第2話 指差したらレールガンが出ましたが、何か?

・・・・・・


「……痛っ……つ, つううう……」


背中をコンクリートで強打したかのような鈍い痛みに、


俺 ―― 二ノ前リョウタはうめき声を上げながら目を覚ました。


頬に触れるのは、自宅のフローリングの感触ではない。


妙にひんやりとした、水分を含んだ柔らかい土だ。


慌てて上体を起こし辺りを見回した俺は、その光景に息を呑んだ。




頭上を見上げれば、ネオンパープルや蛍光グリーンに怪しく発光する


巨大なシダ植物や、大蛇のようにのたくる未知の樹木が鬱蒼と生い茂っている。


空はどんよりとした不気味な紫色だ。




どこをどう見ても、東京のワンルームマンションではない。




「なんだよ!? この森!? 俺の部屋は!?」




競馬の3連単を1着・2着・4着で外した瞬間のようにパニックに陥る俺の横で、


「いててて……」と頭を押さえながら立ち上がる影があった。




金髪ミニスカギャル霊――だったはずのコハルだ。


だが、いつもなら半透明で背景が透けていたはずの彼女の体が、


なぜか今は生身の人間のように、やけにハッキリとした4K画質で


そこに存在していた。




コハルは自分の生足をぺたぺたと触り、


「ウソ、ウチ実体化してんだけど……」


と呆然としていたが、次の瞬間、


カッと目を見開いて猛烈な勢いで俺に詰め寄ってきた。




「あのね! 大体さぁ! 一切無害のウチを、


 ちょっとうるさかったみたいな?理由で


 除霊しようとするとか、マジなくない!? ふつう!!」




コハルが激昂しながら、俺の鼻先に向け、


人差し指をビシッと突き刺すように指さした。




その、瞬間だった。




俺の胸の奥――『星脈調律師』の血が眠る心臓のあたりから、


今まで経験したことがないほどの膨大なエネルギーが、


目に見えない巨大ストローで一気に中身をチュウチュウ吸い上げられるような


強烈な感覚が走った。あまりの喪失感に視界が一瞬真っ暗になる。




「ビキィィイイイイイイイィン!!!!!!」




鼓膜をぶち破るような凄まじい高周波音が響き渡る。


コハルが俺を指さした人差し指の先端から、


極太の、まるでレールガンか何かっぽい純白のレーザー光線が


音速を超えて撃ち放たれたのだ。




放たれた閃光は、俺の耳元をかすめ、


背後の鬱蒼とした森の木々を数百本まとめて一瞬で消し飛ばしながら、


直線上のすべてを文字通り『デリート』していった。


あまりの衝撃波に、俺はパジャマ姿のまま地面を数メートル転がった。




「……は?」




自分の指先を見つめたまま、コハルがぽかんと綺麗に口を開けて固まる。


そりゃそうだ、俺だって意味が分からん。


・・・脳内処理限界突破寸前。


この時点で、一切考えるのをやめるべき。本能がそう訴える。




しかし俺の思いに反するように、


そのレーザーが突き抜けた遥か直線上の茂みの奥から――。




「ギ、ギギェェエエエーーーーッッ!??」




真っ二つに引き裂かれた体長四メートルはある巨大な大蜘蛛の魔獣が、


ドサササッと崩れ落ちるのが見えた。




さらにその蜘蛛の足元で、見事な金髪をポニーテールに結んだ、


銀色の軽鎧を着た少女が、折れた剣を握りしめたまま、


腰を抜かしてこちらを凝視していた。




「詠唱も、魔法陣の展開もなく……世界を貫く光を放たれた……。


 もしや、光の女神様……!? このエルザ・フィン・エチェバレリア、


 光の女神様の御力をこの目に焼き付けました……!」




「……ねえニノ、いまウチの指からなんか出たよね?


 つーか、あそこで腰抜かしてるコスプレ女子、


 なんかウチのこと『光の女神様』とか呼んでんだけど。


 ……ウチ、


 この世界で、マジ女神にランクアップみたいな?」




「幽霊がいきなり女神にランクアップするかぁ!!


 今お前が俺を指さした瞬間、俺の体の中から何かが、


 ごっそり根こそぎ抜き取られましたけど!?


 危うく俺がリアルに仏様にランクアップするところだったわ!!」




確実に走馬灯だった。あれは。


忘れもしないメインサーバーがクラッシュした一番の思い出のシーン。




とりあえす、この世界が確実に今までの世界でないことを


俺も感じていた。何が起こってもおかしくない状況だ……




「ビキィィイイイイイイイィン!!!!!!」




再度、白の光線が森の木々を数百本まとめて一瞬で消し飛ばす。




『何が起こってもおかしくない状況だ』とは思ったが、


身内の行動に一番驚かされるのはまったく想定外やで!!




「こ、こらっ!コハル!勝手に2発目を出すなっ!!


 森がむちゃくちゃだぞ!」


「だって、これツヨツヨで面白いじゃん!☆」




「そのビーム出すとき、俺の・・・・・なんというか・・・


 よく分からんが、体から何か抜き取られる感覚があるんだよ!」




「『抜き取られる』感覚かぁ……確かにそうかも。


 ウチもココに来てからニノの近くにいないと、


 アンテナが圏外になるっていうか……」




コハルはフワリと距離を詰めると、俺のパジャマの袖をぎゅっと掴んできた。


その瞬間、俺の体の中から急激に失われていた何かが、


コハルの手のひらを通じてじわっと戻ってくるような不思議な感覚がした。


しかもその部分は実際ぼんやりと光っている。




「その、ひ、光は、光の女神様の『魔力』のご加護ですか!?」




 エルザと名乗った女剣士が、ひざまずき


 そっと目をとじ、胸の前で両手を固く組んだ。


 深く、静かに、意識を祈りへと没頭させていた。




冷え切った異世界の森の中で、コハルの肌の温度だけが、


妙にポカポカと温かくて心地いい。


触れている間は、エルザの言った「魔力」とやらの異常消費リークが


ピタッとストップして安定しているようだった。




「なんかよく分からんけど、


 ウチ, ニノと一緒にいなきゃならん?って感じなんだよねぇ。


 隣にいると落ち着くし、なんか流れ? って言うか、


 感じるものがあるんだよねぇ。ま、知らんけど☆」




「俺も知らんわ!。


 と、とにかくこっちは命かかってんだからな。たぶん…


 とりあえずは乱発禁止!いいね!?」




ぶっきらぼうに返す俺の胸の鼓動が、魔力のせいなのか、


それともスカートの丈の短さからなのか、


それとも別の理由なのか、少しだけ早くなる。




そんな現代人のドギマギを、祈りを捧げていたはずのエルザが


恐るべき体幹によるスライディング土下座でぶち破った。




「光の女神様とお付きの方、この度は危ういところをお救いいただき、


 本当にありがとうございます!!」




「命のお救いいただいたお礼を、女神様もお付きの方もぜひ!!」




……早くも付人扱い。


異世界でも、早々に俺の立ち位置が決定したようだ。




だが、たぶんごく普通の一般人であるエルザが


そこまで取り乱すのも無理はなかった。




彼女のすぐ背後には、先ほどのコハルのビームによって


真っ二つに引き裂かれた、あの『ダークタランチュラ』の死体が転がっているのだ。




「あ、あの魔獣は……国家崩壊級の危険度を誇る、


 S級冒険者でも歯が立たないダークタランチュラ……。


 我が近衛騎士候補生の一個小隊が全滅させられ、


 私もここまでと覚悟したところを、


 よもや指先一つでデリートなさるなど……


 本物の神か「精霊様」でなければ無理な所業……!」




「え、マジ? ウチ、あの虫ケラ秒でオワコンにしたよね?


 やっぱツヨツヨビームじゃん!☆」




「え?あの蜘蛛、そんなヤバい奴だったの?」




見知らぬ異世界の森、不気味な紫色の空。


それに凶悪な魔獣がウヨウヨしているときたもんだ。


通常なら、脳内が不安のバグでフリーズして


起き上がれなくなってもおかしくない状況だ。




「ねえニノ、とりま街行くっしょ?☆


 ウチ、お腹空いたかもー。異世界のギャル飯って


 何があるかな? ウケる☆」




複雑な俺の気持ちなんて1ミリも知らないコハルが、


俺のパジャマの袖を引いたまま、能天気な笑顔を向けてくる。


……まあ、隣にいるこの実体化した元・幽霊の肌が、


やけにポカポカと温かいのだけが救いだ。


こいつがそばにいると、不思議と不安はなかった。




「エルザさん、この近くに街ってあります?


 もしよろしければ案内してくれると助かります」




「御意にございます! 我が命に代えても、


 お二人を安全に城下街までナビゲートいたします!」




こうして、俺たちはエルザの案内で城下街に向かうことになった。


わけのわからない森での野宿は避けられそうだ。


とりあえず運が良かったと思うしかない。




――こうして、俺と、実体化した最強ギャル神(仮)による、


異世界ライフが幕を開けたのだった。


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