第14話 レディ・バード

「さて、まずはバンとワシの出会いからかの……」


「頼む」


パルミラはコホンと咳払いを一つ。


「5年前、ワシは先王の王弟派に狙われておってな、隣国に亡命しようとしておったのじゃが、途中で護衛のものともはぐれ――」


そこまで言って「ん〜」とパルミラは何かに思い当たる。


「――今思えば、護衛のものも王弟派の手先だったのかもしれん。ワシを一人にするために仕組まれておったのかもな……」


気を取り直してパルミラは続けた。


「で、まだ幼子(おさなご)じゃったワシは見知らぬ街で当て所(あてど)なく逃げ回ったのじゃが、王弟派の雇ったチンピラに捕まってしまっての……そこに!」


パルミラは興奮して思わず立ち上がる。


「颯爽(さっそう)とバンが現れたのじゃ!」


――


ほんの少し前までパルミラを脅(おびや)かしていたチンピラどもが、まばたきする間にボロ雑巾に変わっていた。


アゴを砕かれた者、肋骨を折られ地べたに這いつくばる者、洗濯された服のように壁のうえで2つに折れて垂れ下がっている者。


「悪い人、許せ、苦手、手加減」


チンピラをボロ雑巾にした張本人が振り返る。


少年だった。

自分より少し背の低い、無邪気な笑顔の少年。

だがあどけなさなど感じない。全身至る所に返り血を浴びた姿は、パルミラを恐怖させるのに十分だった。


「大丈夫?」


少年は倒れているパルミラに手を差し出すが――


「あ?」


――手にべっとり血のりがついているのに気づいて、あわてて自分の服でそれをぬぐう。


つい先日13歳になったばかりの少女にとって、その様子は凄惨すぎた。そして、そんな少年の手を取れるほど、パルミラの肝は据わっていない。


「助けてくれたこと……感謝する」


1人で立ち上がり、衣服の砂ぼこりを払う。


「悪いが礼はできない。供の者とはぐれてしまって持ち合わせがない」


猛獣のような少年の前から、一刻も早く立ち去りたかった。


「待つ、お礼、いらない、仲間、探す、困ってる」


見ればこのあたりでは見かけない東洋人の少年。この辺りの言葉が不自由なのかカタコト言葉で訴えかけていた。


「オレ、強い、守る、お前、仲間、手伝う、探す」


「え〜っと、ボディガードをするから、仲間を探すのを手伝え……と」


少年は血のついた顔で「うんうん」と頷く。


「仲間、てんとう虫(レディ・バード)!」


――


「仲間! いたんだ、やっぱり!」


バンはおぼろげな記憶の中の仲間が実在したことを知り、目を丸くした。


「うむ、ワシもお仲間にはあったことがないから、詳しいことは知らぬが……お前は自分をてんとう虫(レディ・バード)の8番目の星と呼んでおった……じゃから7人、お前の他にいたと思うぞ」


「7人……」


「そして……バン、お前はな、ワシを9番目の星と呼んでくれたんじゃ〜♪」


パルミラは頬を染めながら嬉しそうにしていた。

隣でその様子を見ていたさやかは、自分だけ蚊帳(かや)の外(そと)で、なんとも居心地が悪かった。


「で、その後、野獣少年とどうなっちゃったんですか〜」


やさぐれた物言いでさやかは話の続きを急かす。


「そうじゃったな、そこからワシとバンの愛の逃避行が始まるのじゃ」


「明らかに野獣少年に怯えてたあんたが、愛を騙るのはおかしいと思いま〜す」


「最終的に愛につながるのじゃ! グダグダ言うようなら処すぞ!」


うざ絡みするさやかに、食ってかかるパルミラ。


「2人共、もう少し仲良く……」


苦笑しながら2人をなだめるようにバンが言うと――


「わかった! バンが言うなら仲良くするぞ!」


――パルミラが即答した。


「さやか殿、少し仲良くするぞ! 少しな!」


にこやかな表情の中、目だけは笑っていなかった。

容赦はしないという声音(こわね)を絡めつつパルミラは宣戦を布告をした。


「あなたがそう言うなら仲良くしてあげるわ! 少しね!」


さやかも売り言葉に買い言葉。


バンは自分が火に油を注いだことを後悔した。


――

過去編のバンとパルミラのイメージです

https://kakuyomu.jp/users/agma2026/news/11054822664348469578

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