時代を語り、質感だけでなく、その臭いや温度まで
実に丁寧に執筆される遠部右喬様さんが
此度の描かれたのは「雪女」ならぬ「氷女」のお話です。
雪女は言わずと知れた妖のお話。
自分の領域に入ってきた人間の命を奪い
「若くて綺麗だから」という理由で
若い茂吉を見逃します。
では、氷女は?
舞台はレトロ。
登場人物は、作家。そして、何か影がありながらも
どうにも艶めかしい雰囲気の女。
氷女は美しい男だからって見逃したりしないのですって。
彼女が求めるのは
「面白いもの」ただ一択。
呼んだ後、物書きをしている人々は
スッと背筋が冷えて、同時に伸びるのではないでしょうか。
私は、氷女にとらわれる価値、あるのかなって。
なんという切ない、というか世知辛いことか……。
主人公の身に起こった出来事。起こってしまったと「察して」しまったこと。それを思うと胸が締め付けられるような心地がします。
主人公は一人の文士。出版社の編集であるY氏に原稿を読んでもらうと「これは文字の羅列」と酷評されてしまうレベル。
辛辣な言葉を投げかけられ、鬱々とする主人公。そんな彼は「氷女」なる怪異についての話を耳にするが……。
この結末を迎えた後、主人公がどのような選択をするのだろう。どんなことを思って生きていくのだろう、とかついつい想像してしまいます。
編集のYさん。彼は冷徹な酷評をする人間のようにも見えるけれど、実は結構誠実ないい人なんじゃないか、とか印象がガラっと変わるような感じがするのも味わい深いです。
そして氷女。彼女の視点の物語が描かれたら、一体どんなものになるのだろう。
そんな心の内を想像すると、更に切ないものが見えそうな気もします。
【レビューコンテスト応募】
売れない三文文士の男。
何度も 小説 を持ち込むも無碍にされては
トドメとばかりにカフェで売れっ子作家が
編集者との膝突き合わせた面談をしている
所にでくわす。
自暴自棄とも言える程に、飲みつけぬ
酒を煽り…。
気付けば自宅の畳の上。
白い女が微笑いかける。
一体、何者なのか。次第に鮮明になる記憶を
辿っては思い出したくもない惨めな
記憶までも穿り出す男。
冷っこい 冷っこい
夜の蹙まに 氷売り の声が響く。
マドンナ・リリーの様な清楚にして何処か
コケティッシュな女の口が吐く
煙管の白さは夜の帷内へと消えて行く。
氷女に雪女ほどの慈悲はなく、ただ興味の
赴くままに凍らせては噛み砕く。
つまらない人。
それも又、人生である。