第1章 「白雪姫は夢の跡……」 第7話
二乃はショッピングモールのイベントステージ前にいた。
どんな時でも、このワクワク感に勝るものはなかった。
待ちに待ったD4のライブの日。
(今日もいっぱい人いるな〜)
休日のショッピングモールは元々人が多かったが、
イベントステージ周辺は特にごった返していた。
色とりどりのペンライトやうちわを持ったファンが、 期待に満ちた目でステージを見つめている。
やがて、照明が落ち、音楽が高鳴り始めた。
始まる!
「みんな〜やっほ〜!」
4人の少女が、鮮やかな衣装を纏ってステージに登場してきた。
「D4!!D4!!D4!!」
周りのオタクたちに混じって、二乃も全力でコールした。
D4の一糸乱れぬダンス。
キレのある動きと、完璧に揃ったフォーメーション。
そして何より、歌が良かった。
D4の歌はどれも前向きになれる曲ばかりだ。
この曲で、何度二乃が救われたことか。
1曲目はあっという間だった。
「みなさん、こんにちは!!」
センターの黄色髪の少女が、元気いっぱいに挨拶を始めた。
「私たちアクターズミュージカルアカデミアのハイスクールアイドル」
「D4です!!」
4人の声が重なり、会場に大きな歓声が上がった。
「黎でも白でもみんなを照らすビックな星!
柊黒夏(ひいらぎ れいか)です!」
「揺蕩う風は翡翠を纏う!立花翠月(たちばな みづき)です!」
「大空に届け、私の夢!大空蓮(おおぞら れん)です!」
「散っても散っても咲き誇れ!水瀬(みなせ)さくらです!」
D4の各メンバーの自己紹介だった。
初期の頃は、挨拶の口上すらまともに覚えていなかった。
こんな大勢の前に立つとも思っていなかった。
そう思うと、二乃も感慨深かった。
腕を組んで満足げに頷く。
(この子達も大きくなったな〜)
ステージの光が、4人を輝かせている。
二乃の胸に、温かいものが広がっていく。
自分も、いつかこの子たちのように、
風のように自由に、舞台の上で輝きたい。
D4の歌声が、再び響き渡る。
二乃はペンライトを高く掲げ、
全力で声を上げた。
この瞬間だけは、試験のプレッシャーも、
エーデルの重責も、すべてを忘れられる。
ただ、音楽と、
輝く少女たちに、心を委ねていた。
ライブ終了後の特典サイン会は、熱気と興奮の余韻に包まれていた。
今日は私物にサインしてもらえるということで、
二乃はめちゃくちゃ迷っていた。
何にサインしてもらおう……。
男性ファンの中には婚姻届にサインを求めるという猛者もいるという話を聞いたことがある。
二乃も正直「有りだな」と思ったが、
倫理的にどうだろうと一瞬立ち止まった。
結局、前回のライブの物販Tシャツにサインしてもらうことにした。
そして二乃の番。
今日サインしてもらうのは……やっぱりリーダーの柊黎夏。
「おねがいします!」
「はーい」
黎夏が笑顔でペンを走らせ始める。
チラッと二乃の顔を確認すると、
目が少し丸くなった。
「あ、いつもきてくれる二乃ちゃんだ」
認知されてる!?
正直、覚えられているとは思っていなかった。
「いつもありがと!」
「いえ、あの!去年の夏のハイスクールアイドルフェスのステージすごかったです! 1.5(アイズ)とのコラボステージとか……」
「あれ凄かったよね!!」
黎夏の声が思わず弾む。
「時間です」
スタッフの人に終了時間を知らされ、
黎夏は少し残念そうに笑った。
サインされたTシャツを受け取る二乃。
まだ温かみを感じる感触が、
胸にじんわりと染み込んでくる。
「ありがとうございます!」
去っていこうとする二乃の背中に、
黎夏の明るい声が追いかけてきた。
「二乃ちゃん、またね!!」
二乃は振り返り、大きく手を振った。
「はい!また来ます!」
ショッピングモールの通路を歩きながら、
二乃はサイン入りのTシャツを大切に胸に抱いた。
心臓がまだ高鳴っている。
ライブの興奮と、
推しに名前を覚えてもらえた喜びが、
混ざり合って、胸の奥を熱くしていた。
(また来よう……絶対に)
夕方のモールの灯りが、
二乃の頰を優しく照らしていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第7話 完
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