第2章 「星が集う日は次なる祭典」 第3話

アクターズミュージカルアカデミア——


通称「アカデミア」と呼ばれるその学校は、

お台場のベイエリアに聳え立つ、

最先端の建物だった。


一見、大型商業施設のようにも見えるガラスと鋼鉄の外観だか、内部に入ると最新の音響設備と照明システム、広大な練習室が広がる、次世代のスタァを育てるための養成学校だ。


歴史は浅いながらも、最先端技術を取り入れたカリキュラムで急成長を遂げ、今や演劇界で注目を集めている。


練習室では、軽やかなステップの音が響き渡っていた。


「ワン、ツー、スリー、フォー!」


ハイスクールアイドル『D4』のメンバーたちが、

一糸乱れぬダンスを披露している。


汗が飛び、息が上がりながらも、

笑顔は輝いていた。


トップアイドルとしての実力は、

流石と言わざるを得ない。


「うん、みんな良くなってるよ」


椅子に座ってD4のダンスを見ていた女性が、

満足げに声をかけた。


二柳ひなた。


かつて百合々咲音楽学院で「過ぎ去りし流星たち」と呼ばれた人物。


今はD4の振付師として、彼女たちを導いている。


「今日はこのくらいにして、柔軟忘れないようにね」


「はい!」


D4のメンバーが元気よく返事をして、ストレッチを始める。


「うーん、疲れた〜」


D4のリーダー、黄色のショートヘアの少女・

柊黎夏(ひいらぎ れいか)が、大きく体を伸ばしながら言った。


「そういえば、黎夏と翠月は来週にでも百合々咲に行くんだよね?」


ひなたが帰りの支度をしながら聞いてきた。


「はい、その間 学校とD4の活動はお休みになりますが」


緑髪のショートヘアの少女・立花翠月(たちばな みづき)が、丁寧に答える。


「百合々咲に行くの楽しみー」


「黎夏、向こうに迷惑かけちゃダメだよ?」


他のメンバーが笑いながら注意する。


すると、練習室のドアが静かに開いた。


入ってきたのは、D4のメンバーとそう年も変わらない若い教師だった。


「黎夏ちゃん、翠月ちゃん」


「どうしたんです?」


ストレッチ中の翠月が顔を上げる。


「SNOW WHITEの台本が、百合々咲から届いたよ」


教師が厚い封筒を差し出す。


受け取った黎夏と翠月は、

表紙を見て目を丸くした。


「うぁ、思ったより本格的……」


「流石、百合々咲……」


D4の他のメンバーたちも興味津々で覗き込む。


「これ、来週の練習までに覚えてきてって」


「え?」


台本は数十ページにも及ぶ。

自分の役だけでも、それなりのボリュームがあった。


「マジ?」


「マジです」


黎夏は台本を覚えるのが苦手だった……。




カリスティックアーツ芸術学園


通称「カリスティック」と呼ばれるその学校は、

鎌倉の静かな丘に聳える、

白い宮殿のような佇まいをしていた。


一見、学校というより、

まるで迎賓館のようにも見える。


白を基調とした優美な造形物に、

金の装飾が陽光に照らされて美しく輝いている。


周囲を囲む古木と、整えられた庭園が、

この学園が持つ格式と、

圧倒的な存在感を際立たせていた。


まさに、日本の最高峰の演劇学校。


生徒会室の奥、生徒会長席に座る一人の少女がいた。


美しい金髪を長く伸ばし、

宝石のように鋭く輝く赤い瞳を持つ——


マリナ・ゴールドエーカー。


“カリスティックの王”と呼ばれ、

学園の頂点に君臨する絶対的な存在。


彼女は膨大な書類の山に囲まれながらも、

整然と仕事をこなしていた。


その姿は、まさに人の上に立つ者の風格を漂わせ、

一切の無駄がない。


静寂を破る、控えめなノックの音。


生徒会のドアが静かに開き、

銀髪のツインテールを揺らした少女が入ってきた。


降星プラナ(ふるほし ぷらな)。


その手には、小さなケーキの入った箱と、

小脇に一通の封筒を抱えていた。


「差し入れ持ってきたよー」


そう言いながら部屋に足を踏み入れたプラナは、

机の上に積まれた膨大な書類の山を目にして、

目を丸くした。


「……ちょっと!なんでこんなに仕事があるのに、私たちを呼ばないの?」


腕を組み、マリナを見つめる。


「これは私の仕事……」


マリナは視線を上げず、淡々と答えた。


「いやいやいや!だったら私たちの役目は、ここで働くマナを手伝うことだから!」


マリナはようやくペンを置き、

赤い瞳を彼女に向けた。


「その封筒は?」


「あ、これ百合々咲から」


「SNOW WHITEの台本か」


プラナが箱を机に置きながら、封筒を差し出す。


「ケーキ食べながら読も」


マリナが目を伏せ、わずかに息を吐いた。



「あぁ……少し休憩しようと思ってた」


箱を開けると、そこには色とりどりの小さなケーキ3つ丁寧に並んでいた。


すると、生徒会室に、幼い少女の声が響いた。


「プラナ〜いちごのケーキある〜?」





立風館女学校


通称「立風館」と呼ばれるその学校は、軽井沢の深い竹林に聳える木造の校舎だった。


明治時代に創設された伝統校。

竹林のささやきと、木の温もりが調和した静かな佇まいは、

まるで時がゆっくりと流れる別世界のようだった。


夕陽に染まる姿は、

百合々咲とはまた異なる、深い歴史と静謐な美しさを湛えていた。


道場では、1人の少女がモップを静かに動かしていた。


茶髪のショートボブの少女。


稽古が終わった後の当番生徒が行う掃除を、

彼女は当番でもないのに毎日、自ら進んでやっていた。


これは、この学校に来てからの彼女の日課だった。


自分が舞台に戻れるきっかけになった場所。

だからこそ、感謝の気持ちを1日も忘れたくない。


少女は静かに床を拭きながら、

心の中でそっと呟いた。


「白羽さん」


少女が振り向くと、教師が立っていた。


「毎日、ありがとうございます」


「この場所には感謝しかありませんから……」


教師は少し複雑な表情で、封筒を少女に手渡した。


少女はそれが何かを、すぐに理解した。


「SNOW WHITE……ですよね」


教師は深く頷いた。


「正直、あなたを行かせたくありません。またあなたが壊れてしまうかもしれない」


百合々咲からの招待状が届いた日、

教師は迷っていた。


過去の傷を思い出してしまうから。


少女は封筒を静かに握りしめた。


その時、道場の入り口に2人の少女が現れた。


赤髪のポニーテールの少女、

神代朱(しんだい あかね)と、


青い長い髪の少女、

神代葵(しんだい あおい)


双子の姉妹だった。


「大丈夫だよ先生」


朱が明るく、しかし力強く言った。


「彼女はもう、1人でも飛べます」


葵が優しく微笑みながら続ける。


「なんかあったら、うちらがまた羽根になってやるしよ」


少女は2人の顔を見て、静かに微笑んだ。


そうだ……

みんながいたから、私は……


「大丈夫ですよ先生。私はもう、堕ちません」


茶髪のショートボブの少女、白羽結依(しらは ゆい)は、

まっすぐ前だけを見つめていた。


その瞳には、過去の影を乗り越えた、

静かで強い光が宿っていた。


竹林の風が、道場の窓からそっと吹き込み、

3人の髪を優しく揺らした。


百合々咲からの招待——

それは、結依にとって再び舞台に立つための、

新たな一歩だった。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……



世界を知る物語である。


第3話 完

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SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星- 二ノ宮純 @38210418yj

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