出ハ不可能』


迷宮の声が、無慈悲に告げた。


『終焉竜ノ討伐、マタハ全員ノ死亡ニヨリ、障壁ヲ解除スル』


全員の死亡。


その言葉を聞いた瞬間、レグルスが動きを止めた。


ゆっくりとこちらを振り返る。


その目を見ただけで、何を考えたのか分かった。


「ハルト」


「何だ?」


「長年、我々と旅をした仲間として、お前に最後の役目を与えよう」


ずいぶん都合のいい言葉だった。


つい先ほど、仲間ではないと言われたばかりなのに。


「終焉竜を食い止めろ」


「俺一人で?」


「勘違いするな。倒せとは言っていない」


レグルスが俺の肩をつかんだ。


「お前が囮になっている間に、我々が障壁を破壊する。世界を救えるのは、勇者である私だけだ。これは大局を見据えた、尊い犠牲なのだ」


「障壁を破壊できるのか?」


「やってみなければ分からん!」


つまり、俺を置いて逃げたいだけらしい。


「ハルトさんを見捨てるなんて、そんなこと――」


「黙れ、リリア!」


レグルスが聖女を突き飛ばした。


そして俺の背中を、終焉竜の方へ強く押す。


「行け! 役立たずのお前が、世界のために命を使える最後の機会だ!」


終焉竜が息を吸い込む。


周囲の魔力が、その口へ集まっていく。


大地が震えた。


迷宮の壁が溶け始める。


あれが放たれれば、ここにいる人間は一人残らず消し飛ぶだろう。


レグルスが叫んだ。


「早くしろ、レベル0!」


俺は小さく息を吐いた。


「分かった」


「なに?」


「ここから先は、一人でやる」


俺は終焉竜へ向かって歩き出した。


一歩。


また一歩。


背後からレグルスの笑い声が聞こえる。


「ははっ! ようやく自分の立場を理解したか!」


「ハルトさん、戻ってください!」


リリアの声が響いた。


終焉竜の口内で、黒い炎が膨れ上がる。


『消エヨ』


炎が放たれた。


視界が黒く染まる。


千年前に王国を消滅させた、終焉の炎。


俺はその中へ、右手を伸ばした。


そして。


軽く、払った。


バンッ!


黒炎が消滅した。


まるで、風に吹かれた煙のように。


静寂が訪れる。


「……は?」


レグルスの間抜けな声が聞こえた。


終焉竜が、初めて動揺する。


『何ヲ、シタ』


「熱かったから消した」


『有リ得ヌ』


竜の巨大な尾が振るわれた。


山さえ粉砕する一撃が、横から迫ってくる。


俺は片手で受け止めた。


ドゴンッ!


足元の床が陥没する。


だが、俺の体は一歩も動かなかった。


「嘘……」


セレナが杖を落とす。


ガルドは、口を開けたまま固まっている。


レグルスだけが、現実を理解できていなかった。


「た、たまたまだ! 終焉竜は封印から目覚めたばかりで弱っている! そうに決まっている!」


『人間ゴトキガァァァァ!』


終焉竜が咆哮する。


迷宮全体が崩れ始めた。


巨大な前脚が持ち上げられ、俺の頭上へ振り下ろされる。


俺は拳を握った。


十年間。


誰にも知られない場所で、魔物を倒し続けた。


剣を使えば壊れた。


魔法を使えば地形が変わった。


だから最近は、なるべく力を抑えて戦っている。


今回も同じだ。


迷宮が崩れない程度に。


後ろにいる四人が巻き込まれない程度に。


できる限り優しく。


振り下ろされた竜の前脚へ、拳を合わせた。


「少しだけ、本気を出す」


拳が触れた瞬間。


終焉竜の前脚が砕けた。


衝撃は腕から肩へ、肩から胴体へと伝わり、巨大な竜の全身を駆け抜ける。


終焉竜の体が宙へ浮いた。


城より巨大な怪物が、天井まで吹き飛ぶ。


『馬鹿、ナ――』


次の瞬間。


終焉竜アポカリプスは、光の粒となって消滅した。


あとに残ったのは、静まり返った迷宮だけだった。


俺は拳を開く。


少し力を入れすぎたかもしれない。


天井に大きな穴が空いている。


だが、迷宮は崩れていない。


上出来だ。


赤い障壁が消える。


誰も動かなかった。


レグルスは腰を抜かし、床に座り込んでいる。


「お……お前……」


「何だ?」


「今、何をした?」


「殴った」


「終焉竜だぞ……? 七人の勇者でも倒せなかった、神話の怪物だぞ……?」


「そうらしいな」


レグルスの顔が、みるみる青ざめていく。


ここまでの道中。


夜になるたび消えていた魔物。


なぜか瀕死になっていた迷宮の守護者。


一度も全滅せずに最深部まで来られた理由。


ようやく思い当たったらしい。


「まさか……これまで、俺たちが倒してきた魔物も……」


「だいたい俺が弱らせていた」


「毒の沼を渡れたのは……」


「先に毒を抜いた」


「夜営中に、一度も襲撃されなかったのは……」


「近づいてきた魔物を倒していた」


レグルスの唇が震えた。


「では……ここまで来られたのは、私の力では……」


「そう思いたいなら、そう思っていればいい」


俺は彼らに背を向けた。


出口へ向かって歩き始める。


「ま、待て!」


レグルスが叫んだ。


「追放は撤回する!」


俺は足を止めなかった。


「お前を正式な仲間として認める! 報酬も今までの十倍払おう! だから戻ってこい!」


「断る」


「なぜだ! 勇者である私が許してやると言っているんだぞ!」


俺は振り返った。


「五分前に追放されたからだ」


レグルスが息をのむ。


「それに、お前は言っただろ」


役立たず。


レベル0。


世界のために命を使え。


どれも、よく覚えている。


「俺がいなくても、攻略できるんだろ?」


レグルスは何も答えなかった。


俺は再び歩き出す。


聖女リリアが、震える声で尋ねた。


「ハルトさん……これから、どこへ行くんですか?」


「決めていない」


初めて手に入れた自由だ。


王国に従う必要もない。


勇者の面倒を見る必要もない。


好きな場所へ行き、好きなものを食べて、会いたい人間に会えばいい。


そう思った、そのとき。


俺の目の前に、青白い文字が浮かび上がった。


《終焉竜アポカリプスの討伐を確認》


《レベル上限に到達しています》


《固有能力の覚醒条件を満たしました》


《固有能力――“上限捕食”を獲得》


「上限……捕食?」


続けて、新たな文字が現れる。


《終焉竜の成長上限を捕食します》


《レベル上限が、999から1999へ上昇しました》


その瞬間。


十年間、どれだけ魔物を倒しても動かなかった俺のレベルが上がった。


《レベル1000に到達しました》


全身から、今までとは比べものにならない力があふれ出す。


空気が震える。


遠くの山々が鳴動する。


迷宮の壁に、一斉に亀裂が走った。


俺は自分の手のひらを見つめた。


世界最強になってから、もう強くなることはないと思っていた。


だが、違った。


俺はまだ。


成長途中だった。


そのころ。


天上に存在する、神々の宮殿。


千年間閉ざされていた巨大な警鐘が、激しく鳴り響いた。


『警告』


『世界規格ヲ超過スル個体ヲ確認』


『対象ノ名ハ――黒鉄ハルト』


『神々ニヨル排除ヲ開始スル』


俺はまだ知らない。


この日、終焉竜を倒したことで。


世界中の神々から、最も危険な敵として認定されたことを。


そして、その神々さえ。


俺がさらに強くなるための獲物にすぎないことを。

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