青春の終わりと始まり
ゴールド
第1話 序
卒業式。
それは別れの節目であり、高校生にとっては分かれ道の第一歩でもある。
通過点。
そう言ってしまえる日はいつか来るのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、雪舟 游は校舎に寄りかかり、学校裏から見える空をぼんやりと見つめていた。
空はいつになく澄んでいて、まるで自分たち卒業生の将来を明るく照らしているようだった。
3月5日の今日、雪舟は高校を卒業すると同時に、ある決断をしていた。
その決断とは、端的に言えば告白である。
とはいえ、雪舟の心には告白前特有の緊張も、相手を思うような熱い気持ちも存在していない。
この告白は間違いなく失敗するからだ。
「全く救えないよなぁ」
雪舟は自分の一人言に苦笑した。
今からやることが無意味であると自覚していて、そしてとっくに自分の中で答えが出ているからだ。
今から、雪舟が告白する相手。
名を寄白 花音という。
彼にとって、幼稚園からの幼馴染である。
家が近いということもあって、これまでずっと一緒に過ごしてきた。
彼女は、明るく、快活な少女で、うじうじしていた自分とは正反対だと、雪舟は感じていた。
そして、光に集まる蛾のように、引き寄せられている。
その自己認識は悲しいことに概ね正しい。
美しい容姿、文武両道。
バレー部では、主将までつとめ、エースとしても活躍していた。
勉強についても、一切手を抜かず、怠らず、基本となる予習・復習を欠かさない。
勤勉で、真面目で。
そして何より負けず嫌いだった。
雪舟は彼女のひたむきさに、その真っ直ぐ自分の信じた道を歩ける強さに惹かれた。
翻って、自分はどうだろうか。
雪舟は、呼び出した手前、暇をつぶすことも出来ず、思考だけをとりとめもなく巡らせる。
高校時代、何か努力をしただろうか?
いや、それ以前にも、彼女に誇れる何かがあるだろうか?
雪舟にはそれらが何も見つからない。
真面目と言えば、聞こえはいいが、それ以外に何もない。
生徒会役員として学校のために働きはしたが、それにしても担任から頼まれて、ほぼほぼ貧乏くじを引いたようなものだった。
全く意味もない。
そして、また彼は無意味なことをしようとしている。
時間の無駄で、ロクなものではない。
明かしてしまえば簡単で、この告白はすでに付き合っている相手がいるのにも関わらず、行うものだからだ。
無論、雪舟に多少なりとも魅力があれば、心変わりも期待できるだろうが。
それも、相手が悪すぎるし、何より彼女自身がその彼に対してかなりゾッコンなので期待すら持てない。
それほどまでに雪舟から見ても、江崎 修人は魅力的な人物だった。
修人もまた、彼の幼馴染だ。
家が近く、よく3人で遊んだものだ。
今の彼は、昔からやっていたサッカー部のエースをしていて、全国大会まで彼の尽力も大きく導いた。
そして、これまた文武両道。
否、彼の場合は文武両道になったというべきかもしれない。
彼女に見合う人間になりたいと、素直に自分を磨いて、努力して。
そうした1つ1つ積み上げていくことができる人物だった。
あまり興味がなかった勉強や、ファッション。
その他諸々の男子高校生なら切り捨てがちなものをちゃんと吸収していった。
ある意味珍しいタイプだった。
素材がよく、そして磨いたイケメン。
もともと、誰にでも優しく分け隔てない爽やかな男であったのだが、それに加えて目標に向かって常に前向きで、その癖本命の前だとピュアで。
女々しいと言う人間もいるのだろうが、雪舟から見れば彼のその人柄は間違いなく、彼の魅力で、悩んでそして前に進む。
これこそが彼らしさだった。
その癖、サッカーになった途端に、物凄く熱くなって、泥臭い部分もありながらもカッコイイ活躍をするものだから。
彼はかなり人気があった。
それに対して、
「修人がモテるのは困るよぉー」
であるとか
「カッコイイよぉ、私にだけ笑いかけてほしいぃぃぃ」
とか、花音もどちらかと言えばそれを言われる側なのだがいつもそんな風な話を雪舟は聞かされていた。
また、修人からも
「花音が、男と話してるよ⁉
あれ、彼氏だったりとかしないよなぁ⁉」
とか
「今度、夏祭り誘いたいんだけど、どうすりゃいいかな⁉」
とか、色々と相談を受けていた。
傍から見ていれば、もう勝手に付き合ってくれといいたい気分なのだが。
双方中々踏み出せないようだった。
まぁともあれ、彼らは高校2年生の秋ごろに晴れて付き合うことになるのだが。
「消化試合っていうの体すら成り立たないよな」
雪舟は今までの彼らとの日々を思い出しながら、少しだけ目を閉じる。
まだ、寒い風が雪舟を包み、否が応でも体温を奪っていく。
この風は、雪舟の心を冷静に、客観的に、見つめ直させてくれる。
と、そこで。
ある足音がした。
雪舟が瞼を開くと、どこか居心地の悪そうな花音が立っていた。
「ごめんね、呼び出して」
俺がそう言って、校舎から身を離した。
「いや、游が呼び出すなんて、珍しいからさ。
全然いいよ」
花音は所在なさげに視線を泳がせる。
もう気付いているのだろうか?
彼女の様子から察するにそういうことなのかもしれない。
「花音も忙しいだろ?
部活の後輩ちゃんたちも、いっぱい泣いてたし、これからクラスの方でも何かあるんだっけ?」
「‥‥うん」
花音は地面をじっと見つめたまま、こちらを視界にすら入れない。
少しだけ悲しいが、妥当と思えるのがまた俺の心を寂しくさせた。
ともあれ、長々と話してもしょうがない。
どうせ、すぐ終わる。
「‥‥ごめん本題に、入ろうか。
・‥‥花音、小学校から、ずっと好きだったよ」
ごめんね。
俺は最後にそれだけ付け加えた。
そこで、ようやく彼女がこちらをまじまじと見つめてくる。
驚いた顔だった。
そして、その驚いた顔もまた、美しかった。
俺は少しだけ微笑む。
どうやら、まだ昔に見た表情はできるらしい。
「‥‥私は、游に修人のことを相談してたよね?
‥‥その時、游は何も思わなかったの?」
長い長い沈黙のあと、花音はそうぽつりと呟いた。
「なんで?」
「―――――なんで?」
「俺が花音を好きなのと、花音が修人を好きなのって本質的に関係なくない?
何か思うことなんてあるの?」
俺は首を傾げる。
どうも、花音はズレたことを気にしているようだった。
「そんなどうでもいいことなんて、気にすることないよ」
俺はそう続けた。
花音は俺の答えにまた、顔を伏せてしまった。
どうやら、まずい答え方をしたのだろうか?
「そういうところッ
そういうところがっ、游のダメなところッ」
そして、数舜おいて、彼女は爆発したように大声を出して、こちらを睨む。
「游はさ、優しいよ。
――――でもね、優しいだけなの。
だから、游は人に頼りにされても、絶対に大事にされないんだよっ」
花音はどんどんヒートアップしているようだ。一気にまくし立てるように言葉を続ける。
「自分を大切にしなから、他人からも雑に扱われて。
そして、いつもみたく、そんな風に笑っちゃってへらへらして。
そんなんだから、人間としてダメなんだよッ
正しくないし、誰からも必要とされないんだよッ」
俺は花音にだいぶ嫌われていたらしい。
中々心に来る。
「…その通りだな。
花音の言う通り、反論もないなぁ」
「ッ、そういうところっ
大体、好きだっただけ伝えて、付き合ってほしいって何で言わないの⁉」
「―花音は修人が好きなんだろう?
なんで俺が付き合ってほしいって言うんだ?」
俺の答えに、花音は一線を越えたかのように、ずかずかと近寄って、平手打ちをした。
乾いた音が、辺りに響く。
ジンジンとした痛みがじわじわと効いてくる。
「ごめん、はっきり言うね。
游のこと、ずっと嫌いだった。
貴方のこれまで、ずっと色々とフォローしてきたけど、もう限界。
本当に嫌い。もう顔も見たくない」
花音は吐き捨てるようにそう言って、俺の顔を最後にもう一度睨んで、踵を返し歩き出した。
どうやら、彼女にとって最悪の卒業式にしてしまったらしい。
今日、この日にしなければよかったと、俺は本当に後悔した。
それでも、今日でようやく終えられるから、この日しかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます