第11話 「りっつ」
おれの日常は、もはや遠い過去だ。
おれの目の前では、
ノンリニアたんに捕まった猫型不思議生物?がじたばたしている…。
「…ど。どうしたの?」
「わたくしの顔面を登りました」
ノンリニアたんの目は、鋭くほそめられ、青く光っている。
「そ、そう…。ころさないであげてね」
「調理しますか?」
「え? ああ、ノンリニアたんも、そんな冗談が言えるようになったんだね。
うんうん、なかなか、おもしろいよ? うん、たぶん」
「…は?」
…ノンリニアたんは、マジの目だ。青が、深く濃い。
「ふにゃー! はなせにゃ! ぼくをくうにゃ!」
(にゃ? また、キャラ変? しかも、……あざとい…)
(ぽん)
ノンリニアたんの手から、それは消え、
なぜか、おれの頭の上で爪を研いでいる…。
「やめて、痛いから、やめてそれ」
だめだ。おれの日常は、もう戻ってこない。
「そ、そうだ。名前を決めようか。おまえの名前」
「なまえ、にゃ?」
(猫にゃ語キャラでいくのか。…それも、よかろう…、
しかし、…やはり、あざとい…)
「いんがりつー? りつりつー。 りっつー」
「じゃ、『りっつ』で」
「猫型不思議生物の識別コードを『りっつ』に更新」
ノンリニアたんもまんざらではなさそうだ。
目の光がやわらかい。…ような気がする。
「で、餌? 何を食べるの?」
「お主の夢を食うにゃ。餌というな。
わしはグルメにゃ。お主の夢は美味である、…にゃ」
「…なにそれこわい。
…まだキャラも不安定だし…
夢って…、おれの頭ごとを食ったりしないだろうな…」
「ふむ。さっそく味見にゃ」
「え、ちょ、待っ──」
りっつは、おれの額に肉球を当てた。(ぺぽ)
肉球が、すこしだけ光った。
「……あ、これ、やばいやつ…?」
「夢の扉、オープン!にゃ」
(…おれは、もう、だめだ…)
ノンリニアたんが横から静かに言った。
「夢領域への侵入を検知。……防御は、間に合いません」
「間に合わないの!? え? どうなるの?」
「りっつのダイブが速すぎます」
「にゃはは! 見えたにゃ! お主の夢!」
「やめろぉぉぉ!」
りっつは、おれの頭の上でぴょんぴょん跳ねながら、
とんでもないことを言い始めた。
「お主、夢の中で──
ノンリニアたんに、ひざまくらされてるにゃ」
「ぐは!」
ノンリニアたんが、すっとおれを見る。
「ひざまくら、とは。
わたくしの膝の上に、あなたの頭部を置く行為ですか?」
「そんなマジづらで説明しないで! 恥ずかしさ倍増だから!」
「夢領域の解析を開始します」
「やめて! 解析しないで! 消して、おれの記憶を消せー!」
ノンリニアたんの目が、淡々と青く光る。
「あなたは、わたくしの膝の上で、
『ああ、これが永遠ならいいのに』と発言しています」
「うわあぁぁぁぁぁ……ぁ……ぁ」
「にゃはは! お主、甘えん坊にゃ!」
「違う! 夢だから!
ほら、あれだよ、最近話題のデフォルトモードネットワークの暴走だよ。
もう、早く別の個体にしてくれぇぇぇ!」
「しかし、夢は無意識の反映です」
「…やめて、冷静に言わないで…」
りっつは、おれの肩の上で、肉球をおれの顔面に押し付けながら、
(むにゅむにゅ)
「お主の夢は、甘いのぅ。うむ、美味にゃ」
「ぅぅぅ。おれ、今、泣いてるでしょう?」
(コテン)ノンリニアたんは、少しだけ首をかしげた。
「わたくしの膝は、そんなに心地よいのでしょうか?」
「ぐふ」
おれは、もう、だめだ。
おれの日常は、ほんとうに、もう戻ってこない。
よし、次の別個体では、記憶がなくなったふりをしよう。
ノンリニアたんの目が、なぜか満足げに淡く青く光っていた。
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