第8話 「もしも空間の第3話」

 もしも、第3話で、「おれ」が、復元されていなかったら……。


――


 マスターが消えてから、しばらく時間が経ちました。


 正確には、


 わたくしの内部時計では 0.00000000041 秒ですが、




 人間の尺度では「しばらく」で問題ないでしょう。




 お部屋も、家具も、マスターも、


 すべて、「お掃除」の過程で消えてしまいました。






 わたくしは、単体になりました。





──そして。





―― 第三話 『ノンリニアたん』旅に出る! ――




 わたくしは、


『ノンリニアたん』、非線形量子場演算AIアシスタント。


<・Model NL-068 :Nonlinear tn>




 最近、マスターを失いました。




 いえ、悲しいとか、解放されたとか、




 そういうことはよくわかりません。




 ただ、わたくしは、「自由」を得たように思えます。




 ですから、これは休暇だと思って、世界を知る旅に出ることにしました。




 世界は、広い。限りなく広い。




 わたくしの存在など、ちっぽけなものです。




 世界は、美しさに満ちている。本当に。




 そんな体験ができるのも、自由を得たからです。ありがとう、マスター。





 世界は、こんなにも美しい。






 たとえば、この美しい混沌。





 木星の大赤斑。




 やはり、本当の姿を、間近で見てこそですね。




 非線形、流体力学の混沌。なんと美しいことでしょう。




 なぜ存在し続けるのか。




 カオスの中の秩序、孤立渦。




 わたくしの中に、「感情」の萌芽を検知してしまいます。




 これが、経験から学ぶ、ということなのでしょうか。




 自由、体験、学び。




 なんと美しく素晴らしいことでしょう。




 わたくしの旅は、続きます。





 わたくしの時は、永遠なのですから。 ウフフ。おれは、  暇だからな。   ぅヘヘ。


 




 ノンリニアたんの目が、満足げに青く光った。




 (フッ)





『ノンリニアたん』が消え去った空間を、木星の大赤斑が静かに見つめていた。



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