第25話 いけ好かない男

 数日後、体育の時間に再びリレーの練習が実施された。


「「「おおぉ……!」」」


 他のメンバーから歓声が上がる。

 走り終えた俺は、それをゴール地点から聞いていた。


「驚いたわ。このあいだのテストランがウソみたいね……!」

「まさかこの短期間でこんなにも変わるものだとは」

「いやあ、俺はアニキを信じてたぞ!」


 早川を筆頭に、俺の走りへの感想を述べるクラスメイトたち。


 変わってなきゃ困る。

 ここ数日、あかねに付き合ってもらいながらとにかくフォームを意識して走った。

 

 結果、当初の人並み以下から人並みくらいまでにはタイムが縮んだ。

 問題は人並みくらいまでしか縮んでないことだな。


「ヒーロくん」


 と、呼吸を整えていたところに学園一のアイドルこと、西園寺さいおんじ知慧ちさとが寄ってくる。


「ねえねえ。何をどうしたらこんなに速くなったん?」

「さあな」


 努力をひけらかす趣味は無いのでここ数日走り込んでいたことは黙っておく。


「あー、分かった、分かった。あたし、すべて理解した」

「なにを?」

「あれっしょ。愛の力っしょ?」

「……知らん」


 当たらずも遠からずな気がした俺は、一瞬黙り込んだ上に照れ隠しのような言葉を吐いてしまった。


 無論、西園寺に付け入る隙を与えてしまったことになる。


「はい、図星ー。顔赤いよ?」

「走った後だから」

「分かる。茜にいいところ見せたくて頑張ってるんだよね?」

「ああ、そうだ、が……?」


 違和感。


 なぜ、俺と茜のニセ恋人関係を知っているこいつが、二人きりの場面でわざわざこんなことを言ってくる……?


「おい、西園寺。俺と茜の関係は聞いてるよな?」

「うん、聞いたよ」

「だったら今この場で俺をおちょくる意味は無くないか?」

「あるよ。だって——」


 西園寺は不敵な笑みでささやく。


「きみ、茜のこと本気でしょ」

「……」

 

 思考が停止した。

 どうしてバレたんだ?


「今、必死で取り繕うとしてるね」

「……意地悪な友達だな」

「二人でわたしのこと騙してたんだし、これくらいは許されない?」


 それを引き合いに出されるとぐうの音も出ない。


「どうして俺の好意がホンモノだと?」

「あはっ。そりゃあ、これだけコミュニケーションを交わせば分かるくない?」


 それはコミュニケーション強者の西園寺だから言えることではないのだろうか。それとも世間一般の人間なら誰しも分かることなのだろうか。


 いずれにせよ、テレパシーが無ければ陰キャぼっちコミュ障でしかない俺には理解不能な理論でしかなかった。


「しかもさ。……ヒロくん、ぶっちゃけ気付いてるっしょ?」

「……」


 背中に冷や汗が伝う。


「何のことだ」

「しらばっくれんなしー。あの子の本当の気持ちだよ」


 すげえなコミュ強。

 何をどうしてか知らんが、その真相にたどり着くとは。


 たぶん、隠しても無駄なのだろう。俺は観念して腹を割る。


「どうして分かったんだ」


「ヒロくん。きみには、『相手から本当に好かれているかどうか分かってない奴』特有の挙動不審さみたいなのが無さ過ぎるんだよ。『茜は俺のことが好きだ』って、安心してる感がある。端的に言うと余裕みたいな」


「それだけ聞くといけ好かない男にしか聞こえねえぞ」


「いけ好かない男でしょ、きみは」


 まあ、そうだよな。

 茜の気持ちを知っておいて、そのままにしてきたわけだし。


 ただ、これはテレパシーが使える以上は仕方ないとも言えるだろう。相手の本音をいやでも知ってしまうから、良くも悪くも余裕があるように見えるのかもしれない。


 こんなふうに自分自身の能力が故に足元をすくわれそうになるなんて、予想だにしなかったけれど。


「でもさ。なんか決心したんでしょ? 顔つきが違うもん。少し前まで何かに迷ってるようなカンジだったのに」


「……すごいな西園寺。もしかしてテレパシー使える?」

「なわけ」


 だよなあ。ちなみに俺は使えるぞ。


 なんてカミングアウトしたら実験体として研究機関に提供されそうな極秘情報は伏せて続ける。


「逃げないって決めたんだよ。せめて好きになった相手だけには誠実でありたい」

「ふうん、そっか」


 西園寺は満足そうに口角を上げる。


「ま、応援する気はあっても邪魔する気は無いから。ほら、きみのお姫様が走ってくるよ」


 視線の先を見れば、体育服姿の茜がポニーテールを颯爽と揺らしながら駆けてくる。


 今更ながらめちゃくちゃ速い。なんでも、スタイル維持の一環でダッシュ系のトレーニングにも取り組んでいるのだとか。


「茜、ナイスランじゃん」


「ありがとうございます、知慧。ヒロくんを目指して走ったら、思いのほかスピードが出ちゃいました♪」


「もう私の前で恋人のフリはしなくていいのではー? にやにや」


「こ、これはそのっ。役作りは徹底的にっていうか。ほら、知慧の前でだけよそよそしいのはなんか違うじゃないですかっ」


「ふうーん?」


「も、もうっ。知慧っ!」


 顔を真っ赤にして、何やら言いたげな茜。

 親友の心を手玉にとる西園寺。


 恐らく二人は俺のいないところで、本心を晒し合ったのだろう。

 茜はきっと、俺への恋心を親友に打ち明けている。

 きちんと声にして伝えたのだ、きっと。


「……」


 俺がすべてを伝えたとき、茜がこんな風に笑っている日常を変わらず送れるだろうか。


「ヒロくん、どしたん?」

「知慧に意地悪でもされましたか?」


 内心が顔に出ていたのだろう、二人がこちらを心配そうに見つめている。


「……いや、なんでもない! それよりもう一回走らせてくれ」


 俺は不安をかき消すように、スタート地点へと急いだ。




———————————————————————————


お読みいただきありがとうございます!

皆様からの応援やコメントが、執筆の励みとなります。


もしこの作品を「面白い」「続きが気になる」と思って頂けましたら、ぜひページ下部の「★で称える」からのご評価や、作品のフォローなどで応援して頂けますと幸いです。


今後の活動のモチベーションに繋がりますので、何卒よろしくお願いいたします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る