『レベル999で世界最強になった俺、倒した敵の「上限」を奪って無限に進化する ~神話級ボスをワンパンしたら、レベルの概念そのものが壊れた~』
@goddango
第1話 レベル0荷物持ち
第1話 レベル0の荷物持ち
勇者パーティーから追放された五分後。
俺は、世界を滅ぼすと恐れられていた竜を、素手で殴り殺した。
◇
「ハルト。お前は今日限りで、勇者パーティーから追放だ」
黄金の鎧をまとった勇者レグルスが、吐き捨てるように告げた。
その背後には、聖女リリアと剣聖ガルド、それから宮廷魔術師のセレナが並んでいる。
全員が俺を見ていた。
いや。
正確には、俺の足元に転がされた一枚の羊皮紙を見ていた。
そこには、教会で測定された俺の能力値が書かれている。
――名前、黒鉄ハルト。
――職業、荷物持ち。
――レベル、0。
――能力値、すべて測定不能。
「測定不能」という文字の横には、教会による注釈が添えられていた。
《数値が低すぎるため、測定不可》
レグルスはその一文を指さし、鼻で笑った。
「これまでお前を置いてやったのは、荷物運びくらいには役立つと思ったからだ。だが、レベル0では話にならん」
「そうか」
俺が答えると、レグルスの眉がつり上がった。
「……それだけか?」
「何か言ってほしいのか?」
「泣いて許しを請うとか、今までの無礼を謝るとか、いくらでもあるだろう!」
無礼。
何のことだろう。
夜営中に眠っていたレグルスたちを襲おうとした魔物を、毎晩こっそり始末していたことか。
毒に侵された食料を捨て、安全なものと入れ替えていたことか。
それとも、彼らが倒したと思っている迷宮の守護者を、事前に半殺しにしていたことか。
どれも知られていないはずだ。
俺は十年前、この世界に召喚された。
召喚された者には、必ず特別な職業が与えられる。
剣聖。
賢者。
聖騎士。
そうした華々しい職業を期待されていた俺に与えられたのは、《荷物持ち》だった。
教会の人間は落胆した。
王族は俺を見捨てた。
それでも生きるため、俺は魔物を倒し続けた。
最初は角ウサギ。
次はゴブリン。
オーク、トロール、ワイバーン。
倒せばレベルが上がった。
レベルが上がれば、さらに強い魔物を倒せるようになった。
気がつけば、俺のレベルは九百九十九になっていた。
この世界で確認されている最高レベルは百。
教会の測定器は三桁の数字を表示できない。
だから俺のレベルは、先頭の二桁が消えて「0」と表示されたらしい。
能力値も同じだ。
低すぎて測定できなかったのではない。
高すぎて測定器が壊れたのだ。
もっとも、そのことを説明するつもりはない。
信じてもらおうとも思っていなかった。
「俺が抜けても、攻略は続けるのか?」
「ああ、当然だ」
レグルスが胸を張る。
「ここまで来られたのは、勇者である俺の力だ。お前は後ろを歩き、荷物を運んでいただけにすぎない」
「そうだな」
「……さっきから何だ、その態度は!」
「全部そのとおりだと言っている」
少なくとも、後ろを歩いていたのは事実だ。
前を歩くと、俺が倒した魔物をレグルスたちが目撃してしまう。
勇者の面目を守るために、わざわざ気を遣っていたのだ。
「ハルトさん」
聖女リリアが、おずおずと口を開いた。
彼女だけは、少し申し訳なさそうな顔をしている。
「食料と水は、少し分けておきました。この先は危険ですから、早めに地上へ戻ってください」
「リリア! そんな男に貴重な物資を渡す必要はない!」
「ですが……」
「構わない」
俺は背負っていた巨大な荷物袋を床に置いた。
中には食料、回復薬、野営道具、予備の武器。
勇者パーティーが迷宮を攻略するために必要な物資が、すべて入っている。
「これは置いていく」
「ふん。最後に自分の役目くらいは理解したようだな」
レグルスは満足そうに笑った。
俺は腰につけていた小さな袋だけを持ち、彼らに背を向けた。
その瞬間だった。
迷宮全体が、大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
天井から小石が落ちる。
壁に刻まれていた古代文字が、血のように赤く輝き始めた。
『封印対象ノ覚醒ヲ確認』
迷宮の奥から、低い声が響いた。
人間のものではない。
声だけで空気が震え、床に亀裂が走った。
『千年ノ眠リハ終ワッタ』
闇の奥で、巨大な二つの瞳が開く。
続いて現れたのは、黒い山のような頭部だった。
一枚一枚の鱗が、城壁ほどの大きさを持っている。
口元から漏れた炎だけで、岩の床が赤く溶けていく。
剣聖ガルドの顔から血の気が引いた。
「ま、まさか……」
宮廷魔術師セレナが、震える声でその名を口にする。
「終焉竜アポカリプス……」
かつて、三つの王国を一夜で滅ぼした災厄。
七人の勇者と四人の聖女が命を捧げ、ようやく封印したと伝えられる神話の怪物。
その竜が、今。
俺たちの目の前で目覚めようとしていた。
『脆弱ナル人間ヨ』
終焉竜が、ゆっくりと口を開く。
『我ガ最初ノ糧トナル栄誉ヲ与エヨウ』
熱気が押し寄せた。
リリアたちが悲鳴を上げる。
「逃げるぞ!」
レグルスが真っ先に来た道へ駆け出した。
だが、通路の入り口に赤い障壁が出現する。
レグルスが剣を叩きつけても、傷一つつかない。
「なぜだ! 開け! 私は勇者だぞ!」
『封印区画カラノ脱出ハ不可能』
迷宮の声が、無慈悲に告げた。
『終焉竜ノ討伐、マタハ全員ノ死亡ニヨリ、障壁ヲ解除スル』
全員の死亡。
その言葉を聞いた瞬間、レグルスが動きを止めた。
ゆっくりとこちらを振り返る。
その目を見ただけで、何を考えたのか分かった。
「ハルト」
「何だ?」
「長年、我々と旅をした仲間として、お前に最後の役目を与えよう」
ずいぶん都合のいい言葉だった。
つい先ほど、仲間ではないと言われたばかりなのに。
「終焉竜を食い止めろ」
「俺一人で?」
「勘違いするな。倒せとは言っていない」
レグルスが俺の肩をつかんだ。
「お前が囮になっている間に、我々が障壁を破壊する。世界を救えるのは、勇者である私だけだ。これは大局を見据えた、尊い犠牲なのだ」
「障壁を破壊できるのか?」
「やってみなければ分からん!」
つまり、俺を置いて逃げたいだけらしい。
「ハルトさんを見捨てるなんて、そんなこと――」
「黙れ、リリア!」
レグルスが聖女を突き飛ばした。
そして俺の背中を、終焉竜の方へ強く押す。
「行け! 役立たずのお前が、世界のために命を使える最後の機会だ!」
終焉竜が息を吸い込む。
周囲の魔力が、その口へ集まっていく。
大地が震えた。
迷宮の壁が溶け始める。
あれが放たれれば、ここにいる人間は一人残らず消し飛ぶだろう。
レグルスが叫んだ。
「早くしろ、レベル0!」
俺は小さく息を吐いた。
「分かった」
「なに?」
「ここから先は、一人でやる」
俺は終焉竜へ向かって歩き出した。
一歩。
また一歩。
背後からレグルスの笑い声が聞こえる。
「ははっ! ようやく自分の立場を理解したか!」
「ハルトさん、戻ってください!」
リリアの声が響いた。
終焉竜の口内で、黒い炎が膨れ上がる。
『消エヨ』
炎が放たれた。
視界が黒く染まる。
千年前に王国を消滅させた、終焉の炎。
俺はその中へ、右手を伸ばした。
そして。
軽く、払った。
バンッ!
黒炎が消滅した。
まるで、風に吹かれた煙のように。
静寂が訪れる。
「……は?」
レグルスの間抜けな声が聞こえた。
終焉竜が、初めて動揺する。
『何ヲ、シタ』
「熱かったから消した」
『有リ得ヌ』
竜の巨大な尾が振るわれた。
山さえ粉砕する一撃が、横から迫ってくる。
俺は片手で受け止めた。
ドゴンッ!
足元の床が陥没する。
だが、俺の体は一歩も動かなかった。
「嘘……」
セレナが杖を落とす。
ガルドは、口を開けたまま固まっている。
レグルスだけが、現実を理解できていなかった。
「た、たまたまだ! 終焉竜は封印から目覚めたばかりで弱っている! そうに決まっている!」
『人間ゴトキガァァァァ!』
終焉竜が咆哮する。
迷宮全体が崩れ始めた。
巨大な前脚が持ち上げられ、俺の頭上へ振り下ろされる。
俺は拳を握った。
十年間。
誰にも知られない場所で、魔物を倒し続けた。
剣を使えば壊れた。
魔法を使えば地形が変わった。
だから最近は、なるべく力を抑えて戦っている。
今回も同じだ。
迷宮が崩れない程度に。
後ろにいる四人が巻き込まれない程度に。
できる限り優しく。
振り下ろされた竜の前脚へ、拳を合わせた。
「少しだけ、本気を出す」
拳が触れた瞬間。
終焉竜の前脚が砕けた。
衝撃は腕から肩へ、肩から胴体へと伝わり、巨大な竜の全身を駆け抜ける。
終焉竜の体が宙へ浮いた。
城より巨大な怪物が、天井まで吹き飛ぶ。
『馬鹿、ナ――』
次の瞬間。
終焉竜アポカリプスは、光の粒となって消滅した。
あとに残ったのは、静まり返った迷宮だけだった。
俺は拳を開く。
少し力を入れすぎたかもしれない。
天井に大きな穴が空いている。
だが、迷宮は崩れていない。
上出来だ。
赤い障壁が消える。
誰も動かなかった。
レグルスは腰を抜かし、床に座り込んでいる。
「お……お前……」
「何だ?」
「今、何をした?」
「殴った」
「終焉竜だぞ……? 七人の勇者でも倒せなかった、神話の怪物だぞ……?」
「そうらしいな」
レグルスの顔が、みるみる青ざめていく。
ここまでの道中。
夜になるたび消えていた魔物。
なぜか瀕死になっていた迷宮の守護者。
一度も全滅せずに最深部まで来られた理由。
ようやく思い当たったらしい。
「まさか……これまで、俺たちが倒してきた魔物も……」
「だいたい俺が弱らせていた」
「毒の沼を渡れたのは……」
「先に毒を抜いた」
「夜営中に、一度も襲撃されなかったのは……」
「近づいてきた魔物を倒していた」
レグルスの唇が震えた。
「では……ここまで来られたのは、私の力では……」
「そう思いたいなら、そう思っていればいい」
俺は彼らに背を向けた。
出口へ向かって歩き始める。
「ま、待て!」
レグルスが叫んだ。
「追放は撤回する!」
俺は足を止めなかった。
「お前を正式な仲間として認める! 報酬も今までの十倍払おう! だから戻ってこい!」
「断る」
「なぜだ! 勇者である私が許してやると言っているんだぞ!」
俺は振り返った。
「五分前に追放されたからだ」
レグルスが息をのむ。
「それに、お前は言っただろ」
役立たず。
レベル0。
世界のために命を使え。
どれも、よく覚えている。
「俺がいなくても、攻略できるんだろ?」
レグルスは何も答えなかった。
俺は再び歩き出す。
聖女リリアが、震える声で尋ねた。
「ハルトさん……これから、どこへ行くんですか?」
「決めていない」
初めて手に入れた自由だ。
王国に従う必要もない。
勇者の面倒を見る必要もない。
好きな場所へ行き、好きなものを食べて、会いたい人間に会えばいい。
そう思った、そのとき。
俺の目の前に、青白い文字が浮かび上がった。
《終焉竜アポカリプスの討伐を確認》
《レベル上限に到達しています》
《固有能力の覚醒条件を満たしました》
《固有能力――“上限捕食”を獲得》
「上限……捕食?」
続けて、新たな文字が現れる。
《終焉竜の成長上限を捕食します》
《レベル上限が、999から1999へ上昇しました》
その瞬間。
十年間、どれだけ魔物を倒しても動かなかった俺のレベルが上がった。
《レベル1000に到達しました》
全身から、今までとは比べものにならない力があふれ出す。
空気が震える。
遠くの山々が鳴動する。
迷宮の壁に、一斉に亀裂が走った。
俺は自分の手のひらを見つめた。
世界最強になってから、もう強くなることはないと思っていた。
だが、違った。
俺はまだ。
成長途中だった。
そのころ。
天上に存在する、神々の宮殿。
千年間閉ざされていた巨大な警鐘が、激しく鳴り響いた。
『警告』
『世界規格ヲ超過スル個体ヲ確認』
『対象ノ名ハ――黒鉄ハルト』
『神々ニヨル排除ヲ開始スル』
俺はまだ知らない。
この日、終焉竜を倒したことで。
世界中の神々から、最も危険な敵として認定されたことを。
そして、その神々さえ。
俺がさらに強くなるための獲物にすぎないことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます