水平線上のワルツ
よよぎ
水平線上のワルツ
バトルフレーム⋯作業用機械から発展した軍事用の汎用人型機動兵器。
セカンド…第6世代型バトルフレーム、バトルフレームよりふた周りほど大きい。キサラギ機関と核融合炉で稼働しほぼ無限の出力と稼働時間を誇る
ドミナント…セカンドの精神接続機器の適正とキサラギ機関を稼働させられる適正をもつ人のことを指す。もっぱら軍事用語としてはセカンドのパイロットのことを指す。
戦術航空大隊⋯長期間飛行できるフライトユニットを装備したバトルフレームの運用部隊。
今日の哨戒飛行はなにかが違うそう感じたのは、今朝のことだった。対馬防備連隊の戦術航空大隊はレーダーサイトが捉えた低空を飛ぶヘリと思わしきものに備えて連日スクランブル発進をしているがなかなか目視では確認ができていなかった。
空軍の機体を派遣してもらっても、当該空域に航空機の反応なしと早々切り上げられてしまった。とりあえず、早期警戒型の飛行型BFを常に上げている状況を作ったがまるで機体のレーダーには反応がなかった。それなに今日は違う、地上レーダーサイトからの通報ではなく早期警戒機の通報でスクランブルが発令された。
いざ、スクランブルに飛び立ってみると目視できずスクランブル待機の小隊は帰投。一応、大隊長が万が一の状態に備えて4機1個小隊を常に上空待機しておくように命じその時点では何事のなかった。
昼の12時、丁度3交代目の俺の小隊が飛び立ったとき異変は起こった。今までなにも反応がなかった駆逐艦や空軍機が一斉に国籍不明機を通報したのだ。
俺はすぐCP将校の指示に従い、現場へ急行するとそこには、これまでのBFと違うなにかがいた。
ぱっと見では見つからない光学迷彩が施してあり、洋上をホバリングしない限りとても目視できない。水しぶきの立ち具合でようやく確認できるくらいだ。気持ち悪いくらいレーダーに反応はない。データリンクには表れているはずなのに。
「国籍不明機へ告ぐ、こちらは日本帝国軍機である貴機は日本帝国領海を侵犯しているただちにに変針し離脱しなさい」
これで出ていくとは思わないだがこれも国際法だ守るしかない。出ていかなければ最悪撃墜もありうるので警告射撃あたりで出てゆくのか双方の暗黙の領域となっている。
5度の音声警告と2度の翼を振る行為にも反応はなかったので警告射撃を行う。2番機の高瀬少尉が右側を狙い、俺は左側を狙う。
もちろん大幅に外すつもりでいる。どんな屈強な兵士でも銃弾には恐怖を覚えるこれで出ていって欲しい。
だが、奴はトリガーに指を掛けた瞬間動きだした。光学迷彩を解き不気味なほど光を反射しない漆黒の装甲が露出する。「もっと、面白いことしよ」と一瞬どこからか聞こえた気がした。シャープなまるで猛禽類を思わせる機体は一瞬で海面ギリギリから高度1200mへ昇る。
そして急降下、嘲笑うかのように後方でバックアップをしていた3番機と4番機の管制ユニットを正確に手で貫いて撃破した。
「異常事態発生、国籍不明機が敵性行動をとった。ヴァイパー3、4が落とされた、これを敵機と判断する」
「こちら対馬防空指揮所、ただちに当該機を撃破、可能であれば強制着陸せしめよ」
「了解」
緊迫の状態だ。あんな機体をみたのは北九州戦役のときのセカンド以来だろうか。あのときは狭い、管制ユニットの中で圧死仕掛けた。その時に「ははは、弱いね君。でもなんかセカンドに乗ってないここでドミナントを殺すのはもったいないよ」と頭の中に語りかけてきた。気味が悪い。
そして今も、誰かが俺の頭の中で笑っている。低いが女の声すぐ霞んでしまいそうなかすかな声が聞こえる。
「あのときと同じ」
もしそうならあいつはセカンド。その気になれば地球を幾つも滅ぼせる圧倒的な存在。そんな奴と空戦をしなければならない。それは、死を意味しなんの抵抗も全てが無に帰す事になる。
だが、まだ死にたくない。今、俺には今年4つになる娘がいる。嫁も兵曹時代から付き添ってくれた大切な存在だ。
そうだろ、守るべきものがいる。帰るべき所がある。叶えたい夢もある。ならば一世一代の大勝負勝ってみせる。そう胸に刻む。
猛禽類を思わせる漆黒の機体は洋上でホバリングしながら「ねえねえ、楽しいでしょ楽しいでしょもっと遊ぼうよ」と言っている気がする。
「勝手に楽しんどけ」
と返す。
その瞬間、漆黒の機体は視界から消える。本能かなにかで操縦桿を後へ倒しバク転する。コンマ0.1秒後くらいに上空から黒い影が目の前を通過する。
追いかけてゆくと、ハンドガンの12.7ミリ弾が3発それも未来を知っているかようにこちらへ飛んでくる。
そしてこっちもまるで知っているかのように丁度3発アサルトライフルを放つ。双方の弾が空中で激突し墜落。
その隙に、敵機は彼我の距離2mまで接近してナイフを差し込もうとする。こっちもナイフを抜き相手の攻撃を逸らす。まともに力勝負できるほどの出力はこっちにはない。
ナイフ攻撃を逸らしたあと蹴りを入れる。ただ、これはパルスフィールドで緩和され敵機の直撃するころには豆鉄砲ほどに威力が落ちる。
警告
右脚部マニピュレータ オーバーヒート
右大腿部内臓コンデンサ ショート
と網膜投影に表示される。
フライトユニットさえやられなければ空戦は続けられる。
その後も何度も何度もナイフの攻撃を逸らし、弾丸を躱しその隙に若干の抵抗を入れ続けている。その間もずっと「楽しいね楽しいねはははは」という声が頭の中に響き「うるせえ引っ込んでろ」と言い返せばさらに攻撃が激しくなった。
そして30分ほどたったとき転機は訪れた。急降下で襲いかかる敵機に対して逃げる形で急降下する。「ねえまだ、追いかけっこ続けるの?他の遊びしよ」と聞いてきたので「お言葉に甘えてそうしよう」とかえすと喜んで「やったー、まだまだ遊び足りないもっとしよ」と言い出した。ならやってやるよ
高度計の警告がコックピット内に響く。
「ピッチアップ、ピッチアップ」
だが、無視して加速しながら突っ込む。一度もやったことがない技だが、日本内戦のエース達がよく好んで使った技だ。彼らにできて俺にできないはずがない。
スロットルを下げ、操縦桿とラダーをわざと別の方向へ動かす。失敗すれば俺も海の中。この一瞬で俺の運命は決まる。
機体はいきなりのピッチアップし失速。フラットスピンに陥る。そして勢いあまった敵機はそのまま海面にどぼん。まだ油断はできない、ここから立て直さなければ。全力バックブラストを行う。海面に少し足は漬かったが立て直しに成功した。
すると頭の中で「あ〜面白かった、そろそろ帰らないといけないから帰るね」と言い。漆黒の機体は海面から浮上。レーダーにしっかりと反応があることと光学迷彩が不完全なことからある程度の損傷を与えたのだろう。
漆黒の機体はどこか遠いところへと飛び去ってゆく。追いかけられるほど燃料ものこっていなかったし推力が違いすぎてまず追いつけないのであの漆黒が遠ざかるのを見ているしかなかった。正直生き残れてほっとしている。
この事件は、外交上の観点から公にはされずスクランブル発進中の空中接触事故として片付けられた。そして俺は部下2人を失ったことと戦闘中部下を放置していたことから査問委員会で2ヶ月の謹慎処分が言い渡された。
失った部下2人の遺族と会うのはつらかった。事件は公にはできないので詳細を話せない。「この人殺し」とか「息子を返して」と遺族に言われたときは本当に堪えた。
妻はこのことを話してもいないのに何故か俺に同情する姿勢を見せてくれた。本当にありがたい。このままではいつかメンタルブレイクしそうだった。側にいてくれるだけで心のささえになる。
そして、全ての事件処理の終了後、俺は北海道奥尻島警備小隊付として僻地に飛ばされた。いわゆる左遷という奴だ。どうせ万年大尉だろうから出世とはほど遠かったしまあいいかなと思ってる。
そうして3カ月くらい割りと自由気ままに過ごしたのだが…その時の俺は知らなかった。いきなり革新派の中枢の将官・五十嵐裕也中将がやってきてこき使われまくることを。
水平線上のワルツ よよぎ @intolastnight
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