21. 民衆に広がる反応
物品管理室で鑑定を終えたリコリスがヴォルクと合流して教会の門を出ると、白い日差しが目を打った。
門前に人が立っていた。市場帰りの女や日雇いの男たちが五、六人、足を止めて教会の方を見ている。リコリスがフードの中から視界を狭めて歩き出すと、一人の女が声を上げた。
「あの方だ」
何人かがこちらを向いた。歩調を変えずに通り過ぎようとしたが、背後から重なるように呼びかけられた。
「銀の髪の方。修道士を治したと」
「触れてもらえば……」
手が伸びてきた。リコリスは半歩退いて避けた。
女は、怒りでも欲でもない。縋るような目をしている。
「息子が三日前から熱を出して。お願いです」
リコリスは口を開きかけて、閉じた。
この女の息子を治す方法など自分は知らない。自分は、そういうものではない。破滅を選んで与えるのではなく、勝手に起きてしまう。癒しとは真逆の位置にいる人間だ。
だが、そう説明することはできない。
「……申し訳ありません」
女を避けて足を速めると、横からヴォルクの腕が差し込まれた。
「行くぞ」
ヴォルクが人垣の間に体を入れ、リコリスの肩を押して道を作った。
「お待ちください」
「こちらを向いてください」
路地を二つ曲がると静かになった。ヴォルクの歩調が落ちた。
「増えたな」
「……うん」
教会の中で収まっていた反応が、今はじわじわと民衆にまで広がっている。
「どうしたら……」
ヴォルクは答えなかった。リコリスはフードの奥に顔を沈めた。
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いつも通りマルコから伝達を受けたヴォルクが館の二階に上がると、レオーネは書類を広げたまま待っていた。卓の杯には口をつけた形跡がない。珍しくダリオは不在だった。
「教会が列聖審査を動かした。反証者が来ている。聖人候補の奇跡を検証する役だ」
過去、ある貴族が亡くなった娘を列聖させようとした。証言を金で買い集め、奇跡の評判を作ったが、反証者がそれを事実で退けた。教会の告発をもとに警邏が動き、貴族は処罰された。
反証者は、教会が自前で設けた関門なのだ。退けないかぎり列聖は成らない。逆に言えば、反証されれば列聖は成されない。
レオーネは書類の一枚を指で叩いた。
「聴取にリリスを出す必要がある。拒めば疑いが深まるだけだ。事実を言えばいい。偶然人が回復した、何もしていないのだと」
列聖が止まるなら崇拝も冷めるだろう。教会の中でもリコリスを見る目は信奉の色に変わり、門前の群衆も増えている。反証者の存在はむしろ都合がいい。
「出す」
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