短編集

みかちよ

お題:色んな「その時の私」が混ざってるから今の私が分からなくなるんでしょ

「私」が、誰かわからなかった。いつも探していた。どうしてその行動を選択したのか、どうして今私は嬉しいのか、ぜんぶぜんぶ言葉にしようと思った。でも人って、思ってるより行動に一貫性がなくて、おんなじ問いを自分に課すたびに返ってくる答えは微妙に違っていて、ふと昔の、素というものを外に出していなかった自分に想いを馳せたくなった。


「……偽りの自分、それ即ち仮面なり。仮面をかぶって、自分を偽って生きて、それが為に得た喜びや哀しみは果たして自分のものか、虚へと熔けゆくものか、それとも……」


〈その仮面が得たものか?〉


正直その時は驚いた。人の気配なんてついぞなかったからこそ声に出してしまっていたのだと気づくのに、数秒かかるほどには。


「…あ、ごめんなさい、こんなとこ誰も来ないと思ってたから。声に出てた?」


〈ん?あははっそうだねバッチリと。まぁそんなの関係ないんだけどね。〉


〈その子〉は急に現れた。何処かで見たことある顔をしていて、聞いたことある声をしていて。でもそれが本物には見えなかった。そこからの記憶はほとんどないけれど、気味が悪くて足早にその場を立ち去った気がする。


〈そろそろ限界が近いよ。〉


………あぁ、そうだ。彼女は私にちゃんと忠告したじゃないか。




それからの私は貴女が見た通りだよ。急に全てが分からなくなった、思い出せなくなった。どんな風に笑い、どのような相槌を打っていたか。何が正解だろう、どれが本当の「私」だろう。あぁそうだね、あの時は見ていて混乱しただろう。同じ出来事に対しまず悲しみ、数分後には怒り、次の日にはあざ笑いそして気にもしなくなった。その感情のどれもが正解の気がして、どれもが偽物な気がした。

きっと、いつもの分析癖のしわ寄せが来たんだろうよ。今の私には全部が本当リアルで、それでいて演技フィクションに見える。……ん?あぁ〈その子〉はね、あれ以来会っていないよ。そしてもう会えないと思う。なんで?うーん……あれはね、〈私〉だったんだよ。仮面を被って得た喜びや悲しみは、彼女が言ったようにその仮面のものになったんでしょう。見たことある顔、聞いたことある声、そりゃそうだ!私だもの。なんですぐ気が付かなかったのか、いやむしろ。よく考えてみれば彼女は仮面をかぶっていて顔が見えなかったような気がするし、そのせいで声もくぐもっていたのにね?あぁでも、不思議と嫌な気はしないんだよ。あの時得た感情は、偽物じゃないと証明された気がしたから。

…あははっそうだね。彼女がしていた仮面は、透き通ったガラスで出来た仮面だったよ。


〈色んな「その時の私」が混ざってるから、今の私が分からなくなるんでしょう?〉

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短編集 みかちよ @shehamami

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