好きだったクラス1番のマドンナに嘘告され「夢見すぎ」と馬鹿にされた僕に、学校一の清楚系美少女が仮交際を求めてきた件―交際を知った美少女達が勝手に曇り始める―
第25話 雪解けの図書室と、静かに忍び寄る氷の足音
第25話 雪解けの図書室と、静かに忍び寄る氷の足音
あの生徒会室での壮絶な全面戦争から、一夜が明けた。
六人の才女たちによる僕の奪い合いは、すでに全校生徒の知るところとなり、登校中の廊下を歩くだけで、幾重もの嫉妬と畏敬の視線が突き刺さるようになっていた。
そんな狂乱の日常の中で、今日の昼休み、僕は静寂を求めて図書室の最奥へと足を運んでいた。
校舎の最も北側に位置するこの場所は、昼間でも薄暗く、本と古紙の独特な香りが漂う、僕の数少ない逃げ場所だ。
「……来た」
棚の陰から音もなく姿を現したのは、白銀の髪をふわりと揺らした椎名小春さんだった。
普段から無表情な彼女だが、その青みがかった瞳には、僕を見つけたことに対する明らかな喜びの光が宿っていた。
「待たせてごめんね、椎名さん」
「ううん。来ないかと思って、少し不安だった」
椎名さんは小さく首を横に振ると、抱えていた一冊の大きな洋書を閲覧用の丸テーブルの上に置いた。
彼女は僕のすぐ隣の椅子を引き、息が触れ合いそうなほど近くに腰を下ろす。
「昨日約束した、文化祭の衣装のこと。これ、見てほしい」
広げられたページには、古い西洋の童話に登場する挿絵が美しく描かれていた。
月光の下で佇む白い騎士と、その手を取る静謐(せいひつ)な姫君。
「……綺麗な服だね。椎名さんがお姫様で、僕がこの騎士?」
「逆」
「え?」
「なつめくんが、お姫様……じゃなくて、守られる人。私が、あなたを守る騎士」
椎名さんは大真面目な顔で、小さな指先で挿絵の騎士を指差した。
彼女の意図が分からず、僕が首を傾げると、彼女は照れくさそうに視線を落とし、僕の制服の袖をぎゅっと握り締めてきた。
「私、知ってる。なつめくんが昔、傷ついたこと。神木さんに酷いことをされて、ずっと一人で耐えていたこと」
「椎名さん……」
「私には、三郷さんみたいに華やかな立場もないし、天音さんみたいに明るく励ますこともできない。でも……」
椎名さんがゆっくりと顔を上げる。
白磁のような彼女の頬がほんのりと朱に染まり、青い瞳が揺れていた。
「本の世界なら、物語の中なら、私がなつめくんを守る騎士になれる。誰にもあなたを傷つけさせない。……だから、私を選んでほしい」
彼女の声は蚊の鳴くように細かったけれど、そこに込められた感情の重さは、僕の胸の奥を激しく揺さぶった。
誰からも期待されず、背景として扱われてきた僕に、こんなにも真っ直ぐな救いを差し伸べてくれる。
「ありがとう、椎名さん。そんなふうに言ってもらえて、すごく嬉しいよ。……僕も、椎名さんと一緒にこの衣装を着たいな」
僕が本心から笑いかけると、椎名さんはまるで春の訪れを喜ぶ雪解けの花のように、今までに見たこともないほど愛らしく、蕩けるような笑みを浮かべた。
「……ん。約束」
嬉しさに耐えかねたのか、彼女はそのまま僕の肩に頭をぽんと預けてきた。
甘いバニラのようなシャンプーの香りが鼻先をくすぐり、彼女の体温が直接伝わってくる。
至福と言ってもいい、静かで温かな時間。
――しかし、そんな平穏は、長くは続かなかった。
コツン、と。
静まり返った図書室の床を打つ、規則正しい足音が響いた。
その足音は、真っ直ぐに僕たちの座る閲覧席へと近づいてくる。
一歩ごとに、周囲の空気が急速に凍りついていくのが分かった。
「……あら。随分と甘やかで、不純な読書会を開いているのね、なつめ?」
本棚の陰から姿を現したのは、氷の微笑を浮かべた姫月三郷だった。
「三郷……!? どうしてここに」
「どうして? 私の恋人が、別の女と密会していると聞けば、駆けつけるのは当然でしょう?」
三郷の眼光は、文字どおり相手を刺し殺さんばかりに冷徹だった。
けれど椎名さんは、僕の肩に頭を乗せたまま、逃げるどころか三郷を静かに見つめ返す。
「三郷さん。ここは図書室。静かにして」
「あなたのその図々しい態度には感服するわ、椎名さん。……なつめ、そこから動かないで」
三郷がゆっくりと僕たちの目の前まで歩み寄ってくる。
彼女は僕の顎にすっと細い指先をかけ、逃がさないように顔を固定すると、至近距離から僕の瞳を覗き込んできた。
その黒い瞳の奥には、メラメラと燃え上がる強烈な独占欲と、底知れない怒りが宿っている。
「忘れたとは言わせないわよ? あなたの『最初』も『公式』も、すべて私だということを。……少し、お仕置きが必要なようね、なつめ?」
耳元で囁かれた絶対零度の声に、僕は背筋が凍りつき、ただ生唾を飲み込むことしかできなかった。
―――――――――――――――――――――――――――あとがき!!
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