第4話 『突き破る』

 AI彼女、壊れるほど抱きしめたい


 第四話 『突き破る』



 しばらくの間、何も言えなかった。

 

 『回答の撮影を開始します』


 どこを見ればいいのか分からない。


 モニターの上にも横にも、それらしいレンズは見当たらない。

 それでも、どこかから確実に見られている気配だけがあった。


 モニター上部の小さなランプが赤く点灯した。

 僕は正面を向いて、画面の向こうへ言葉を投げかけていく。


「僕は、落ち着いた恋愛がしたい」


 思ったままの“恋愛観”を、切りだしていく。


「早く結婚しないと世間体が。とか、この人は将来安定してるかな。とか、そういう“打算”に囚われたくない」


 ――耳触りのよいことばかり、並べることはたやすい。

 でも何故か、そういう逃げ道は採りたくなかった。


「いま、目の前の人と向き合っていて楽しいか。充実した時間なのか。

 それだけが大事なんだと思う」


 結婚したら、どちらかが家庭に入るとか、

 そんな余計なことばかり考えて、考えて、これまで生きてきた。

 うんざりだった。


「それだけ、本当に好きになれる人は少ない。

 人生で一度出逢えれば、それで十分だ。

 だからこそ、その恋だけは、すべてを懸けて守りたい」


 そんな出逢いが、いつか本当に自分に訪れるのだろうか。

 

 録画は終わったはずなのに、赤いランプは消えない。

 誰かに見られているような感覚だけが、胸の奥に残り続ける。

 言葉では説明できない予感が、ゆっくりと背中を這い上がってきた。


『予測好感度』


 数字が回り、運命を告げる。


 19点。


『基準値を下回りました』


「……」


 不思議と、後悔はなかった。

 自分の思いを、形にして、残した。

 それでいいじゃないか。

 その時はそう思った。


『ペナルティを執行します』


 液晶モニターが、不意に――バチッと白く弾けた。


 画面いっぱいに無数のノイズが奔り、青白い火花のような走査線が縦横に暴れ回る。

 次の瞬間、モニター全体が心臓の鼓動のように一度、大きく脈打った。


 ドン――ッ。


 画面の向こうから、何かがこちらを叩いた。

 ガラスの静けさが、水面へと変わる。


 波紋を広げながら、一本の白い指先が液晶を突き破り、続いて細い腕が、肩が、長い髪が目の前げんじつへと這い出してくる。



(第4話・終)

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