第24話

陣代の簸上宮六(ひかみ・きゅうろく)は、浜路(はまじ)を見て強く心をひかれた。


部下の軍木五倍二(ぬるで・ごばいじ)は、その気持ちを見抜いた。浜路は配下の村長の娘にすぎない。すでに婿候補がいても、権力を使えば縁談を変えさせられると考え、仲人を引き受けた。


翌日、銀二十枚や反物などの結納品を持って、大塚蟇六(おおつか・ひくろく)の屋敷へ行った。


蟇六は、浜路を犬塚信乃(いぬづか・しの)と結婚させ、村長の職と領地を譲ると村人へ約束しているため、すぐには決められないと答えた。


五倍二は、宮六と縁を結ぶ気が本当なら、まず承知し、その後で信乃を遠ざければよい、迷えば蟇六自身が滅びると脅した。


蟇六は青ざめて承知した。縁談は信乃を除くまで秘密にし、結納品も浜路に見せず、亀篠(かめざさ)と二人で蔵へ隠した。


小者の額蔵(がくぞう)は、隣室で蚤を取るふりをしながら、その様子を見ていた。額蔵の正体である犬川荘助(いぬかわ・そうすけ)から、信乃へ情報が渡ることになる。


## 信乃を消す計画


蟇六夫婦は、これまで網乾左母二郎(あぼし・さもじろう)を浜路へ近づけたことを悔やんだ。


左母二郎は、上杉家へ復職できるかも分からない浪人である。地域の軍事と行政を握る宮六とは比べられない。


浜路は左母二郎を嫌い、信乃を将来の夫と思っている。宮六との婚姻を成立させるには、信乃を殺さなければならない。


蟇六は、足利成氏(あしかが・しげうじ)が上杉家と和睦し、古河(こが)へ戻ったという知らせを利用することにした。


成氏は、信乃の祖父が仕えた春王(しゅんおう)と安王(やすおう)の弟であり、信乃にとって主筋に当たる。名刀村雨(むらさめ)を献上して仕官するよう勧めれば、信乃は古河へ向かうはずだ。


旅立つ前に川へ誘い、溺死させる。同時に村雨をすり替えて奪う。それが計画だった。


亀篠は左母二郎へ、信乃がいなくなれば浜路を婿に与え、家も継がせると嘘をついた。その条件として、蟇六の刀と信乃の刀を舟の上ですり替えるよう頼んだ。


左母二郎は浜路を手に入れたい一心で引き受けた。


## 古河への旅


蟇六夫婦は信乃を呼び、村雨を携えて古河の成氏へ会い、祖父と父の忠節を申し立てるよう勧めた。


刀を献上すれば仕官できる。古河に残るなら浜路を後から送り、戻るなら婚礼を行って村長の職を譲るという。


信乃はすでに荘助から、宮六の結納品が届いたことを聞いていた。自分を遠くへ出し、浜路を宮六へ嫁がせる計画だと分かった。


それでも古河へ行き、村雨を成氏へ献上することは父の遺志である。信乃は知らぬふりで喜び、旅立つことにした。荘助は、信乃を心から慕う浜路がかわいそうだと言った。


信乃も何も感じないわけではない。ただ、武士が一人の女性への思いで立身の機会を失ってはならないと考えた。


浜路は親に命じられ、うつむいて涙を隠しながら、信乃の旅装へ針を進めた。


## 神宮川の罠


出発前日、亀篠は信乃へ、滝野川(たきのがわ)の弁才天へ旅の安全を祈るよう勧めた。


参詣の帰り道、信乃は蟇六、左母二郎、老僕の背介(せすけ)と出会った。


蟇六は、明日の送別の酒に出す魚を自分で捕りに行くところだと言い、信乃も誘った。偶然の出会いに見せたが、すべて打ち合わせどおりだった。


一行は神宮川(かにわがわ)へ行き、船頭の土太郎(どたろう)が操る舟へ乗った。蟇六は弁当を忘れたと言って背介だけを帰し、信乃、左母二郎、土太郎と川へ出た。


*


日が暮れたころ、蟇六は網とともに川へ落ちた。信乃の目には、本当に足を滑らせたように映った。


信乃は助けるため飛び込んだ。すると泳ぎの得意な蟇六は溺れるふりをし、信乃の腕をつかんで深みへ沈めようとした。共犯の土太郎も水中で信乃を殺そうとする。


しかし信乃は幼いころから水泳と水中の技を身につけ、力も強かった。土太郎を遠くへ蹴り飛ばし、蟇六を脇へ抱え、片手で岸まで泳いだ。


二人の殺意を悟りながらも、信乃は蟇六を岸へ引き上げた。自分を殺そうとした養父を、逆に救ったのである。


## 盗まれた村雨


流された舟には左母二郎だけが残った。


計画どおり、信乃と蟇六の刀から目釘(めくぎ)を抜いた。目釘は柄と刀身を固定する小さな留め具で、これを外せば同じ形の鞘や柄へ刀身を移せる。


信乃の刀を抜くと、刀身から冷たい水気が立ちのぼった。


左母二郎は、それが足利持氏(あしかが・もちうじ)から春王へ伝わった名刀村雨だと気づいた。


この刀を以前の主君、扇谷上杉定正(おうぎがやつ・うえすぎ・さだまさ)へ献上すれば、復職できる。売っても大金になる。


左母二郎は蟇六との約束まで裏切り、自分で村雨を盗むことにした。


三振りの刀身は長さと反りが似ていた。


左母二郎は、自分の刀身を蟇六の鞘へ、村雨を自分の鞘へ、蟇六の刀身を信乃の鞘へ入れた。


見た目は、それぞれ元の刀のままである。


信乃は、蟇六と土太郎が自分を溺死させようとしたことには気づいていた。しかし舟へ残した左母二郎が、村雨を盗んだとは考えなかった。


夜の混乱の中、自分の鞘に納まった偽物を確かめず、腰へ差した。父子が命がけで守った村雨は、わずかな隙に左母二郎の手へ渡った。

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