2話・群れのリーダー

 昼休み。

 教室は弁当を食べる生徒で賑わっていた。

 俺も紗希さきも、窓側の席で昼食を取っていた。

 その間俺の頭には、朝に見たあの怪しそうな格好をした男2人組のことが頭から離れなかった。

 つい上の空になっていると、紗希が言ってくる。


「どうしたの?なんかボーッとしてるけど」


「ん。いや、朝にな、変な格好した男2人組が森の中に入っていったのを見て、そいつらが無性に気になってしょうがなくてな」


「へぇ」


 紗希はそんな人居たっけ、と呟き再び目線を弁当に戻した。

 何故だろう。何故かあの森が気になる。

 ——それに、あのキィィィンという音が聞こえた気がしたが、アレは一体なんだったのかも気になる。


「じゃあさ、学校終わったら行ってみない?」


 紗希が言った。


「その森にか?」


「そうだよ?そこ以外にどこがあるの?」


「…そうだな。行ってみよう」


 危険かもしれないが、少しだけならいいだろう。とは言っても細心の注意を払わないといけないな。

 いくらこの辺に肉食生物の目撃情報が少ないとは言っても、いないというわけではない。それに奴らも生物だから、移動することだってある。

 瞬間、窓から刺す光が一瞬途絶えた。教室中の視線が窓に向けられる。その方向を見てみると、巨大な翼竜が向こうに飛んでいくのが見えた。教室の中は少しだけザワめいていた。

 紗希は席を立ち、窓に近づく。


「凄いおっきい!悠太ゆうた、あれはなんていう恐竜なの?」


 俺も窓に近づき、目を凝らしてその翼竜の特徴を見てみる。

 その翼竜は、巨大な翼と巨大なクチバシを持っていた。翼を広げている姿を見ていると、自然と飛行機が連想される。


「あれは、ケツァルコアトルスだな。史上最大級の翼竜だ」


「すごいおっきい、飛行機みたい」


「確かに、生でケツァルコを見るのは初だな」


「ケツァルコって略すんだ」


「あぁ、俺はこっちの方が良いやすいから言ってる」


 とんでもなく大きな翼竜とは聞いていたが、まさかここまで大きいとは思っていなかった。

 俺と紗希はしばらく、向こうに飛んでいくケツァルコを眺めた。



 放課後。

 教室にいる生徒の数も少なくなってきたところで、俺達も帰路に着くことにする。だが、家に帰る前に一度朝に見たあの森の中に少しだけ入ってみる。

 場所は覚えている。この辺のはずだ。

 周りは特になにもない。だが、かなり入り組んだように見える。音は木の葉が風で擦れる音しか聞こえない。


「入るの?」


「あぁ。少しだけな」


「凄い入り組んでるから、迷子にならないようにしないと」


 周りの音や影に注意を払って、その森の中に入っていく。

 森の中は、微かに薄暗く不気味な雰囲気を漂わせていた。ただの風で擦れる木の葉の音1つ1つが、何かが通った音だと勘違いしてしまうほどには、不気味な空気感がある。


「…ちょっとだけって言っても…どこまでいくの?」


 体をすくめている紗希が訊いてくる。


「あと少しぐらいで引き返そう…。流石に危険な気がす——」


 そう言いかけた瞬間、キィィィンという鳴き声と金属同士がぶつかり合う音が同時に聞こえてきた。朝にも聞いた鳴き声が再び聞こえた。

 あまりの急な出来事に、紗希は先ほどよりも体を竦めて、俺の袖を掴んでくる。


「な…なにいまの…」


「わ…わからない」


 急すぎて言葉が出ない。

 今も向こうで、か細い鳴き声が聞こえてくる。

 俺はその鳴き声と金属同士がぶつかった音に違和感を覚えた。


「金属がぶつかる音…まさか…」


 生物が罠にかかっているのか?だとしたら、助けてやらないと。

 このような世界になってからも、違法なハンター達の悪事は止まらなかった。それどころか、恐竜や古代絶滅動物の鱗や毛皮は貴重だからと高く値が付くらしい。

 もしや朝に見た男2人組は、この罠を仕掛けるために…。


「紗希は先に戻ってくれ」


「え?悠太は?」


「俺は金属がぶつかった音の原因を見てくる」


「ほ…本気?絶対なんかが掛かってるのに」


「だからこそだろ。罠に掛かってるなら、助けてやらないといけないだろ」


「わ…わかったけど、気をつけてよ。明日から私1人で登校とか…絶対嫌だからね…」


 彼女はそう言って、来た道を戻って行った。

 さてどうするか。罠に掛かっているのが肉食か草食かで危険度は変わってくる。さらに、群れで行動している肉食生物だったら、助けようとするのはもちろん、近づくのも危険。少し離れたところから様子を見てみよう。

 俺は木々の影に身を隠しながら、音のする方まで静かに歩いていく。

 木々の間から少しだけ顔を出して、音のする方を見る。するとそこには、人間よりも少し大きめの肉食恐竜が1匹、トラバサミにかかっているのが見えた。


「あ…あれは…」


 発達した前腕、鎌状の鋭い爪、ガッチリとした後足。間違いない、あれは“ユタラプトル”だ。


「よりにもよって肉食か…」


 あの爪で引っ掻かれれば、致命傷は避けられないだろう。ましてや成人ではない子供なら、場所によっては一発で死ぬかもしれない。近づけば死ぬかもしれないという恐怖が身体の奥から昇ってきた。

 そんな時、罠に掛かっているユタラプトルの鳴き方が変わった。甲高く、仲間を呼ぶような鳴き方に変わった。


「この鳴き方…。仲間が来る前に早く罠を解いてやった方がいいな」


 死ぬ可能性は大いにある。でも、何がなんでも違法なハンター達の金儲けなんかのために見過ごすなんて、俺にはできない。

 …怖いが、やるしかない。肉食恐竜を、俺の手で助けるんだ。

 勇気を出して、そのユタラプトルへと距離を縮めていく——


続く

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この世は、恐竜、古代絶滅動物で溢れていた @NIMEMOTUTUME

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