俺じゃなく取り憑いたギャル霊が異世界で無双する件 〜俺はただの星脈調律師ですが、何か?~

うみの はるまき

第1話 無料Wi-Fiに釣られたギャル霊ですが、何か?

世界は、たったひとつの巨大なシステムだ。




太陽が昇るのも、魔力が大気に満ちるのも、


すべては緻密に組まれたソースコードに従っている。


……だが、そのコードが『バグ』に犯され始めたらどうなると思う?




『冬の精霊』の冷気に支配され、『バグ』に犯された異世界。


今にも強制終了(滅亡)するやもしれない危機的状況。




そこに強制ログインさせられた俺の未来のログには、


なぜか、こんな破滅的なデータが記録されていた。






――ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!






純白のレールガンが、異世界の王城の巨大な城門を、


空間ごと綺麗にデリート(消滅)させた。




『ウケる! マジ一撃なんですけど!☆ウチ、ツヨツヨじゃん☆』




白光の煙の中、ド派手なネイルの手で軽快にピースサインを作る、


見たこともないほど場違いな格好をした一人の少女。


その横で、膨大な魔力をテザリング(同期)されている俺。




『おい!出力を調整しろって言っただろ!


 城門ごと消し飛ばしてどうする!』




しかし、これは想定通り。




『エルザ突撃だ!カゲロウとルナは援護を!』


『心得ました!』


『承知でござる!』


『おいっこら!クソ虫、誰に口きいてんだ?すり下ろすぞ?』




 ……俺は、仲間の絶大な信頼?のもと、作戦の指揮をとる。


しがない社畜インフラエンジニアの俺が、


なぜ未知の仲間たちと異世界を破壊しまくっているのか。




エラーログを巻き戻し、


すべての始まりである『あの最悪の夜』のデータをロードしよう。






※※※






俺の名は二ノ前にのまえ良大りょうた。


都内の大手IT企業で、日々都市の基幹システムサーバーのバグや


ネットワークエラーと泥沼の死闘を繰り広げている社畜エンジニアである。




ちなみに苗字は漢数字の「一」ではなく「二ノ前」と書く。


「一」だけで “にのまえ” って読むんだよ。 知ってた?


これって意外と知っている人が多く、


おかげで 「“にのまえ” は “一” じゃなく “二ノ前” です」 と、


人生で何百回訂正させられてきたか分からない。




あだ名はニノ。 同僚は皆そう呼ぶ。


そんな名前のひねり具合とは裏腹に、


俺自身はどこにでもいる平凡な、


ただ徹夜作業が多くて


「いつでもどこでも寝ることができるのが特技」


というだけの男のはずだった。




だが、ここ二週間ほど、俺は異常なまでの体調不良に悩まされていた。


どれだけ寝ても、どれだけ栄養ドリンクを流し込んでも、体がだるい。


特に肩が異常に重い。


整骨院の先生には「PCの見すぎ。あと、慢性疲労とストレスですね」


と言われるだけだったが、


そんな物理的な理由では説明がつかないほどの、


生命力が根こそぎ吸い取られているような強烈な脱力感があった。




同僚には、


「ニノ、お前、それマジでなんか取り憑いてんじゃねーの?」


と笑えない冗談を言われる始末だった。




その答えは、ある日の朝、最悪の形で俺にログインしてきた。


寝ぼけ眼で洗面所の鏡の前に立ち、


冷水で顔を洗ってふと顔を上げた瞬間、


俺の全身の血が凍りついた。




鏡の中。疲れ切った俺の顔の、ちょうど右斜め後ろ。


そこに、金髪でピンクのカラーコンタクト、超ミニスカートの


女子高生風のギャルが、フワフワと地上30センチぐらいのところで


浮きながらスマホをいじっていたのだ。




「…………ぶっ!?!??」




口に含んでいた水を鏡一面に盛大にぶちまけ、


俺は心臓が口から飛び出そうな勢いで振り返った。




背後には誰もいない。


ただの狭い洗面所の壁だ。




しかし、恐る恐る鏡に目を戻すと、そこには確かに、


俺のすぐ後ろで退屈そうに前髪をいじる彼女の姿がくっきりと映っている。




「ちょっ!? き、君だれ!? ……なんで俺の部屋に!?」




「誰って、ずっと前からいるっしょ? ……幽霊ですけど。


 あ、名前? コハルでーす。よろぉ〜……」




スマホの画面から一切目を離さず、


めんどくさそうに爪で画面をタップしながら、


コハルと名乗るギャル霊はのたまう。




朝3時に仕事帰りに入店する、ワンオペの吉野屋の店員のような


まったくやる気のない挨拶。


社会人たるもの、まずは挨拶が肝心である!


あ、幽霊には関係ないのか!・・・と、


心の中でつっこみを入れる余裕もなく、




「……ゆ、幽霊って……えっーーーー!!!?」




我が家の洗面所に、俺の悲痛な絶叫がこだました。


なぜ成仏せずに俺の部屋に居座っているのか?


つーか、なぜ俺に取り憑いているのか!?


それ以前に、令和のトレンドを全乗せしたような


生足ミニスカギャルの幽霊ってなんだよ!?


幽霊にカラーコンタクトレンズとはどういう


物理法則ですかぁぁぁ!?




『この世界で本当に存在していると言い切れるのは、自分の心だけ。


他の人やモノは、全部自分の心が作り出した幻かもしれない』


ああデカルト先生、これが「唯我論」ってやつですか。


今、少し理解できました。


俺は約10秒目を閉じ、再度「カッ!」と目を見開いた。


……いてます。デカルト先生、幻ではありませんでした。




「と、とにかく。えー、……なんでココに?」




5%の恐怖と85%の混乱と10%のスカートの丈が気になる心を


抑えて問いただしたところ、


エンジニアとして頭を抱えたくなるような


致命的な脆弱性セキュリティホールが発覚した。




原因は、俺の部屋にある私物Wi-Fiのパスワードだった。


ルーターを設置した際、設定し直すのが面倒くさくて、


デフォルトの初期設定のまま……


つまり、Wi-Fiのパスワードを『1234』という


セキュリティ意識ガバガバな状態にしておいたのだ。




「幽霊になってもネットは見たいじゃん?


 ギガ死するとかマジ成仏案件だし。


 んで、都内の無料スポット探してたらさ、


 パス『1234』の超神スポット見つけちゃったわけ。


 そりゃ一使うしかないっしょ☆」




「ゆ、幽霊がスマホ??」


俺が困惑の声を漏らすと、




コハルは初めて鏡越しに俺をジロリと睨みつけ、唇を尖らせた。


「え~?なに~?幽霊はスマホ見ちゃいけないって言いたいわけ~?」




い、いえいえ、自分の死んだ場所をGPSで探すのもよし、


呪いの言葉をLINEのグループアカウントに一斉送信するのもよし、


化けて出るところを動画としてSNSにアップし、


『チャンネル登録と高評価よろしくね☆』


……の方が圧倒的に効率がいい。


少なくともTV画面から這い出てくるよりは効率がいいよな。


……


……


って、違う!違う!!


まず「効率」を最初に考えてしまうのは、効率重視の現代の職業病だ!


しかし、そもそも幽霊の効率って何?効率よく呪うとか?


……これ以上はやめとこう。




とにかく!


毎日俺の背後を「移動式無料Wi-Fiスポット」扱いし、


通信容量だけでなく、テザリングのように俺の体から


無自覚に生命エネルギーを吸い上げていたのはわかった。


俺の脱力感と深刻な肩こりの正体は、


このギャル霊による違法ダウンロードの過負荷だったわけだ。






数日後。






あれ以来……正確にいうと『コハル』の存在を意識して以来、


鏡を通さずとも、コハルの姿が見えるようになった。


半透明?で、くっきりと見えているわけではないが。 


それと同時に、なぜか体の調子もかなりマシになった。


コハルも四六時中スマホに没頭していて、


ほぼ無害であることがわかり、しばらく放置プレイを続けていたが、


怒りが限界突破したのは、あの日の午前2時でした。




明日、会社の命運をかけた大規模な本番サーバーへの


データ移行作業があるというのに、


コハルが夜中に推しのアイドルのゲリラ生配信を見て


『マジヤバい! 超エグいんですけど!!♡』とか


脳内に直接大音量で叫んでくるせいで、


こっちはまったく眠れていないのだ。




俺は藁にもすがる思いで、親戚の親睦用グループLINEに


『詳しいことは割愛するが、助けてほしい。


 まず、うちの家系って霊感とかあんの?』と


SOSのログを投げた。


同じような経験をした親族がいるかもしれない。




すると、深夜にもかかわらず、


本家のおばからとんでもない返信が返ってきた。




『霊感とかわからんけど、ひいおばあちゃんの


 【星脈調律師】の血じゃない?』


『せいみゃくちょうりつし? 何それ??』


『なんか大昔からある、大地の歪みを正常に戻す?


 国家資格(注:勘違い)らしいよ。後は知らない』


『国家資格?…… 弁護士とかと同じ並び??』


助けを求めるつもりが、よけいに訳が分からなくなる俺。




※『ふぅ……深夜にやれやれだぜ』


※『なんかよく分からんが寝ろ。あ、リョウタは(エンジニアは)昼出勤か』


※『隣人とのトラブルは自分で解決しなさい!エンジニアでしょ!?』


※『霊感って ようかん みたいに甘いお菓子ですか?』


兄貴にいたっては、


※『詳しいことは割愛するが、助けて欲しい。


  まず、お金貸してくんない?』と、きたもんだ。




親戚一同から辛辣?な言葉が投げかけられ、


その後は、兄貴以外の全員に見事なまでに既読スルーをキメ込まれた。


インフラエンジニアを完全に勘違いしている者。


最初から相手にしていない者。


人としての基礎ができていない者。


親戚の冷徹なネットワークの回線を一生切ってやろうか。




……




しかしだ、冷静に考えると、どんなに頼りになる人がいたとしても、


この状況をうまく説明する自信がない。こうなれば……




「くそっ、よし、やってやる、デバッグ(除霊)してやるよ!!」




早速俺は、ネットの裏掲示板で調べた怪しげな動画、


『【超簡単!】自家製除霊方法』


を実践することにした。




「『半三日月が輝く海辺の砂』


 『四つ目ガエルの血』


 『ドクロ鳥の羽』


  あとは……って、そんなもんあるかぁ!!


  しかし、代替品なら(たぶん)ある! 」




俺はキッチンから持ってきた『伯方の塩』を皿にぶちまけ


「はい、海水の染みこんだ砂!」


冷蔵庫にあった賞味期限切れのイチゴジャムをドロリと盛り付け


「はい! 血!」


赤い羽根共同募金の羽根を中央に突き立てる。


「ドクロ鳥の羽! あとは……」


『光る石』!


俺はライブに夢中のコハルからスマホを光の速さで取り上げ、


その強烈なブルーライトを皿へと照射させた。




「ちょ!? 何すんのよ!?」




詰め寄るコハルを腕で遠のけつつ、


ひいおばあちゃんの『星脈調律師血統』を無駄にたぎらせるようにして、


俺はネットに書いてあった適当な呪文を読み上げる。




「いでよ太陽の光! 闇の眷属を元の世界へ送り返せ!!」




その瞬間、部屋の空気が一変した。




イチゴジャムが青い炎を上げて激しく燃え上がり、


床のフローリングに変な幾何学模様の魔方陣が超高速でスクロールされ始めたのだ。


まるで、どこかの自治体が何十億もかけて庁舎に写した


プロジェクションマッピングの失敗作のように。




「うわあああ!ゆ、床が!!」




俺の部屋の賃貸フローリングに穴が空いた!




「あ、穴!?た、た、退去費用がヤバい!!」


「待って! マジ超バグ、画面フリーズしたんだけど!? 


 ラ、ライブの途中なんですけど!!!! 


 えっ!?ちょ!?マジ!?ウチのスマホがぁぁぁ!!」




次の瞬間、世界そのものがシステムクラッシュを起こしたかのような、


凄まじい轟音が響き渡った。


コハルの手の中でスマホがパチパチと火花を散らして爆発し、


完全に沈黙して砕け散る。




それと同時に、俺の心臓の奥からすべてのエネルギーが強引に遮断されるような、


恐ろしい虚脱感が走った。




部屋の床が丸ごと円形に消滅デリートし、


パジャマ姿の俺とコハルは、光り輝く魔方陣のゲートへと


真っ逆さまに落下していったのだった。

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