第2話 蚊のステータスは貧弱、貧弱ぅぅ!
〇真っ暗な画面。
田中(……なんだ、この感じ?)
暗闇から意識がゆっくり浮上してくる。
体が妙に軽い。
……いや。
軽すぎる??
何もない空間でキョロキョロする田中。
田中「ん……夢か?」
ブゥゥゥゥン……
どこかで虫の羽音がする
田中が辺りを見回す。
田中「……?」
田中(羽? ……自分の羽音?)
目を開く。
視界は複眼風。
イチロー(視界広っ!)
巨大な草。
巨大な葉。
巨大な石。
イチロー「ジャングル?」
浮かび上がるイチロー
イチロー「って、俺、浮いてる!?飛んでる!?」
水たまりを覗く。
水面に映る一匹の蚊。
黒い細い体。
六本脚。
羽。
イチロー「………」
イチロー「俺、蚊になってるーーー!!」
イチロー「あーなるほど!」
気を取り直して。
異世界テンプレを思い浮かべる
ドラゴン。
勇者。
魔王。
女神。
イチロー「そうか、これが異世界転生ってヤツか!」
イチロー「俺にも来たか!」
イチロー「ってかなんで”蚊”なんだよっ!」
絶叫ツッコミ
イチロー「なんで害虫ルートなんだよ!!せめて魔物にしろ!」
ドラゴン・スライム・吸血鬼が並ぶ。
しかしよりによって虫……しかも蚊
ふと、何か思いだす。
イチロー「……あ。……そういや最後にチューしたいって思ったな。」
血をチューチュー吸うイメージ
イチロー「ちがうんだよぉぉぉぉ!」
〇草陰
イチロー「まぁ落ち着け。」
働きアリ。
働きバチ。
残業している虫のイメージ
イチロー「虫になってまで、働くのはイヤだ。そう考えれば蚊の方がマシ?」
しばらく悩む様子
すぐに思考を切り替える
イチロー「転生モノってえば、お約束のアレがある!」
ポーズを決めて……
イチロー「ステータスオープン!!」
青白いウィンドウ出現。
イチロー「キターーー!!」
ステータス表示。
【ステータス】
名前:イチロー(田中一郎)
種族:アカイエカ(オス)
Lv:1
HP:0.01
MP:0.01
体力:0.01
筋力:0.01
耐久:0.01
魔力:0.01
幸運:0.01
スピード:5
スキル
・血を吸う Lv1
固まる蚊の田中一郎。
沈黙……
そして大ツッコミ。
イチロー「全部0.01って何だよ!!」
イチロー「風で飛ばされただけで死ぬだろこれ!」
スピードの数値だけ輝く。
”スピード:5”
イチロー「500倍!!……いや比較対象が0.01だし。」
喜んですぐ落ち込む
その後スキルを見る。
”血を吸う Lv1”
イチロー「いやデフォルトの能力だよねっ!!」
イチロー「それスキルじゃねぇ!」
イチロー「あ、でも……血を吸うのは雌だけだっけ?」
イチロー「……TS転生?」
ステータス。
”種族:アカイエカ(オス)”
イチロー「……オスじゃねぇか!!」
イチロー「つまり俺は……本来は血を吸わないオスなのに……血を吸える特別な蚊!」
キメ顔で羽を震わせ……数秒後。
イチロー「全然うれしくねぇ!」
〇 草むら、草の影
茂みの葉っぱに座り込み、ぐったりしている蚊・イチロー。
イチロー「はぁ……チート能力とか期待した俺がバカだった……」
イチロー「蚊のステータスとしては妥当なのかもしれないけどさ……」
腹がキリキリ。
空腹を感じる。
吸血衝動が沸き上がる
イチロー「……空腹?いや血が吸いたい。」
周囲を見渡す。
草むらだけ。
遠くにアリ。
巨大アリ。
イチロー「デカッ!無理だろっ!」
血を求めて彷徨う蚊
〇森の出口。
光が差す。
人影。
三人組の冒険者。
剣士。
魔法使い。
斥候。
イチロー「おおお!!人間だぁぁ!!」
テンションMAX。
さっそく近づく
ブゥゥゥ……
女魔法使いがピクリ。
女魔法使い「ん?……蚊?」
杖をフルスイング。
ブォン!!
風圧で吹っ飛ぶ。
イチロー「ぎゃあああ!!」
地面へ激突。
イチロー「待て待て!俺、前世日本人!」
当然聞こえるわけがない
女魔法使い「あー、蚊がいるなんて最悪。」
剣士「おい、来るぞ!」
斥候「スライムだ!」
戦闘が始まる
物陰から見つめるイチロー
ズバッ!
ドゴォ!
数秒後。
スライム撃破。
冒険者たちは去っていく。
〇スライムの残骸を前にして
イチローの腹が鳴る。
倒れたスライム。
イチロー「これ……まだ生きてる?……吸えるんじゃね?」
針を刺す。
吸う。
ちゅるるる……
ゼリーのような食感
イチロー「一秒ゼリーかよ。」
転生しても食事がゼリー……遠い目をする
突然ウィンドウが開く。
【新スキル獲得】
捕食 Lv1
形状変化 Lv1
イチロー「えっ?スキルが……増えたぁぁぁ!!」
大喜び
イチロー「これはあれだな?まずは検証が大事……捕食からだ!」
落ち葉へ針を刺す。
チクッ。
葉っぱは少し溶けただけ。
イチロー「………」
イチロー「取り込めねぇじゃねぇか!!」
口(針)を見る。
真顔。
イチロー「この針でどうやって捕食しろと?」
頭を抱える。
イチロー「使えねぇ!」
ぐったり。
もう一度ステータスを見る。```
形状変化 Lv1
考える。
イチロー「……わからん。」
空腹を感じる。
イチロー「……やっぱ血だ。」
〇冒険者たちの野営地
茂みの隙間から冒険者を見つめる。
女魔法使いの首筋がアップ。
イチロー「……やっぱ美女の血だよな。」
覚悟を決め、羽を震わせるイチロー。
冒険者たちが野営の準備を始める。
剣士は薪集め。
斥候は周囲を警戒。
女魔法使いは火を起こし、鍋をかける。
三人で食事。
酒を飲みながら笑い合う。
イチロー「……いいなぁ。」
木の枝から眺めるイチロー。
イチロー「俺も人間のまま冒険したかった……。」
夜も更ける。
焚き火だけが揺れている。
女魔法使いが立ち上がる。
女魔法使い「ちょっと疲れたから、先に休むね。」
テントへ向かう後ろ姿。
後を追って、テントの隙間からこっそり侵入する蚊。
天井近くに止まる。
女冒険者をじっと眺める
服を脱ぎ、全裸になって身体を拭いている
抜群のプロポーション。
前世であれば鼻血モノの最高のエロシチュエーション
なのに……
イチロー「何も感じねぇ……」
イチロー「本能まで蚊仕様かよ……。」
寝静まった女冒険者の側にそっと降りる。
首筋へゆっくり近づく。
イチロー「いただきます。」
チクッ
吸血。
ちゅるるる……
突然、顔をしかめる。
イチロー「……ん?エグッ」
思わず離れる。
首をかしげる。
イチロー「何だこの味?」
女魔法使いを見る。
呼吸が荒い。
額には汗。
イチロー「まさか……毒か!」
テント内を飛び回る。
ブゥゥゥ!
眼下には苦しむ女魔法使い
イチロー「治してやりたいが、俺の持ってる毒スキルじゃ、毒を与えるだけだしな」
ひらめく
イチロー「薬!」
冒険者たちの荷物が置いてあるテントへ移動。
ポーション。
薬草。
小瓶が並ぶ。
イチロー「あった!」
毒消しと書いてある小瓶
しかし瓶を動かそうとしてもびくともしない。
全力で押す。
ぬぬぬぬ……
動かない
疲労困憊。
イチロー「蚊の筋力0.01を舐めてた……。」
考え込む。
ひらめく
形状変化 Lv1
イチロー「これだ!」
小瓶へ覆いかぶさる。
吸い込む。
瓶が消える。
大喜び。
イチロー「収納成功!……これって、他のものにも使えるんじゃね
?」
勢いに乗る。
ポーション。
薬草。
毒消し。
手当たり次第収納していく。
途中でフラフラ。
倒れる。
イチロー「MP切れぇ?っていうか、切れるほどMPないけどな……」
ステータスウィンドウの表示
収納限界の表示
そして、新スキル獲得
『亜空間調合』
目を丸くする。
イチロー「また増えた!」
調合メニュー表示。
ハイポーション
毒消し
万能毒消し
スクロール。……2P目……
強化精力剤
真顔。
メニューを閉じる。
イチロー「……見なかったことにしよう。」
〇 女魔法使いのテント
万能毒消し生成。
女魔法使いの元へ戻る。
慎重に針を刺す。
少しずつ薬を送り込む。
苦しそうだった眉が緩む。
呼吸が落ち着く。
額の汗も引く。
穏やかな寝息。
イチロー「助かったみたいだな……。」
ステータスを見る。
捕食
形状変化
亜空間調合
それぞれレベルが上がっている
そしてそれ以外にもスキルが増えていた
イチロー「つまり、俺は血を吸うことで、相手のスキルをコピーできるってわけだ。これって十分チートじゃね?……MPがあれば」
ほぼすべてのスキルにMP不足の表示
MPの数値0.01
ため息をつく蚊
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