第13話『美味』

ゼンたちが逃亡してから5日が経った。

ようやく中規模都市エリーナが近づいてきた。


そろそろ旅疲れしてきたフィーナだったが、

エリーナが見えると俄然、力が湧いてきた。


今まで立ち寄ったのは洞窟暮らしか、

ぽつんとした村だったことから、

この街程度でも十分に魅力的に映った。



「先ーーー生!はやくはやくー!」



足が軽くなったフィーナがゼンを追い越す。



「なんか今日は元気いいな?」



「だってあの街なら美味しい物ありそうじゃん?」



実は早朝、あまりに食べるものがなく


『これは食べれる!』


と、ゼンが自信を持って採集した草を

フィーナは泣きながら食べさせられていた。


(久々に笑った顔を見たな…)


と、フィーナの元気に癒されるゼンだった。





旅人がエリーナの話をする時に必ず言うことがある。


『初日は心が踊り、2日目に定住を夢見て、

3日目に荷物がなくなり定住する』


2日目までは楽しい観光地であるが、

あまりはしゃいでいると観光客だと目をつけられ、金を盗まれて街から出れなくなる、という話である。


それでも観光客が絶えないのは食材の宝庫とされていて、どんな辛口の美食家も必ずお気に入りの食事が見つかると言われた。


美食家以上にここの住人の舌は肥えており、

まずければ皿に唾を吐きかけられて、

気づけば店は畳まれている。


良くも悪くも忙しく店が入れ替わるため、

去年あったお気に入りの店がなくなり、代わりに去年以上のお気に入りに出会えることから、

特に食事目当ての観光客が後を立たない。



あまり食事に興味がないゼンだが、この土地に入ると旨そうな匂いが漂い、ついお腹が鳴ってしまうゼンだった。


(ふふ、俺としたことが…今朝は草の球根だったからな)


横にいるフィーナもお腹が鳴り、ゼンはフィーナに目をやるとゼンとは事情が違っていた。


「フィーナ…なんか顔色が悪くないか?」


全身に脂汗を流しお腹をさすっていた。


「おトイレ…行きたいかも…れす」


「大丈夫か?呂律(ろれつ)がまわってないぞ?」


「先生が…あんなよくわからない草食べさせたからでひょ?」


「……とりあえず宿屋が先だな?」



2人はまず宿屋を探すが、レストランや屋台街ばかりで見つからない。


と言うよりも観光客が多すぎて身動きがなかなか取れず、視界には人、人、人、だった。


屋台街にはいくつか薄汚い簡易トレイがあった。


(見つけた!)と、

ゼンに笑顔が灯るのをフィーナは見逃さなかった。


「言っとくけど、絶対あそこは嫌っ!」


「なんで!?」


「汚いじゃん!」


「今までだってずっと外で━━」


「もう!!言うないでよバカ!!街に来た時くらいホテルとかの綺麗なとこがいいの!」


ゼンの言葉に被せて怒るフィーナ。



「ホテル……?」



ゼンより早く反応したのは近くにいた少年だった。


「お兄ちゃんたち、ホテルならこっちじゃなくてあっちだよ?あの脇道を道なりに行けば数分じゃないかな?」


親切に近道を教えてくれた少年にゼンたちは感謝を述べ、指を指していた小道に入っていく。


2人の姿が見えなくなると少年は不気味に笑った。





「さすが地元民ならではの裏道だ!ここなら思いっきり走れる!」


この路地はスラム街で観光客らしき人は1人もいない。

走りやすいように愛刀シュヴァイツアーをフィーナに渡した。



「ひゃああ! 先生揺らさないで! 本当にいろいろ出……お腹痛くなっちゃうからぁぁっ!!」


フィーナをかついで疾風の如くかけ抜けていくゼン。


「フィーナはいつも背負われてばっかだな?」


(今回はお前のせいだけどな…)


と心の中でツッコむフィーナだが、今はそれどころじゃなく情けなさそうにお尻をさする。


一応、回禍で腹痛をやわらげようとするが

前回みたいにうまくいかない。


「ねぇ先生?回禍やっても少ししかお腹治らないよぉ?」


「治すイメージが出来ていないか…或いは」


このあと続けたゼンの教えとは、禍動の複雑性に

ついてだった。


━━━━━━━━━━━━━━━


禍動のエネルギーはどこから湧くのか?

その答えは『魔法』と呼ばれていた太古から議論は尽きない。


しかし5500年前、

ある大禍動士が晩年に弟子たちへ残した言葉が、この論争を終わらせる一つの考えとなった。



「体内にあるエネルギーこそが禍動を産み出す」



大禍動士と呼ばれた彼の功績については

記録はおろか名前も時代と共に忘れ去られた。

それでもこの教えだけは広く伝わった。


禍動は体調や心理的な情緒で、

"出力や精度"、"質量"が上下するという

生命現象に基づいた彼の理論は、

まだ人間について哲学しかなかったその時代において奇跡の発見だった。


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つまり、とゼンは言う。


「体調悪いからかもなぁ」


「体調!?体調悪いから回禍で治したいのにぃ!」


そんな話をしていると光明のように暗い路地に光が差し込む。


「フィーナ!あそこを抜けたらホテル街だ!

うん?……なんだあいつ?」


脇道の出口付近で手を広げてゼンたちを制止する背の大きな男が立ち塞がる。


「悪いな、ここからの通行は有料だせ?」



「まんまとあの少年にハメられたな……」


ゼンがポツリと呟く。

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